第033話 かけがえのない存在
「お前、連絡も寄越さず、一体今までどこにいたんだよ……」
目の前の男は、光聖の顔を今にも泣きだしそうな表情で見つめている。
『喰らえ!! 堕天刀剣流 奥義 七毬龍閃』
『なら俺はコバンストラッシュ!!』
顔を見ていると、学校からの帰り道で傘で漫画の技を真似した思い出が蘇った。
光聖は昔のヤンチャそうな面影を残すその人物をようやく思い出す。
「……お前、
「ああ、そうだよ、久しぶりだな、光」
老いて渋さが増しているが、それは親友、
守とは、小さい頃にこっちに引っ越してから高校時代に召喚されるまで、ずっと一緒につるんでいた。
よくお互いの家に遊びに行き、一緒に泣き笑い、喧嘩もしたものだ。
二十年も会っていなかったので、忘れてしまっているだろうと思っていた。
しかし、守は覚えていてくれたのだ。
「ああ、お互いにな」
「お前はいったい何してたんだ。めっちゃ探してたんだぞ? お前の爺さんも――」
「守、場所を移そう。ここは人の目が多い」
「あ、ああ。そうだな」
光聖は捲し立てる守を一旦止める。
ここは人通りの多い道のど真ん中。周りにはそれなりに人がいるし、こんな場所では落ち着いて話せもしない。
光聖は近くにあったカフェで話を聞くことにした。
飲み物を頼み、一口飲んで落ち着いたところで守が口を開く。
「それで、お前は今までどうしていたんだ?」
光聖は少し悩んだが、本当のことを話すことにした。
他の奴なら打ち明ける気にはならない。だが、二十年経ってもこうやって心配してくれる守は信頼できる。
「あぁ、信じられないかもしれないけどな。俺、異世界に行ってたんだわ……」
光聖は高校一年の時に召喚された時点から魔王を討伐して帰ってくるまでの経緯を買って聞かせた。
「そうか……」
話を聞いた守は否定もせず、ただただ合点がいったという表情をしている。
「なんだ? 疑わないのか?」
裏家業の陰陽師ながらまだしも、守は魔力もないただの一般人。
こんな荒唐無稽な話、疑って当然のはずだ。
「お前がそんなことで嘘を言うはずないしな。大体、帰って来れるならすぐに帰ってくるだろ。お前が清神の爺さんを放って二十年もどこかにいくわけないからな。それにお前の見た目。どう考えても二十代半ばくらいにしか見えん。そんな理由でもなければ、逆に納得できねぇよ」
「そっか。ありがとな」
そうだ、こいつは昔からこういう奴だった。光聖のことを一番理解してくれたのは守だ。守はいつだって光聖の味方だった。
守は無条件で自分のことを信じてくれる、かけがえのない存在だ。
二十年経った今も何も変わっていないことに心から安堵した。
「気にするな。それで今は何してるんだ?」
「幽現神社に住んでるよ」
「もしかして最近神社が綺麗になってるっていうのは?」
「あぁ、俺がやった」
守も知っているということはやはり噂は広まっているということか。
ますます準備を急いだほうがよさそうだ。
「そうだったのか。っていうかお前、帰ってきてるなら連絡くらい寄越せよな」
「いや、もうお前の連絡先とか住所なんて分からなかったし、二十年も日本にいなかったんだ。連絡なんてできるわけないだろ」
せめて守の電話番号を覚えていれば、連絡したかもしれないが。
「はぁ……それもそうか。ここで再会したのも何かの縁だ。折角だし、飲みに行こうぜ」
「俺、酒なんて飲んだことないんだけど」
思ってもいない誘いを受けて返答に困る。
「マジかよ。異世界じゃこっちの法律なんて関係ないだろ?」
「そうだけど、あっちでは魔王と戦ってたんだ。酒なんて飲んでられるか」
毎日モンスターに襲われる旅の最中は酒を飲む暇なんてなかった。
そもそも召喚された当時は高校生。
祖父が酒を飲むところはあまり見たことがなかったので、自分も飲みたいとは思わなかったし、興味もなかった。
自分以外の召喚者たちは、使命からの開放感からか、魔王を倒した後に催されたパーティに参加する度に浴びるように飲んだ。
その結果、彼らは毎回とんでもなく酔っぱらった。
『うぉおおおっ、よかったなぁ、光聖。これで帰れるぞぉ!!』
『あんた、いつも爺くさいのよ!! もっとはっちゃけなさいよ!!』
『がーっはっはっはっ!! 酒ってうめぇんだなぁ!!』
泣き上戸に、絡み酒に、笑い上戸。
介抱をしたのは光聖で、自分はこうなりたくないと敬遠している部分もある。
「それもそうか。でも、やっぱり俺たちが再会するまで飲まなかったってことは、今日がお前が初めて酒を飲む日だったってことだろ。美味い店を知っているから飲みに行こうぜ」
「はぁ……分かったよ。ちょっとだけだぞ」
「分かってるって」
光聖は守の誘いを断り切れず、一緒に居酒屋で酒を飲むことに。
「その前に、寄り道と、荷物を神社に置いてこさせてくれ」
日用品はまだしも、食材は冷蔵庫に入れておきたい。
「了解。俺が車で送ってやるよ。俺も駐車場に車置かせてもらうから」
「本当か? 助かる」
店に行く前に守の車に乗り、スーパーに一度戻ってから神社へと向かった。
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