第029話 草草のダイソーゲン
「あぁ、ダメだ!! 全然抑え込めない!!」
光聖はソファの背もたれに倒れ込んだ。
昨日、辻堂たちが帰ってから睡眠と食事やお風呂以外の時間はほとんど魔力を抑え込む修業をしていたが、全く成長の兆しが見えていない。
抑え込むこと自体はできるが、やはり他のことを同時にしようとすると、すぐに弾け飛んでしまう。
異世界では魔力を抑える方法なんて教わらなかったし、この世界にも魔法使いがいるのかもしれないが、残念ながら伝手がない。
現状、自分でどうにかするしかないが、何をどうやっても上手くいかない。
こういう時は一度離れてみると良い考えが浮かぶことがあるので、一旦魔力の抑制を止めて気分転換することにした。
「そういえば辻堂さんが、インターネットを通して、テレビで映画やドラマ、アニメを見られるって言ってたな。ちょっとアニメでも見てみようか」
ソファーに座って、テレビを点ける。
ポチポチとリモコンを操作して、ストリーミングサービスを選択する。
インターネットを開通した際に、一通りのストリーミングサービスと契約してくれているらしく、どのサービスでも見放題だ。
当然アニメ専門のサービスも入っている。
「確かGアニメチャンネルだったな。あぁ、これか」
GはゴッドのGで、ありとあらゆるアニメを視聴できることからそう名付けられたらしい。ここで見られないアニメ――R18を除く――はないと豪語している。
トップページに移動すると、色々な動画が表示された。
登録者に対してのお勧めアニメや、最近始まったばかりのアニメ、今見られているアニメのランキング、過去の名作などなど、様々なカテゴリーに分かれている。
他にもジャンル別に絞ったり、グーゴル検索のようにキーワードで検索したりして見たいアニメを探すことができる。
「さて、何を見ようかな……へぇ、ランキングで今どのアニメが人気か分かるんだな……ひとまず、最近トレンドのアニメを見てみるか」
光聖はせっかくなのでランキング一位になっていた作品を見てみることに。
今一位なのは、
肌が緑色で耳の長い草人という種族の主人公――ダイソーゲンが、両親の敵であるヤギー族を駆逐する話らしい。
「ぐすっ……年を取ると、涙腺が脆くなっていけないな」
一話目から泣けるようなストーリー構成になっていて、若い見た目とは裏腹に、年相応に涙脆くなっていた光聖は、号泣しながらダイソーゲンを視聴していく。
草人に近い姿をしながら、草人を食べるヤギー族という化け物が蔓延る世界にダイソーゲンは生まれた。
ダイソーゲンは生まれた瞬間から強大な魔力を持っていて、魔力に敏感なヤギー族に見つからないように、両親とともに人里離れた森で暮らしている。
両親はダイソーゲンに小さい頃から徹底して魔力のコントロールを学ばせ、魔力を抑制して隠す方法を覚えさせた。
しかし、まだ隠しきれていなかった魔力を感知してダイソーゲンを探しに来たヤギー族にたちによって、両親が無残にも殺されてしまう。
『あなたはここに隠れているのよ』
『絶対出てくるんじゃないぞ』
魔力を通しにくい素材で作られた隠し部屋に押し込まれたダイソーゲンは、必死に魔力を抑え、ジッと息を殺すことでどうにか生き残った。
それから両親の敵であるヤギー族を駆逐することを誓って旅に出る。
魔力を隠蔽しながらヤギー族に近づいて次々殺していくが、時折、隠蔽が見破られたり、ヤギー族が絡む事件に巻き込まれたりしながら戦いに身を投じていく。
そんなストーリーだった。
――チュン、チュンチュンッ
「えっ!? もしかして一日中見入ってしまったのか!?」
いつの間にか外は明るくなっていて、日課の時間もオーバーしている。話の内容が面白いのは勿論、CMもなく、次話が自動的に始まるせいで、どれだけ時間が経っているのか気にもしなかった。
「キュゥ?」
光聖の声で隣でスヤスヤと寝息を立てていたタマが薄っすらと目を開ける。
タマは内容がよく分からなかったようで、何話か見た後で寝落ちしてしまった。
「タマ、すぐに走りに行くぞ!!」
「キュッ!!」
とにかく日課をしないという選択肢はない。
タマを揺すると、光聖はジャージに着替えて家の外に飛び出した。
『ごめんくださーい』
「はぁーい」
日課を終え、シャワーを浴びた直後に辻堂たちが来てしまった。
急いで身支度を整えて待っていると、辻堂、伽羅、静音の三人が居間に入ってくる。
「こんにちは」
「
光聖が挨拶した途端、辻堂は心配した様子で返事をした。
焦っていたため、目の下に隈ができていることに気づかなかった。知っていれば回復魔法で治しておいたのに。
仕方ないので素直に事情を白状する。
「あ~、実はアニメを見るのにハマって夜更かししちゃって……」
「はぁ……なんだ、そういうことでしたか。てっきり毒でも飲まされたのかと」
辻堂は露骨に安堵したため息を吐く。
こんなことで心配をかけて本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「ははははっ、すみません」
「今の笑みはまるで死人みたいですよ」
苦笑いを浮かべると、静音が突っ込みを入れた。
「そんなにか?」
「はい。これを見てください」
「うわっ。これは酷いな……」
静音が取り出した手鏡で見た自分の顔は、普段夜更かしなんてしないせいか、いつもと比べて肌が青白く、目の下に濃い隈が出来上がっていた。
まるで幽霊みたいだ。
「ですよね。気を付けた方がいいと思います」
「だよなぁ」
年下の女の子にまで心配をかけてしまい、大人として恥ずかしい。
光聖は夜更かしは自重しようと思うのだった。
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