第045話 現人神のお披露目に向けて

 今日は予定を合わせ、辻堂、伽羅、静音、朱莉、守が勢ぞろいしていた。


「えぇ~、ある程度準備が整ったので、そろそろ神社を開く件について話し合いたいと思います」


 辻堂が取り仕切って話を進める。


 どうやらお守りづくりを手伝った甲斐もあり、社務所を開く準備が整ったようだ。


「あっ、ちょっと待ってください」


 しかし、守が手を上げて話を遮った。


 守のやつ、何を言うつもりだ?


「天童さん、どうしました?」

「神社を開く時、お祭りとかやりませんか?」

「天童さん、ありがとうございます。それは私も考えていました」

「そうでしたか」


 確かに改めて神社を開くにあたり、お祭りを開くのはいいことだ。宣伝になるし、住民たちも楽しめる。二人ともよく考えてくれているみたいだ。


 俺もお祭りを開くのは賛成だ。


 小さい頃は祖父がこの時期忙しく、守の家族と祭りに参加していた。


 お祭りにくる人たちの顔には笑顔が溢れていたし、日本のお祭り特有の雰囲気が好きで、はしゃいで出店を回ったものだ。


 皆が同じように楽しい思い出を作れるのならぜひやってもらいたい。


「はい。今話に出た通り、折角神社を開くのに何もしないというのは、寂しいですし、光聖様を知ってもらうまたとないチャンスをむざむざと逃すのは非常に勿体ない。そこで、現人神降臨祭と銘打って盛大にお祭りを出来たら、と考えていました」

「それはいいですね!!」

「私も賛成するわ」

「私もいいと思う」

「ぜひやった方がいいと思います」

「満場一致ということで開催する方向で動きたいと思います」


 光聖以外の全員が名案だとばかりに、辻堂の意見に賛同する。


「おいおい、俺の意思は? そもそも現人神降臨祭ってなんだよ」


 光聖は、自分の意見を無視して進む会話に異議を唱えた。


「町中の人に光聖様が現人神だと知ってもらいたいですからね。お祭りの目的や、今街が賑わってきているのは誰のおかげなのか、きちんと周知しないといけませんよ」

「そういうものかぁ? 別に普通のお祭りでよくないか?」


 光聖としては、ただのんびり暮らしているだけなので、敬ってもらったり、感謝してもらう謂れはない。皆が幸せに暮らしているのならそれでいい。


 だから、わざわざ自分の力のおかげだと周知する必要性は感じなかった。


「俺はお前のおかげだと知ってもらいたいけどな」


 しかし、守がポツリと呟いて会話を遮る。


「え? なんでだよ?」

「だって、直接言えないにしろ、皆に俺の友達だちはすげぇんだぞって自慢してぇじゃねぇか」


 守の気持ちが理解できずに問い返すと、守は嬉しそうに笑った。


「光聖様と出会ってから凄く調子がいいですからね。ぜひ他の方にも知ってもらいたい」

「最近お肌の調子が凄くいいんですよねぇ。他の方にもご利益があって欲しいです」

「学校や家でのトラブルがなくなったとか、良い話しか聞かないから私も知って欲しいなって思います」

「私も仕事が減って最高の環境が手に入った――プギャッ」


 守に続いて他の人たちも同じようなことを真顔で述べる。


 伽羅だけは辻堂に拳骨を落とされていたが、それもご愛嬌というものだ。


 皆にそんなことを言われたら断れるはずもない。


「はいはい、分かったよ。現人神降臨祭でもなんでもしてくれ」

「ありがとうございます。それでは、天童さんには地元の若い人たちに根回しをお願いします」


 肩を竦める光聖に微笑ましい笑みを浮かべながら礼を言うと、辻堂は指示を出していく。


「分かりました」

「光聖様はご老人方に連絡とご協力のご依頼をお願いできますか?」


 ご老人というのは、この前神社に来た助六じいちゃんたちの事だろう。


 それに、祭りと言えば妖怪というイメージがある。念のため、大蝦蟇にも話を通しておいた方がいいかもしれないな。


 今度霊園に行って話しておこう。


「分かったよ」

「私たちは、社務所の最終チェックや打ち合わせの段取りを整えておきますね」


 辻堂の指示で守が動き出し、伽羅や朱莉、静音にも細かい話をし始める。


「あっ、光聖様、神紋と神社名を考えてもらってもいいですか?」


 しかし、光聖が電話を掛けようと思っていると、辻堂が思い出したように声を掛けてきた。


「神紋ってなんですか?」


 神社名は良いとして、神紋の意味が分からなかった。


「神紋って言うのは神様の家紋みたいなものですね」

「あぁ~、ひかえおろうですね?」


 家紋と言えば、時代劇でお馴染みのあの印籠のシーンが思い出される。


「そうです。それぞれの家に家紋があるように神様にも神紋があるんですよ。神紋は、神社の祭神や地域の名称、宮司家の家紋等が反映されるものですが、光聖様はご自身が降臨されておりますので、ご自分で考えられては、と思いまして」


 祖父が宮司をしていたので、元々の神紋を引き継ぎたいところだが、祖父も一緒に去った神様もそれは望んでいないだろう。


 光聖だけの神紋を考えた方が喜んでくれるはずだ。


 ただ、自分には神紋をデザインできるような知識はない。


「なるほど。でも、俺だけじゃ碌なアイディアは思いつきそうにない。できればみんなからも知恵を借りたいんだけど……」


 他の人が考えたデザインから新たな発想が出てくることもあるだろう。一人で考えるより絶対いいものができるはずだ。


「それでしたら、各々でデザインを考えて、後日発表するのはいかがでしょうか」

「おおっ、それはいいな。ぜひお願いしたい」

「分かりました。お祭りの準備に時間がかかるので、まだ猶予はありますが、あまり時間をかけるのもなんですので、一週間後くらいにまた集まって案を見せ合いましょう。そこで気に入ったものや、新しいアイディアが出れば、それをモチーフにした神紋をまた考えましょう」

「分かった」


 こうして全員で神紋の案を持ち寄ることになった。





「うーん、どうしたもんか」

「キュウ?」


 皆が帰った後、ソファに横になってさっそく悩んでいると、タマが心配そうに頭を擦り付けてくる。


「なんていうんだろうな。こういう模様を考えることになったんだ」

「キュイッキュイッ」


 タマを安心させるように撫でながらスマホの画面を見せると、タマは自信ありげに器用に胸をポンと叩いた。


 どうやら自分に任せろと言っているらしい。


「タマも考えてくれるのか?」

「キュッ!!」

「そうか。ありがとな」


 タマを再び撫でた後、一緒に色んな家紋やシンボルマークをネットで探しながら、電子書籍などの資料を手に入れ、夜遅くまで二人で家紋とにらめっこすることに。


 それから一週間程。


 光聖は日課や畑仕事をこなしつつ、ずっと神紋と神社名を考えていた。

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