第047話 名前

「神紋は決定しましたが、神社名は決めましたか?」


 辻堂が光聖に尋ねる。


「それがイマイチ決まんなくてなぁ。もう清神神社でいいんじゃないかと思ってる」


 自分以外の物に関する名づけは思いつくが、正直自分が祀られる神社の名前と言われてもイメージが湧かない。


 いくら考えても思いつかず、埒が明かないため、シンプルに名字を名前にしてみた。


「分かりました。この神社は清神神――」

「異議あり!!」


 辻堂が決定を下す前に守が立ち上がってビシリとポーズを決める。


 そのポーズを見て、過去のゲームを思い出し、懐かしさと可笑しさを感じた。


 守が真剣なのがなおさらツボに入るが、必死に笑いを堪える。


「どうされましたか?」

「確かに清神神社は悪くないと思います。でも、清神という名字は一人じゃない。それに清神神社は他にもあります。それでは光聖の唯一性が伝わらないと思うんです」

「それは確かにそうですが……」


 守の話も一理あるが、そこまで名前にこだわる必要はあるのだろうか。まだあまり実感があるわけじゃないが、現人神がいる神社というだけで唯一性は十分だと思う。


「そこで俺は清神光聖神社を提案したいと思います」

「いや、流石にそれは自己主張が激しすぎないか? 長いし」


 そこまで神社の名前に文句をつけるわけじゃないが、自分の名前そのままの神社というのは少々恥ずかしい。


「そうですねぇ、私も語呂が悪いと思います」


 辻堂が意見を言うと、他の参加者もうんうんと頷いた。


「くっ……それじゃあ、光聖神社で」

「それならまぁ、ありと言えばありか」


 反論されて名前を短く妥協する守。


 神様の名前がついた神社も多い。このくらいは許容範囲だろう。


 しかし、やっぱり清神神社に比べるとどうしても語感が良くない。


「なんにせよ、いろんな名前を模索してもいいかもしれませんよ」

「そうだな。朱莉の言う通り、話していたらいい名前も思いつくかもしれません」


 朱莉の言葉に辻堂が同意し、他の人の意見も聞くことになった。


「ちなみに私は白い狐と書いて、白狐はくこ神社という名前がいいと思います」

「どう考えてもタマじゃないか」

「いえ、光聖様の力の純白さとタマちゃんの白さを掛けているんです」

「ものは言いようだな」


 まず、辻堂が先陣を切って名前を上げる。


 神紋のアイディアの発表会の時、辻堂以外がタマのモチーフを入れているのに対して悔しがっていたので、ここぞとばかりにタマの要素を入れてきた。


 おそらくタマのご機嫌を取るためだろう。


 光聖が指摘しても悪びれることもなく、辻堂はチラチラとタマの方を見ながら自信ありげに鼻で笑った。


「キュッ!!」

「そんなぁ~」


 しかし、タマは不機嫌そうに顔を逸らし、辻堂は机に突っ伏すことに。


 残念ながら辻堂の試みは裏目に出たらしい。


 自業自得だ。


「あなたは相変わらずねぇ。私はそうねぇ……うーん、光聖様の光に祝福の福で、光福神社っていうのはどうかしら?」


 旦那の打算しかないネーミングに呆れつつ、朱莉が次の名前を提案する。


「おおっ、その名前は良いですね!!」


 朱莉の提案に全身で喜びを露わにする守。


「悪くはないと思うけど、しっくりこないなぁ」

「そうですかぁ……いい名前だと思ったんですが」


 込められている意味は良いと思うが、やっぱり読んだ時のリズム感が気になる。光福寺、だったらピッタリなんだが……。


「残念だったね、ママ。ここは私がいただくよ。栄えるに、祝福の福で、栄福神社。現人神の光聖様がいることで、繁栄と祝福が訪れるという意味でピッタリだと思うんだよね」


 親子らしく辻堂に似たドヤ顔で提案するのは静音。


 しかし、親とは似ても似つかないほどに真っ当な名前だった。


「ほほう。なかなか悪くないと思う。暫定一位を上げよう」

「やったね」


 清神神社程すわりはよくないが、これまでの中で一番良いと思う。


 このままだと栄福神社に決まりだ。


 そして、大トリは伽羅。


「……光聖様の光に、宝玉の玉で、光玉みたま神社っていうのはどうでしょうか?」


 彼女はしばく考え込んだ末、一つの名前を絞り出した。


 その名前は他のどれもよりも頭にスッと入ってくる。


「おい、お前は本当に伽羅か!? 何かに憑りつかれてるんじゃないだろうな?」

「先輩、それは酷くないですか!?」

「確かに舞華ちゃんってちょっと天然さんだものねぇ」

「舞華さんはただの食いしん坊だと思ってた」

「朱莉さんに静音ちゃんまで!?」


 訝し気な視線で伽羅を見つめる辻堂と、辛辣な朱莉と静音。


 三人の反応を見て伽羅は衝撃を受けている。


「凄く良いと思う。玉っていうのはタマのことか?」

「はぁ……そうですね。光聖様の光と、タマちゃんの名前を入れつつ、宝石や宝物を示す玉という漢字に置き換えました。みつたまと呼んでもいいかと思ったんですが、みたまと読んで御魂に掛けるのがいいかなと」

「なるほど」


 名前の由来を尋ねると、結構しっかり考えられていた。


 光聖は伽羅との付き合いは長くないし、深く彼女を知っているわけでもない。


 ただ、普段の言動や行動を思い返すと、辻堂たちの言う通り、伽羅がここまで考えていたのは意外だった。


 最後の最後でまさかのダークホースがいたとは……。


「これで一応全員の案が出そろいましたが、どうですか?」


 光聖の反応ですでに答えは分かっているだろうが、辻堂が改めて確認を取る。


「俺は伽羅さんが考えてくれた光玉神社がいいと思うんだが、どうだ?」

「私は構いません」

「私も舞華ちゃんの案がいいと思います」

「残念だけど、私も舞華さんの案に賛成します」


 辻堂、朱莉、静音が順番に首を縦に振っていく。


「いや、俺は光――」

「それじゃあ、名前は光玉神社ということで」


 守が何か言いたげだが、多数決により答えは明らか。


 無視して神社の名前は光玉みたま神社に決定した。


「それでは名前も神紋も決まりましたし、祭りに向けて一丸となって頑張っていきましょう!!」

「「「「おおーっ!!」」」」

「おいっ、俺はまだ――」

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