第038話 浄化魔法の使い方
「そろそろお昼だな。今日は魚づくしといきますか」
大量の魚を貰ったため、できるだけ消費しなければならない。
光聖、辻堂、伽羅、守。
四人もいればそれなりに食べられるはずだ。
「川魚の種類は三種類。ヤマメとイワナと鮎か」
沢はそれほど深さのある場所じゃないし、裏の山には他に川が流れているだろう。
今度泳ぎにいくのもいいな。
クイックパッドで料理を調べる。
どの魚も塩焼は定番。食べ比べしよう。できれば炭火で焼きたかったが、今日のところはコンロとオーブンレンジのグリルで焼けばいい。
「刺身は寄生虫がいるからダメだったのか……どうりで体調が悪くなったわけだ」
異世界で初めて魚を食べた時に大変な目にあったのを思い出す。
刺身について調べて、その原因がようやく分かった。
天然の川魚には寄生虫が居て、食べることで人体に寄生し、悪影響を及ぼしていたらしい。
『だから、生食は止めておけって言ったんだ』
『そうよ。魚はちゃんと火を通さないとダメなんだから』
『俺の世界でも魚は生で食べなかったぞ』
魚を生で食べる文化があったのは光聖だけ。
他のメンバーは止めておけと言っていたが、ついつい日本での感覚で生で食べてしまった結果、発熱や下痢などに悩まされた。
しばらく彼らに馬鹿にされたのを覚えている。
回復魔法やポーションなどの薬も効かなくて本当に辛かった。でも、風呂に入れず、浄化魔法を使ったら、不思議と症状が治まったんだよな。
「ピュリフィケイション」
この時にピュリフィケイションの新しい作用を知った。
タマのような狐の体についている病気の元を浄化できるように、ピュリフィケイションは魔法の不思議作用で寄生虫の類も浄化可能だ。
ピュリフィケイションを使って魚を安全に生食できるようになり、しばらく経った頃。
『生食ってこんなに美味かったんだな!!』
『わ、私にもちょうだい!!』
『俺にも!!』
美味しそうに食べる光聖に三人がついに我慢できなくなった。
仕方がないので、生食を馬鹿にしたことを謝ることを条件に分けてやると、三人ともその味に魅せられたことを思い出す。
あの時の三人の謝りようは面白かった。
塩焼、刺身を出すとして、唐揚げや南蛮漬けも美味しそうだ。
「燻製もできるのか。それなりに日数が持つよな。それでもしばらく燻製ばかりの日々になりそうだけど」
クイックパッドにはそのまま食べるレシピだけでなく、燻製方法なども載っていた。
今日のところは材料が足りないので、必要な物はネットで注文しておこうと思う。
お昼までにできそうな料理を決め、さっそく調理に入った。
まずは各々の魚を捌く。
異世界で散々失敗しながら捌いたので、今では慣れたもの。
内臓を取り除いて流水で洗ったものと三枚におろした物を分け、プロ顔負けのスピードで捌かれた川魚たちの山が出来上がっていく。
グリルに火を入れ、流水で洗ったものにたっぷりを塩を付けて、グリルが温まったところで順々に焼いていく。
焼いている間に三枚におろした方の皮を引き、身を切って盛り付けていった。
残していた分を片栗粉と塩胡椒にまぶしたものと、片栗粉だけをまぶした物に分け、熱していた油で揚げていく。
グリルで焼きあがるたびに魚を入れ替えながら、唐揚げを盛り付け、タレを作って片栗粉だけをまぶした方にかけた。
『キュウッ』
もうすぐ全ての料理が完成する頃にタマが帰ってくる。
拝殿で出迎え、浄化魔法で綺麗にしてからキッチンに連れてくると、タマは涎を垂らしながら光聖を見上げた。
その潤んだ瞳に抗う
「ちょっとだけだぞ?」
「キュッ」
少しだけ味見として唐揚げを少しだけ皿にのせて出してやる。
可愛いには現人神でも勝てないのだ。
「これだけあれば、足りなくなることないだろう」
全ての料理を盛り付け終えると、社務所の台所にあるテーブルに運んで並べ、昼食の準備をしていく。
「おいおい、なんかすげぇ良い匂いがするんだが?」
ちょうどトイレに行っていたらしい守が台所にやってきた。
「守か。昼食を作ったから辻堂さんたちを呼んできてくれ」
「これ、お前が作ったのか?」
光聖の質問に答えず、珍しいものでも見たかのような顔で料理を眺めた後、守は顔を上げて尋ねる。
「ああ。なかなかうまそうだろ?」
「そうだな。昔は料理なんてできなかったのにお前も変わったな」
守は寂しいような、嬉しいような色んな感情が入り混じった表情をした。
光聖が守に時の流れを感じたように、守も光聖に何かを感じたのかもしれない。
「異世界で色々あったからな」
「それもそうか。ちょっと待ってろ。二人を呼んでくるから」
光聖が肩を竦めると、守は台所を出ていつも仕事をしている部屋にむかった。
数分後、守が辻堂たちを連れて戻ってくる。
「わぁ~、美味しそう!!」
「昼から豪勢ですね。いつもお任せしてすみません」
二人も守と同様に料理に目を輝かせた。
「いや、気にしないでくれ。いつも言っているが、ついでだからな。ほら、冷めないうちに食べよう」
「分かりました」
光聖に促され、各々が席に着き、食前の挨拶をして料理を食べ始める。
「うまっ!!」
「美味しい!!」
「これは絶品ですね!!」
「キュイッ」
台所は笑顔と笑い声で満たされた。
絶対になくならないと思っていた料理は瞬く間に減っていくのだった。
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