第22話 四人で協力プレイ

 少女の悲鳴が聞こえ、廊下を走るルーナとリアム、その行き先はヴェルの部屋であったが、日頃から鍛えているルーナとレギオンの雑用係でしかないリアムでは脚の速さや体力にも天と地の差があり、直ぐにリアムを引き離してルーナが先にヴェルの部屋の前に到着する。


「何があった!?」


 そのままノックもせずに扉を開け放ったルーナの目に飛び込んで来たのは、コントローラーを握ったまま背中から倒れ込んで失神した少女の姿であり、その横でヴェルが急な乱入者に目を丸くしていた。


「びっくりしたぁ、ルーナか」

「ヴェル、一体なにがあった? なんでその子はコントローラーを握ったまま気を失っているんだ?」

「あー、ちょっとゲームをやらせてみたんだが、ジャンプスケアに驚いてな」

「ジャンプスケア? そもそもゲームで気を失うとは一体どんなゲームをやらせたんだ?」

「ホラーゲームだよ」

「ホラーゲーム……もしかしてそのホラーというのは黄々が度胸試しで見ていたホラー映画のようなものか?」

「そうそう、それのゲーム版だ」

「なんでよりにもよってそんなものを、もっと平和なゲームもあった筈だろ」

「別に考え無しにホラーゲームをやらせた訳じゃない、これもこの子の為さ」

「どういう事だ?」


 ホラーゲームをやらせる事が少女の為になるという言葉にルーナが首を傾げると、ヴェルは昨夜の出来事について話し始める。


「昨日な、寝る時間になったから部屋の明かりを消したんだが、暗くなった途端にこの子が怯えだしたんだよ。その怯え方が尋常じゃなくて昨日は明かりを付けて寝る事になってさ」

「どうしてそんなに暗闇に怯えたんだ?」

「分からん、そもそも記憶がないそうだ」

「記憶がない?」

「ルーナが帰った後くらいから少しずつ話せるようになってきて事情を聞いてみようとしたんだが、自分の名前すら分からないんだと。当然なんで暗闇にそこまで怯えるのかも自分じゃ分からないらしくてさ、暗闇にしなければ問題はないんだが、明かりを付けっぱなしだと良く眠れないんだよ」

「あぁ、だから今日は少し眠そうにしてるのか」

「そういう事、こんなのを毎日続けてたら俺の身体が持たないからな、どうにかして暗闇を克服する方法が無いかと考えた結果、現実でいきなり暗闇の克服は難しいのでゲーム内の暗闇から慣れていって貰おうという事になった」

「それでホラーゲームか……」


 ヴェルらしいというかなんというか、その発想にルーナが若干呆れていると、息を切らせながらリアムが遅れて到着する。


「はぁ……はぁ……ルーナさん、早すぎですよ……ふぅ、それでなんですかこの状況?」

「ホラーゲームやらせたら失神した」

「えぇ……ホラーゲームって、一体何をやらせたんです?」

「『ダンジョンクリーナーズ』っていう迷宮の掃除屋となって冒険者やモンスターの死体を回収したりするゲームだ」

「"ダンジョン"? そのタイトルでRPGとかじゃないんですね」

「飽く迄も目標は死体回収だからな、戦闘やレベル要素がない訳ではないが、ハッキリ言って良くあるRPG要素はかなり薄めだな。あ、そうだ、四人集まった事だし協力プレイをしないか?」

「協力プレイ?」

「このゲームは最大で四人まで遊べるんだよ、折角四人居るんだしさ、どうだ?」

「僕はホラーゲームはあまり得意ではないんですが、でも協力プレイなら怖さも薄れるし、良いかな……?」

「私も別に構わないが」

「よーし、決まりだ。じゃあ軽くこのゲームについて説明していくぞ」


 そう言ってヴェルは失神している少女の手からコントローラーを抜き取ると、実際のゲーム画面を動かしながら説明を始める。


「まずさっきも言ったが、このゲームの目的は迷宮内での死体回収、それによって支払われた報酬を使って装備を充実させていき、更に難易度の高い深層を目指していくってのが一連の流れだ。戦闘も出来ない事はないが、本職の冒険者と違ってプレイヤーは飽く迄も回収業がメイン、戦っても大抵の場合負けるから戦闘は避けるのが基本だな」

「強さは重要ではないという事ですね。ではプレイヤーキャラには何が求められるんですか?」

「迷宮を生き抜く為の技術、それと重量だ」

「重量?」

「回収がメインのゲームだからな、所持品の重量限界が露骨に収支に影響してくるんだよ。ただ生き残るだけじゃ金は稼げないって事さ」


 ゲーム画面が変わり、職業選択画面に移る。


「プレイヤーは特性の異なる六つの職業"ファイター"、"シーフ"、"クレリック"、"パヒューマー"、"ポーター"、"ノービス"から一つを選択するんだ」

「名前だけ聞いてもどんな能力があるのか分からないな」

「ちゃんと説明するから安心しろ」


 ファイター、唯一モンスターとの戦闘能力を有する職業。

 序盤のモンスターくらいなら安定して倒す事が出来るが、中盤以降のモンスター相手には歯が立たなくなってくるので強いのは序盤だけ、しかし序盤の安定感は随一であり、所持重量は第二位と戦闘以外の強みも持っている。


 シーフ、迷宮内の罠や鍵などを解除出来る職業。

 移動速度が早くモンスターからも余裕で逃げ切れるので生存性能は最も高い一方で所持重量は最も少ないので金策には不向き。


 クレリック、唯一の回復職でHPや状態異常を回復出来る職業。

 迷宮内で放置されアンデットと化した冒険者の死体を浄化でき、浄化した死体は回収する事が出来るのでクレリックの有無で回収出来る死体の数も変わって来る。


 パヒューマー、調合した香りでモンスターを遠ざけたり、逆に近づけたりする事が出来る職業。

 多彩な香りによって出来る事の幅が広く、色々と融通が利く一方で香りを焚く為に道具や素材一式を持たなければならないので所持重量が常に圧迫され続ける。


 ポーター、所持重量に全てを特化させた職業。

 それ以外に能力はなく、移動速度も遅い為に生存性能も低いが、専用装備である死体の重量を無視して運ぶ事が出来る死体カバンが超強力。


 ノービス、全てが平均的な職業。

 職業スキルが存在せず、移動速度や所持重量も平均、唯一の強みとして全職業の専用装備を使用可能となっている。

 これにより状況に応じて求める職業の特性を得る事が出来るが、職業スキルが無い分どうしても本職には劣る。


「――まぁこんな感じだな。どうだ、理解出来たか?」

「……なんとか」

「RPGとかで馴染みのある職業システムなので、僕は理解出来ましたよ」

「理解出来なかったところは実際にプレイしながら覚えて行けば良いさ。取り敢えずキャラメイクからだな、俺とこの子はもうキャラ作ってあるから二人も作ってくれ」

「分かりました、ところで二人の職業は?」

「俺がノービスでこの子がパヒューマーだけど、俺は二人の職業見てからそれに合わせて職業変更するつもりだから気にせず選んでくれ」


 という訳で二人のキャラメイクが始まった。

 リアムは職業で暫く悩んでいたが、それ意外はすんなりと決め、キャラの見た目も複数用意されていたテンプレから気に入ったものを一つ選び、特に弄る事なくそのままキャラメイクを終了する。

 ルーナの方は職業選択はすんなり終わったが、こちらはキャラの見た目に拘り、長い時間を掛けて納得がいくキャラを作ろうとしていた。


 ルーナのキャラメイクを待っている間に少女も目を覚まし、三人は他愛のない会話をする。


「初めてのゲームはどうですか?」

「……怖い」

「ヴェルさん、これジャンルの選択ミスでは?」


 少女の素直な回答にリアムはジト目でヴェルを見る。


「最初は無難なジャンルにした方が良いだろっていうのは尤もなんだが、ただでさえゲームで暗闇克服っていう遠回りしてるのに、これ以上遠回りしたらマジで俺の身体が持たん」


 そんなどうでも良い会話をしていた時、リアムがふと頭に過った疑問を口に出す。


「そういえばキャラメイクの時にキャラ名の入力があったじゃないですか」

「あるな」

「この子のキャラ名ってどうしたんですか? 名前を忘れちゃってるから決められないですよね?」

「別にキャラ名を本名と一緒にする必要はないだろ、俺が適当に決めたよ」

「なんて名前にしたんです?」

「"ヘルドッグ"」

「意味は?」

「地獄の犬」

「……なんでそんな名前に?」

「いや、最初はポチとかコロとかそういうのが頭に浮かんで来たんだけどな、いくら犬系獣人とはいえガチの犬の名前付けるのは流石に良識が無さ過ぎるかなって」

「ヘルドッグに良識はあるんですか?」


 リアムが冷静にツッコミを入れていると、ルーナのキャラメイクが完成する。


「よし、出来たぞ」

「おー凄いな、ルーナそっくりじゃん」

「でも髪と瞳が茶色ですよ? ルーナさんはどっちも赤ですよね」

「そうだな、だがこれは私であって私ではない」

「どういう意味です?」

「あ、なるほど」


 リアムが首を傾げる横で、ヴェルはキャラ名を一目見て納得した表情を浮かべる。

 ルーナが作ったキャラクターの名前の欄には"月子"と入力されていた。

 つまりこれはキキゾクの主人公であるデフォルトネーム愛沢 美香子とルーナが融合した存在、ルーナが想像する愛沢 月子の姿なのだ。

 顔の造形や体型はルーナで、髪型や瞳の色は愛沢 美香子のものとなっていた。


 こうして二人のキャラメイクが終了し、プレイヤーキャラが揃ったところで四人はゲームを開始するのであった。

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