第046話 発表会

「結局どれもしっくりこなかった……」


 畳に座る光聖は自室のベッドに背を預けて天井を見上げた。


 周りには色んな模様が描かれた紙が散乱している。


 明日は皆で集まってお互いに考えた神紋を発表し合う予定になっているというのにまだ何も決まっていない。


 神紋が持つ固い雰囲気を守るべきか、自由に決められる利点を最大限に利用して自由な雰囲気にするべきか。


 悩みながら何度も書いてみているが、どうにもうまくまとまらない。


「キュウ……」


 タマが隣でガックリと肩を落としてしょんぼりとしている。


 自信満々だったのに役に立たなかったとでも思っているのだろう。


「大丈夫だ。色々手伝ってくれてありがとな。とりあえず、それらしいのを提案してみよう」

「キュッ」


 タマは大人しく撫でられながら鳴いた。




 そして、翌日。


「それでは、今日は皆さんが考えてきた神紋を発表してもらいたいと思います。順番は、私、朱莉、静音、伽羅、天童さん、そして最後に光聖様でいきましょう」


 再び予定を合わせて全員が集まり、神紋の発表会が開催された。


 辻堂が司会進行を務める。


「それでは私の案はこちらです」


 辻堂が紙に印刷した案を会議用に購入していたホワイトボードに張り付けた。


「ふむ。今までの流れを汲んでいる紋か」

「はい。なんといっても今の神社のシンボルは光聖様という現人神。光聖様の浄化の力が与える影響が大きいのでこのような紋にさせていただきました」


 辻堂の案は、丸の中に光と書かれているシンプルなもの。


 自分を客観視できていなかったが、他人から見れば、光聖は浄化の力が強力な神様に見えているらしい。


 元々神紋が持つ厳格さのようなものも失われていないし、悪くない


「でもちょっと物足りないと思うなぁ」

「そうねぇ」

「先輩もまだまだですね」

「そうですねぇ。光聖の光の字を使ったのは良いと思いますが、まだ足りませんね」


 他の参加者からは物足りなさを指摘されている。


「次は私の番ですね。私が考えたのはこちらです」


 次にホワイトボードに張り出されたのは、朱莉が考えた模様。


「これはなかなか面白いな」

「この神社と言えば、光聖様だけでなく、タマちゃんもいるので二人のイメージを組み合わせてみました」


 朱莉が考えてきたのはデフォルメされた狐の顔が中央にあり、その周りをキラキラした光を現すひし形のようなマークで囲ったもの。


 今までの神紋を程よく逸脱していて、硬い神紋に可愛いらしさが加わり、親しみやすさが出ている。


 それと、光聖の印象はキラキラとした神聖さにあることを知る。


「可愛らしさが足りないかなぁ」

「タマちゃんを押し出すのを失念していたとは……ぐぬぬっ」

「悪くないと思いますね」

「確かにタマも神社の一員ですが、やはり光聖を前面に出すべきかと」


 朱莉のマークは反応が分かれた。


「次は私ですね。私のはこれです」


 三番目に張り出されたのは静音が考えたマーク。


「可愛らしさが溢れているな。とてもいいと思うけど」

「はい。ここはやっぱりタマちゃんを全面的に押し出すべきかなって」

「なるほど」


 静音が考えたマークは肉球に、白抜きできつねのつを狐に見立てたような文字。


 神紋という分類からは外れ、ロゴマークみたいな感じだ。


 こういうのも好きだが、神社としてはいささか可愛すぎやしないだろうか。


 でも発想はとても柔軟でいいと思う。


「流石にキャピキャピし過ぎだろう」

「そうねぇ。私は好きだけど、ちょっと逸脱しすぎかしら」

「私はとってもいいと思います」

「光聖の要素がひとかけらもないので俺は好きになれませんねぇ」


 静音のマークも反応が分かれる結果となった。


「次は私ですか。私が考えたのはこれですね」


 四番目は伽羅。自信ありげにホワイトボードに自分の模様を張り出した。


「こ、これはユーモアがあるな……」

「でしょう? 光聖様は料理がお上手で、タマちゃんは狐。狐と言えばお揚げですからね」

「な、なるほどな……」


 伽羅が考えてきたのは、真ん中に稲荷寿司があって、それを手を円形に変形させて囲っているマーク。


 神社というより、稲荷寿司をメインに販売しているお店のロゴマークのようだ。


「神紋でこれはないだろう」

「だよねぇ。お腹が空いちゃうなぁ」

「そうねぇ。確かに何か食べたくなるわねぇ」

「光聖の手があるところは評価できますけど、神紋としてはナシですかねぇ」


 他の四人もあまり評価が良くない。


「なんですか!! めちゃくちゃいいでしょう!?」


 伽羅は反応が芳しくなくて皆に噛みつく。


「はいはい。とりあえず、そこまでだ。最後に守のを見せてくれ」

「おう。任せておけ」


 光聖が間に入って伽羅を止めて守にバトンを渡した。


 守が席を立ち、ホワイトボードに考えてきた案を張る。


「これはなしだろ」

「なんでだ!?」


 見た瞬間、却下した。


 守が考えてきたのが、デフォルメされた光聖が中心で錫杖を掲げていて、菱形のキラキラのマークが周りに輝き、全体をタマが走る姿を円形にしたようなもので囲っているものだった。


 タマが全体を覆っているのは良いが、自分はいらないだろう。


「なかなか悪くないと思いますが、いささか詰め込み過ぎですかねぇ」

「確かにちょっとごちゃごちゃしてるかも」

「そうねぇ。もう少しシンプルの方がいいかもしれませんねぇ」

「光聖様への愛は感じられますねぇ」


 他の皆は複雑になり過ぎていることを指摘している。


「それでは、最後に光聖様、お願いできますか?」

「分かった」


 これだけ個性的なマークの中でイマイチのマークを出すのは恥ずかしいが、仕方ない。


「俺のはこれだな」


 光聖はホワイトボードに自分が考えたマークを張り付ける。


「錫杖……ですか」

「そうだな」


 異世界では錫杖を主に使っていた。


 それが神官のイメージに合っているような気がしたため採用した。その周りをデフォルメされた一色のタマが囲っている。


「やはりタマちゃんは入れるべきでしたか……」

「もう少しひねりが欲しいかなぁ」

「そうねぇ。何かインパクトが欲しいですねぇ」

「食べ物の要素は入れるべきだと思います!!」

「おおっ。錫杖とタマ。やっぱり俺と光聖は通じ合っているな!!」


 自分があまりいいと思っていない以上、他の人たちの反応も仕方ないと言える。


「光聖様は、どれか気に入ったものはありますか?」

「うーん、どれもいいと思うが、イマイチしっくりこないんだよなぁ」


 各々個性があってとてもいいマークだったと思うが、自分のも含めてどれもどこかが足りない気がした。


「そうですか……」

「でも、それぞれの良い所を組み合わせたら、なんかできるんじゃないかと思う。ちょっと考えさせてくれ」

「分かりました」


 ただ、組み合わせ次第ではとてもいいマークになる気がする。


 光聖は紙とペンを使って考え始めた。


「あっ」


 その瞬間、天啓が落ちてきたように閃き、ペンを動かす。


「これでどうだ?」


 そして、出来上がったものを皆に見せた。


「おおっ、いいですね!!」

「慣習を残しつつ、ポップでいいかも」

「いいんじゃないでしょうか」

「ご飯要素がないのが気になりますが、良いと思います」

「光聖自身がいないのが不満だが、うまくまとまっていると思う」


 出来上がったのは、光の文字、錫杖、キラキラ、狐をまとめ、各々の提案のいいとこどりしたようなマークだ。


 少々不満点はあるものの総じて評価は得られたらしい。


「それじゃあ、これをこの神社の神紋にしよう」

「「「「「賛成!!」」」」」

「キュッ」


 こうして光聖は神紋を決めることができた。




――――――――

 作品をフォローしていただけますと、大変励みになります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る