第23話 阿鼻叫喚!ダンジョンクリーナーズ

 ゲームをスタートし四人のプレイヤーキャラがダンジョンクリーナーズの世界に降り立つ。

 そこは多くの人間が出入りする集会場のような場所であり、その中心には巨大な穴が黒々と広がっていた。


「ここが冒険者や掃除屋の活動拠点で、装備や道具の購入やHPとMPの回復、状態異常の解除なんかが出来る。中央に空いてる大穴が迷宮への入り口だ。右手の方に受付と依頼掲示板があったりするが、あれは完全に冒険者用で俺達掃除屋とは無縁の代物で、雰囲気を出す為の飾りってやつだから気にしなくて良い」

「へー、あれ? 穴の脇にも掲示板がありますけど、あれも飾りですか?」

「そっちは飾りじゃないぞ、あの掲示板には迷宮で起きた事件なんかの情報が張り出されるんだ。どっかの階層でモンスターが大量発生したとか、それを見て冒険者はその階層を避けたり、或いは金儲けのチャンスと飛び込んだりもする。俺達掃除屋もその情報を参考に何処の階層に向かうかを決めるって訳だ。後は行方不明者の捜索なんかの掃除屋向けの依頼もこっちの掲示板に張り出されてて、行方不明者の死体を持ち帰れば追加の報酬が支払われる」

「という事はここに張り出された時点で死体になってる事は確定なんですね……」

「そこはゲームだからな、取り敢えず初プレイであれこれ考えても頭が回らないだろうから、そこら辺は今は考えずに迷宮に入るぞ」


 そういう訳で四人は特に準備もしないままお試しという事で迷宮へと潜っていく。

 ちなみにそれぞれのキャラについて説明すると、獣人少女はキャラクター名"ヘルドッグ"の職業がパヒューマー、ルーナはキャラクター名"月子"の職業がファイター、リアムはキャラクター名"リアム"の職業がシーフ、そしてヴェルはキャラクター名"VELL"の職業はポーターという感じである。


「うわ、結構暗いですね、松明があっても奥の方とかは全然見えないし」

「初期装備の明かりだとこんなもんだな、シーフなら"夜目"のスキルを獲得出来るからスキルポイント手に入ったら取ってみると良い」

「どうやってスキルポイントは入手するんですか?」

「一日のリザルトの時にその日の成績に応じて職業経験値が入るから、それで職業レベルが上がればポイントが貰えるぞ」

「じゃあ初日の探索はこのままいくしかないって事ですね」


 そんな事を話しながら迷宮の中を進んでいると、道端で倒れている人影を見つける。


「あれってもしかして」

「お、見つけたか?」

「はい、男の方みたいですね。見つけた場合はどうすれば良いんです?」

「死体の近くで□ボタンを押せば担げるぞ」

「分かりました!」


 ヴェルの指示に従い、リアムが冒険者の死体に近付き□ボタンを押し、担ぎモーションに入りかけたその時だった。


 グパァ――


「――へ?」


 突然、冒険者の身体が縦に裂ける。

 裂けた部分から無数の牙が生え伸び、無防備に近づいて来たリアムの上半身をバクリと飲み込み、リアムのキャラが死亡する。

 突然のスプラッタにリアムが呆然としていると、ヴェルが呑気な声で話し出す。


「初手からミミック引くとか運がないなぁ」

「これミミックですか!? 僕の知ってるミミックって宝箱に偽装したモンスターであって、こんな冒涜的な怪物は知らないんですけど!?」

「俺達掃除屋からすれば冒険者の死体が宝箱みたいなもんだからな、そういう意味ではちゃんと宝箱に偽装したモンスターだろ」

「今すごい倫理観の欠片も無いこと言ってる自覚ありますか?」

「そういうゲームなんだから仕方ないだろう。ちなみにミミック以外にもアンデットとか、死体だと思って迂闊に担ごうとしたプレイヤーを殺しに来るモンスターが結構居るから死体見つけたら取り敢えず蹴り入れて反応を見るのが正攻法だぞ」

「本当に倫理観の欠片も無いゲームだ……」

「死体回収がメインの時点で倫理観なんてあるかよ」


 ヴェルのその言葉の通り倫理観の無いゲーム体験は続き、いくらゲームとはいえ最初はそれに忌避感を露わにしていたリアムとルーナだったが、プレイを続けて行く内に感覚が麻痺していき……


「やべー、モンスターの数が多いな」

「無傷で抜けるのは無理そうですね……」

「そうだ、ヘルドッグよ、モラックのお香ってまだあるか?」

「(コクコク)」

「じゃあそれをリアムに焚いてくれ」

「ヴェルさん、モラックのお香って何ですか?」

「モンスターを引き寄せるお香だ」

「へ?」

「じゃ、後は任せたぞ!」

「ぎゃああああああ!?」


 移動速度が早いシーフを囮にしたり……


「あっ、やられた!? ヴェル! 済まないが月子わたしの身体を回収してくれ!」

「悪いな月子、このカバン一人用なんだ! あと普通のインベントリの方も行方不明者の死体でパンパンだからお前を運ぶ余裕はない!」

「だったら一人インベントリから出して月子と交換すれば良いだろ!」

「いやぁ、行方不明者とプレイヤーなら装備ロスト前提でも行方不明者運んだ方が収支的にはプラスになるから……という訳でじゃあな!」

「あ、コラァ!」

「ルーナさん! 僕が助けに来ましたよ!」

「リアムか、助かる!」

「あれ、重量制限で持てない? インベントリはほぼ空なのに可笑しいな」

「言ってなかったがこのゲーム職業毎に肉体の重量が決められてて、ファイターは筋肉ダルマ設定なのか重量が滅茶苦茶重いんだ。今の面子だと俺しか持てないくらいには重い」

「そういう大事な情報は最初に言え!」

「最初の内にあれもこれもと説明してたら絶対頭に入らないだろ、それに初見のゲームな訳だしあれもこれもと下手に予備知識入れて効率的なプレイとかしだしたらつまらないと思って」

「大丈夫ですよルーナさん! 僕、死体の重量を軽くするスキルを持っているのでそれを使えばなんとかなると思います!」

「おぉ、シーフにはそんなスキルがあるのか!」

「はい、ナイフでバラバラに解体して持ち運び易くします!」

「猟奇的!! 待てなんだそのスキルは!? そんな事をされるくらいなら大人しく翌日のスタートで復活した方が「えいっ」月子ぉぉぉぉぉぉ!?」


 他人が愛情込めて作成したキャラを無慈悲に解体したり……


「おぉい! なんで俺をロープで縛り付けるんだ!?」

「さっきからヴェルさんだけ危険が迫ると我先にと逃げ出すからですよ!」

「俺はポーターで移動速度が一番遅いから足並み揃えて逃げてたら俺だけ逃げ遅れるんだよ!」

「危ない事は全部私かリアムに押し付けて、自分だけ安全圏で眺めているよな?」

「ポーターが前に出れる訳ないだろうが! そもそもポーターは一番死んだらいけない職業なんだから仕方ないだろ!?」

「理由があれば全て許されると思ったら大間違いですよ!」

「私怨だけで人の妨害する方が許されないと思うんだが!? っておい! 奥からモンスターの群れが来てるって!」

「まずい、逃げるぞ二人共!」

「はい!」

「(コクコク)」

「待て待て待て! 俺を置いてくな! 今日の稼ぎが――あぁぁぁぁぁッ!?」


 私怨で他プレイヤーの妨害に走ったりと、数時間のプレイを重ねたが中階層まで辿り着けたのは一度だけで、結果としては散々なものであった。


「あ゙ーコイツはひでぇや、普通は人数が増えるほど楽になるゲームの筈なんだが、ソロプレイよりリザルトが悲惨な事になってるわ」

「キキゾクよりも遥かに疲れたぞ……ホラーゲームというのはこんなに疲れるものなのか?」

「基本読むだけのゲームと比べれば確かに疲れる方でしょうけど、この疲労感はゲーム性とは関係ないところからやって来てる気がします……」


 途中から足の引っ張り合いが横行してほぼ叫びっぱなしになっていた三人が疲弊した様子でコントローラーから手を放す。


「俺決めたわ、協力ゲーは二度とお前達とやらない」

「「それはこっちの台詞です!!」」


 ヴェルの言葉に二人が反論したその時、クスクスと笑う小さな声が三人の耳に届き、そちらに視線を向けると獣人の少女が三人を見て可笑しそうに笑っていた。


「ゲーム、面白かった」


 そう言って花の咲いたような笑みを浮かべる少女を前に、三人は顔を見合わせる。


「まぁゲーム自体は合わなかったが、こうして四人でプレイする分には面白かったな」

「そうですね、僕もわーわー言い合って遊ぶ分には面白いと思います」

「いやいや、普通に良いゲームだろうが……でもそうだな、今度遊ぶ時はダンジョンクリーナーズじゃなくて対戦ゲーにした方が良いかもな」

「ですね……って、わ!? もうこんな時間だ! 夕飯の買い物に行かなきゃ」

「なんだと!? しまった、私ももうすぐ新人達への授業の時間だ」


 窓の外に見えた太陽の角度から後少しで夕方になると気付いた二人は慌てて立ち上がる。


「リアムは何時もの事として、ルーナは授業の方まで任されてるのか? 大変だなぁ」


 一人だけ他人事のようにそう呟いたヴェルに、ルーナが青筋を浮かべて睨みつける。


「お前という奴は、誰の所為で私がこれから授業を開くと思っているのだ?」

「え?」

「四日前、お前がこの子を救う為に新人達の前でヴメノスを使っただろ。あれの所為で新人達の間で良くない噂が広まっているんだ」

「あー、もしかしなくてもそれって"ヴメノスは禁術だから法に触れている!"って感じのやつか?」


 その言葉にルーナが神妙な顔で頷くと、ヴェルは心底面倒臭そうな顔をする。


「ヴメノスの事を誤解してる奴ってのは未だに多いんだな、そんなもん本人の無知が原因なんだから放っておけよ」

「そうはいかん、無知が原因だというならば尚更教えねばなるまい。何より同じ団員を犯罪者と疑うような真似は副団長として見過ごす訳にはいかんのだ」

「俺は別に構わないんだけどな」


 ヴェルがそう告げた途端、ルーナの堪忍袋の緒が切れ、無言のままヴェルの首根っこを引っ掴む。


「ちょ、急になんだ!?」

「お前も特別講師として授業に参加しろ」

「はぁ!? なんで!?」

「もとはと言えばお前が蒔いた種だだろう! お前が責任を持って刈り取れ!」


 そのままヴェルはルーナに引き摺られ、新人達の授業に参加させられる事になるのだった。

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