第037話 河童と親友と陰陽師

『たのもー!!』


 守と会話をしていると、外から声が聞こえてきた。


「来たか。守、一緒に来てくれ。紹介したい相手がいる」

「ん? あ、ああ。分かった」


 何のことか分からないという様子の守を連れて外に来た。


「おぉ、現人神様。こんにちはでございます」


 外に居たのは河童の長と数名の河童。彼らは光聖を見た瞬間、頭を深々と下げた。


 結界で来ることが分かっていたので守に紹介しようと思ったわけだ。


「長さん、こんにちは。頭を上げてください。今日はどうされました?」

「はい。沢に住まわせてもらっているお礼として、魚を持参しました」


 河童たちが頭を上げ、後ろに控えていた数名の河童たちが大きなザルに魚を無数に入れて差し出してくる。


「いやいや、そんなことしなくても……」

「そうは参りません。無料ただで棲ませて貰うなど、恐れ多いことでございます」


 全く予想外の話に光聖は恐縮する。


 元々タマの遊び場になっているだけの裏の山だ。


 余らせている土地を貸しているだけなので、大したことはしていないと思っていたが、河童である彼らにとって生きていけるか否かの一大事。


 大きな恩を感じていたのだろう。


 彼らの気持ちがここまでとは思わなかった。早めに何か仕事をしてもらった方がいいかもしれない。


 ただ、その前に元々の予定を消化する必要がある。


「守。裏山に棲むことになった河童たちだ。今後会うこともあるだろうから紹介しておくよ」

「まさかとは思うが、そこに河童がいるのか?」


 守は信じられないという表情で問い返した。


「ん? もしかして見えないのか?」

「ああ。全く」

「そうか……」


 帰ってきてから幽霊や妖怪が普通に見えていたし、辻堂や伽羅も同じだったので気にもしていなかったが、一般人には妖怪は見えないらしい。

 

 何か方法はないだろうか。


「あっ。リーンフォース。エンハンス」


 思い立ったことがあり、守に付与魔法を二つ掛ける。


 エンハンスは魔力を増幅させる魔法だ。


 全体的な能力向上させるリーンフォースと合わせることで、ほとんど魔力のない守の魔力もある程度高まるはず。


 魔力が上がれば、見えるようになるかもしれない。


「これが魔法ってやつか? すげぇな、力が湧き上がってくる」


 守は自分に体を見下ろし、手を開いたり閉じたりして、付与魔法が掛かっているのを実感している。


「守。どうだ?」

「ん? おおっ、見える。見えるぞ。河童だ、河童がいる!!」


 宥めると、守は顔を上げた途端、河童を指さして興奮し始めた。


 光聖の考えは当たっていたらしい。


「ごめんくだ――おわっ」

「か、河童!?」


 ちょうどその時、辻堂と伽羅が本殿に入ってきて、河童を見るなり驚いておかしなポーズを取った。


 そろそろ来る頃だと思っていたが、いいタイミングだ。


「辻堂さん、こんにちは」

「あ、ああ、はい。こんにちは。それで、そちらの方と河童たちは一体……」

「あぁ。こいつは古い友人で天童守。今後神社のオープンに向けててつだってもらうつもりだ。河童は棲み処を失ったらしく、裏山の沢に住まわせることになった。河童と守、この人たちは、俺が一番世話になった陰陽師の人たちだ。俺の生活から神社のことまで色々やってくれている。お互いに知っておいてくれ」


 狼狽える辻堂に軽く事情と経緯を説明する。


「なるほど。そういうことでしたか。私は辻堂と申します。以後、お見知りおきを」


 狼狽えていた辻堂は、説明を受けて状況を理解して挨拶をして頭を軽く下げた。


「私は伽羅と申します。よろしくお願いします」

「俺は天童守と言います。光聖とは腐れ縁でして。よろしくお願いします」

「私たちはこの度、裏の山の沢に棲まわせてもらうことになった河童の一族でございます。以後よろしくお願いいたします」


 辻堂に続いてお互いに挨拶を交わす。


「それにしても、凄い数の魚ですね。どうされたんですか?」


 辻堂は河童たちが抱えるザルに入った魚たちを見て呟いた。


「いや、裏山に棲ませることにしたんだけど、何もしなくていいっていうのに、河童たちにはそうもいかないらしくてな。礼として魚を持ってきたんだ。こんなに食いきれないし、何か良い仕事はないか?」

「うーん、そうですね。河童は草刈りや田植え、作物の生育が得意と聞きます。その辺りを手伝ってもらえばいいんじゃないでしょうか」


 しばらく考え込んだのち、辻堂が質問に答える。


 田んぼなんて持っていないし、畑もまだできていない。


「そうか。境内の草むしりや山の雑草の管理でもしてもらうか」

「それが我らの仕事ということでしたらお任せください」


 河童の長が胸にポンと拳を当てて誇らしげに言った。


「よろしくお願いしますね」

「承知しました。それと、私どもにも丁寧な言葉遣いはお止めください」

「そうか……分かった」


 辻堂のおかげで河童に仕事を与えることができた。


 これで魚を持って押しかけてくることもないだろう。


 ただ、魚を貰えるのはありがたい。何かを対価にするのはありかもしれないな。


 ひとまず冷蔵庫と冷凍庫に入るだけ魚を入れておいた。


 ファミリータイプの大きな冷蔵庫をだったことが功を奏したな。


「守は辻堂さんたちの手伝いな」

「分かったよ」


 それぞれの仕事が決まったところで各々動き始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る