第030話 合格だ
「それで、お守りの金額はどうなった?」
「すみません……上層部はこれ以上値段を下げるのは無理だの一点張りでして……それに、一億円でも安いくらいだと。申し訳ありませんが、お受け取りいただく他ないかと……」
本題に移ると、途端に辻堂の顔が曇った。
「そうか……分かったよ。無理を言って悪かったな」
「いえ、ご了承いただいてありがとうございます」
陰陽師協会は、きちんと鑑定し、協議をして金額を導き出したはずだ。それなのに光聖の都合で値下げを要求したのだから、掛け合ってくれただけありがたい。
下がらないのであれば受け取るしかないだろう。
光聖は十億円という宝くじよりも大きな金額を手に入れることになった。
使い道はおいおい考えていこう。
「それじゃあ、俺は今日も魔力を抑える練習をするから」
「分かりました」
辻堂たちと別れ、魔力を抑える訓練を始める。
「ふぅ。やっぱり難しいな」
しばらく試行錯誤していたが、これがなかなかうまくいかない。
無理やり押し込めようとすれば反発が激しいし、力を抜けば抑え込めずに元の状態に戻ってしまう。
どうにかして魔力を抑える方法はないのだろうか。
「お疲れ様です。調子はどうですか?」
思い悩んでいると、辻堂たちが様子を見に来た。
「良くないな」
「そうですか。仕方ないですね。気長にやりましょう」
辻堂はそう言ってくれるが、一日も早く神社を開けるためにもどうにかしたい。
「あっ」
そこでふと、アニメで魔力を抑える方法が取り上げられていたことを思い出す。
「どうかしましたか?」
「いや、ダイソーゲンがやってたな、と思ってな」
「ダイ、ソーゲンですか?」
呟きを聞いていた辻堂が首を傾げた。
辻堂はどうやら草草のダイソーゲンを知らないようだ。
「ああっ。アニメの中で魔力を抑える修業方法が取り上げられていましたね」
「そっか、確かに光聖様ならやってみる価値がありそうですね」
伽羅と静音は
草草のダイソーゲンの主人公ダイソーゲンは、作中でヤギー族から身を守るために、魔力をできるだけ抑えて隠蔽する方法を習得している。
本来であれば、アニメの魔力の抑制方法なんて何の効果もないだろうが、光聖は漫画やアニメのような異世界から帰ってきた身。
アニメで実践されていた方法を試してみる価値は十分にある。
「それじゃあ、俺はアニメの方法を試してみますので」
「分かりました。こちらはこちらの作業を進めます」
光聖は再び一人で魔力を抑える修業を再開する。
「すー……はぁー……」
空中に漂う魔力を呼吸と共に体内にゆっくりと取り込み、それを呼び水にして体の中の魔力と共に循環させ始めた。
ダイソーゲンは、押し留めるのではなく、体の中で循環させながら、その流れを少しずつ小さくしていくことがコツだと言っていたので、魔力を血液のようにイメージし、できるだけスムーズに流れるように意識する。
ゆっくりとだが、時間が経つにつれ、少しずつ、少しずつ、体外に溢れている魔力が小さくなっていくのを感じる。
「おおっ、凄く楽になった!!」
練習すること数時間。
今までの苦労が嘘のように力を抑えられるようになった。
これでお守りを作っても大丈夫じゃないだろうか。
「キュッ」
キリのいいタイミングで、森から帰ってきたタマが鳴いたのが聞こえた。
つまり、今はお昼近くだということだ。
光聖はタマを出迎え、社務所の台所で昼食を作る。
「今日はそうめんでも茹でるか」
最近梅雨入りしてジメジメしているので、さっぱりしたものが食べたい。
「これにしよう」
クイックパッドにあった冷麺風そうめんに目が留まった。
冷蔵庫の中にちょうどある材料で作れるし、ちょうどいい。
本殿から食材を持ってきて調理開始。
スープを作って冷蔵庫で冷やし、そうめんをサクッと茹でて盛り付けた後、冷麺らしい、茹で卵やキムチ、きゅうりを載せて完成だ。
お盆に載せて辻堂たちの分も含めてテーブルに運んだ。
「昼食を作ったから、そろそろ休憩にしよう」
「あぁ~、光聖様にやらせてしまってすみません」
「いや、俺の昼食を作るついでだし、簡単なものだから気にしないでくれ」
「あ、ありがとうございます」
作業をしている辻堂たちに声を掛け、皆で台所のテーブルに着く。
「美味しい!!」
「信じられないくらい美味しいですね。サッパリしててこの季節にいいですね」
「美味い。ジメジメしてるとあっさりしたものが食べたくなりますよね」
「キュウッ」
各々美味しそう食べてくれて満足だ。
作った甲斐がある。今後もできるだけ彼らの食事も一緒に作ろうと思う。
「そういえば、力がかなり小さくなりましたね?」
「分かるか?」
食事を終えた後、辻堂の質問に光聖は少し自慢げな態度で返事をした。
自分が出した結果を褒められるのは嬉しい。
「えぇ、アニメの修業方法がうまくいったんですね?」
「あぁ。想像以上に効果的だった」
「アニメも馬鹿にできませんね」
「本当にな」
たまたま見たアニメに解決方法があるなんて奇跡に等しい。
今回はついていたな。
「それでは、午後からは一緒にお守りの制作をお願いできますか?」
「分かりました」
三人と共に再び授与品の制作に取り掛かる。
霊力を抑えた状態でお守り袋を縫い、御神璽を入れて完成。
「どうだ?」
「……」
辻堂に渡して効果を確認してもらう。
「……これでもまだ強いかと」
「そうか……」
かなり抑えたつもりだったが、まだまだ足りなかったようだ。
その場で瞑想を行い、意識してさらに魔力の循環を小さくしていく。
「おおっ」
「存在感が……」
「光聖様が薄くなった?」
それは力を察知する能力が未熟な人間にも分かるほど明確な違いをもたらした。
「ちょっときついけど、今の状態ならいけるかもしれない」
再びお守りを作り始める。
そして三十分後、限界まで魔力を抑えた状態で作ったお守りが出来上がった。
「……」
「……どうだ?」
渡されたお守りを見分し、一言も発しない辻堂。
しびれを切らした光聖が声を掛ける。
「ふぅ……そうですね、他の神社のお守りより割高になりますが、合格だと言える範囲だと思います」
「よっし!!」
光聖の方に顔を向けた辻堂は、サムズアップをして応えた。
やっと成功した光聖は思わずガッツポーズをしていた。
「おめでとうございます!!」
「やりましたね、光聖様」
「流石ですね!!」
他の三人からの賛辞が飛ぶ。
「ありがとう」
これでようやくスタートラインだ。
「それでは、ここからは光聖様にも本格的に手伝っていただきながら、社務所の営業の準備を進めたいと思います」
「よろしく」
辻堂の指示に従い、役割分担をして本格的に準備を開始した。
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