第040話 てるてる坊主と雨女
『今年の梅雨は、程よい雨が連日降り続いております。明日も――』
テレビを見ていると、天気予報が目に入った。
「長いな……」
梅雨に入ってからもう三週間以上が過ぎた。
まだ梅雨が明ける様子はない。雨女が一カ月程滞在すると言っていたので、まだ一、二週間ほどは雨が降り続くのだろう。
しかし、もう少し晴れの日も欲しいと思う。
そこで昔の記憶がふと過る。
『じいちゃん、明日、晴れるかなぁ……』
その日はピクニックの前日だった。
連日雨が続いていて、当日は雨予報。ずっと楽しみにしていたピクニックが中止になるかもしれないと思うと悲しい気持ちになっていた。
『そうさなぁ。てるてる坊主を作ったら、もしかしたら、晴れるかもしれんぞ?』
光聖の頭を撫でながら優し気な表情で語る祖父の顔が思い浮かぶ。
『てるてる坊主?』
『うむ。「晴れますように」と願いを込めて作って窓辺や玄関に吊せば、次の日晴れると言われておる』
『そうなんだ!! じいちゃん、早く作り方教えて!!』
晴れると聞いた光聖は、祖父の服の袖をぐいぐい引っ張ってせがんだ。
『そう急かすな。すぐに教えてやる』
そして、祖父にてるてる坊主の作り方を教わって窓辺に吊るしたら、翌日本当に晴れた。
『うわぁ、本当に晴れた!!』
『良かったな』
『うん』
そのおかげでその日ピクニックは中止されることなく決行。
『今日は晴れて良かったな!!』
『うん、てるてる坊主作ったからね。てるてる坊主を作ると晴れるんだよ』
『てるてる坊主ってすげぇな!!』
守をはじめとしてクラスメイトたちとピクニックで楽しく過ごすことができた。
『ばっかもん。そんなに泥だらけにしおって!!』
『へへへっ。つい夢中になって……』
『はぁ、仕方あるまい。すぐに風呂に入るぞ』
『はーい』
ただ、雨の日の次の日ということもあり、至るところに水溜まりがあり、はしゃいで水溜まりの中で飛び跳ねたり、守と足で水を掛け合ったりして全身ビシャビシャのドロドロ。
そのせいで家に帰った後に祖父に叱られたのは、今ではいい思い出だ。
「久々に作るか……」
懐かしくなった光聖は、祖父に教わった通り、ティッシュと輪ゴムを使っててるてる坊主を作り、窓辺に吊るす。
「これでよし」
この日の夜は、明日晴れるといいなと思いながら眠りについた。
次の日。
「おおっ。まさか本当に晴れるなんてな。作ってみるもんだ」
いつも通りに目を覚まし、窓を開けると、昨日まで降り続いていた雨が嘘のように止んでいた。
たまたまだと思うが、運がいい。
日課をこなして、魔力を抑え、お守りづくりのノルマをこなす。
「キュウッ!!」
「いってらっしゃい」
タマは久しぶりの晴れの日ということもあり、ウキウキした様子で外に出かけていった。
「ん? 雨女さんか? 何か用でもあるのかな?」
チマチマとお守りを縫っていると、結界内に覚えのある気配が。
『ごめんくださーい』
「はーい」
呼ばれたので拝殿の入り口に向かう。
「雨女さん、こんにちは。今日はどうかされましたか?」
「こんにちは。あの、私の力が急に働かなくなりまして……何か心当たりはございませんでしょうか?」
雨女さんの力は雨を降らせる力。それが働かないってことは真逆の力が働いている可能性があるということだろうか。
そこでふと思い当たる。
もしかしてと思いながら、光聖は恐る恐る口を開いた。
「て、てるてる坊主を作ったんですが、何か関係ありますか?」
「あぁ~、そういうことでしたか。勿論関係ありますよ。現人神様クラス方が作られた、てるてる坊主ともなれば、その効果は絶大です。私ごときの力では対抗のしようもありません。雨が降らなくなるのも道理というものです」
雨女は手をポンと叩いて納得と安堵の表情を浮かべる。
「そ、そうなんですか!?」
「はい。現人神様の祈りというのはそういうものです」
お守りを作る時以外は魔力を制限していないので、その力がてるてる坊主に宿ってしまったらしい。
お守りだけでなく、まさかてるてる坊主にまで魔力が作用するとは……。
自分の魔力を甘く見ていた。
雨女は自分の力が何の前触れもなく効かなくなってさぞ慌てたことだろう。それに来年以降、もしかしたら仕事を続けることができないと不安に思ったかもしれない。
「そうでしたか……お仕事の邪魔をしてしまい、すみません」
非常に申し訳なくなって頭を下げる。
「いえいえ。今年は安定して雨を降らせることができたので雨の量はもう十分。そろそろ次の地域に行こうと思っていたところでしたし、力が働かなくなった理由も分かったので大丈夫ですよ」
「そう言ってくれると心が軽くなります」
どこまで本当の事かは分からないが、仕事に支障がなくて本当に良かった。
光聖はホッとため息を吐く。
「それでは、そろそろ次の地域へ行きますね。また来年お会いしましょう」
「道中お気をつけて。また来年会えるのを楽しみにしてます」
「はい。こちらこそ」
雨女と別れの挨拶を交わし、その背中を見送った。
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