第039話 あの頃の決着を

「それじゃあ、私たちはお暇しますね」

「ああ。今日もありがとう」

「いえいえ、それではまた」


 今日の仕事を終え、帰る辻堂と伽羅を見送る。


「それで? お前は帰らないのか?」


 しかし、一人だけ帰ろうとしない人物がいた。


 守だ。


「別にいいだろ。昨日職場に連絡して今日休み貰ってるし。やることもないからな」

「まぁいいけどな。でも、別に面白いものなんてないぞ?」


 光聖としても久しぶりに会えた親友と過ごすのもやぶさかではないが、大人の男二人で楽しめるようなものは何もない。


「ゲームとかないのか?」

「ああっ。そういえば、古いゲームならあるぞ」


 光聖が転移前に遊んだゲームを買ったことを思い出す。


 対戦ゲームもあるし、久しぶりに勝負するのも悪くない。


「おおっ。それでいいじゃねぇか。やろうぜ」

「分かったよ」


 守を連れて本殿に向かう。


「全然神社っぽくないな、ここ。金持ちの別荘みたいだ」


 本殿に入ると、守がポカーンとした表情で呟く。


「そういえば、守が本殿に入るのは初めてか」


 守は今日一日ずっと社務所にいて本殿を案内していなかった。


 わざわざ本殿に来る必要もないから当然だ。


 守は和モダン風に作られた室内を物珍しそうにあちこち眺める。


「お前、相当いい暮らししてるんだな」

「一応現人神らしいからな。とりあえず、トイレはあそこだ」

「了解了解」


 話をしながら居間に向かった。


「うぉおお……俺もこんな家に住みてぇわ」


 居間に入るなり、守は感嘆して呟いた。


 居間は相当広く造られていて、落ち着きと郷愁を感じさせるなんとも言えない雰囲気が光聖も気に入っている。


「いいだろ。ほら、あそこだ」

「おおっ、あれはスーフォミにサンテンドー64。懐かしすぎる!!」


 きょろきょろと室内を見回していた守が、光聖に指し示された場所を見て目を輝かせて駆け寄った。


「ということで、あの頃の決着をつけようじゃないか」

「おおん? そんなこと言っていいのか? 悪いが俺は相当やりこんでるんだぞ?」

「俺も帰ってきてから練習している。そう簡単に負けはしないさ」

「いいだろう。かかってこい」


 あの頃の決着というのは、大乱闘!スラッシュブラザーズの対戦のことだ。


 三百六十六戦、百八十三勝、百八十三敗。これが守と光聖の戦歴だ。


 ずっとお互いに勝ったり負けたりして決着がついていない。


 ここでどちらが上かハッキリにさせるべきだろう。


 サンテンドー64の電源を入れ、対戦モードを始めると、キャラクター選択画面が表示される。


「テレビでっか。これは楽しめそうだな」

「勝負にもってこいだろ?」

「そうだな。キャラは先に選んでいいぞ? ハンデだ」


 光聖が挑発すると、守もやり返す。


「いいのか? 俺はケービィを使っちゃうぞ?」

「望むところだ。俺はノスを使うからな」


 当時お互いに得意なキャラクターはケービィだった。しかし、今回はそれを譲るという。


 お互いの視線の間に火花が散る。


 そして、ついに対戦が始まった。


 スラブラは、画面中央にあるステージの上で戦い、そのステージから落ちてしまったり、画面外に吹き飛ばされてしまうと撃墜となる。


 今回はタイム制での勝負。


 制限時間内に、相手を撃墜した数から相手に撃墜された数を引いたポイントが高い方が勝利となる。


「うぉっ、なんだその動きは!?」

「へへーん、伊達に長年スラブラやってねぇっての!!」

「止めろ、ちくしょ、反撃できねぇ」

「はーい、俺の撃墜一な」


 守の華麗なキャラ遣いに翻弄され、光聖は開始早々にやられてしまった。


 その後もやられ続け、一回目は守の勝利となった。


「くっそー、なんでそんなに強くなってるんだよ!!」


 以前はこんなに上手くなかったはずだ。


「スラブラは何本も続編が作られていて、今じゃインターネットを使って世界中の人たちと競えるんだよ。俺は頻繁に対戦していてランクが高いからな。技術は二十年前の比じゃないぞ。ただ、このコントローラーは久しぶりだから、本調子じゃないけどな」

「なん……だと!?」


 衝撃の事実を聞かされて光聖は言葉を失う。


 やる前から勝敗は決まっていたということか……いや、諦めるには早い。光聖には光聖の培ってきたものがある。


「それなら俺もやってやろうじゃないか。コンセントレーション、アクセラレーション」


 光聖は集中力と思考を加速させる付与魔法を使った。


 二回戦が始まる。


 守が使うキャラクターの動きがゆっくりと見えるようになり、余裕で対処できるようになった。


 今度は逆に反撃を浴びせていく。


「うぉっ!? 光、お前何しやがった!!」


 急激に反応速度が変わった光聖に文句をつける守。


「お前が二十年でスラブラの技術が上がったように、俺には魔法があるんだよ!!」

「きったね!! それは反則だろ!!」

「うっせ!! お前だって最初から勝利を確信してただろ。お相子だ!!」


 お互いに罵り合いながら勝負を続ける。


「よっし、勝ったぁ!!」

「お前、流石に魔法はないだろ、魔法は……」


 その結果、守の攻撃はほとんど当たらなくなり、光聖は守を大差で叩きのめした。


 その後も何度も戦ったが、結果が覆ることはなかった。


 守はガックリと肩を落とす。


「まぁ、今回はずるしたけど、次回は正々堂々戦ってやるよ」


 流石に魔法が卑怯だったのは分かっている。


 だから、次に守と戦うまでに、自分も最新版のスラブラとゲーム機を購入して、インターネットで腕を高めることに決めた。


「ほーん。言ったな?」


 気を取り直した守が挑戦的な笑みを浮かべる。


「ああ。練習しておくから待ってろ」

「分かった。また今度勝負だ」


 再戦を誓い、お互いに握手を交わした。


「キュウッ!!」

「悪い悪い。もうこんな時間か。夕食を作るから待ってろ。守も食って行けよ」

「おう。それじゃあ、遠慮なく食っていくわ」


 タマの不機嫌そうな声を聞いて外を見ると、すっかり暗くなっていた。

 

 三人で夕食を堪能した後、守は浄化された魚を持って帰っていった。

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