第二章 現神の凱旋
第17話 暗闇の中
そこは明かりになるものが何一つない暗闇の中、大勢の人間が不安気な様子で身を寄せ合っていた。
「お父さん、お母さん……怖いよぉ」
そんな人間達の中に三人の親子の姿があった。
怯えた表情を浮かべる少女に父と母は自身の不安を悟られまいと無理矢理に明るい表情を取り繕い我が子を宥める。
「大丈夫、お父さんが付いてるからな」
「えぇそうよ、貴女は何も心配しなくて良いわ。少し疲れたでしょう? 今は眠っていなさい」
「うん……」
両親の言葉に安心したのか、少女は母の胸に抱かれながらゆっくりと目を瞑る。
そんな親子の様子を少し離れた位置から監視するローブを目深に被った怪しい二人組が居た。
「……なぁ、ここに居る連中で何人目になるんだろうな」
「さて、何人目だろうな? 生成した杭の数からしてもう千人は超えたんじゃないか?」
「千人……」
隣に立つ相方の言葉に尋ねた方の男は暗い顔をする。
「最近、人間の集め方が雑になって来てないか? 人攫いの噂を良く聞くようになってきたし、ここまで十年掛けて来たのにもしつまらない事でバレでもしたら――」
「お前は心配性だな、"あの方"の指示でここまで上手い事やって来たんだ、これまで通りあの方の指示に従っておけば問題ない」
「でも最近はやり方が強引になって来てるってお前も思うだろう? 以前までは異能者を優先して狙ってたのに、最近はあんな……」
そこで言葉を切って男が再び視線をあの家族に向けると、もう一人の男が喋り出す。
「悲願の達成を目前にして、あの方も焦っておられるのだろう。何せ我々は十年の歳月をかけて、あの"現神"ですら成し得なかった事を成そうとしているんだからな!」
「…………」
興奮した様子の男の言葉に尋ねた方の男は返事をする事なく、ただ黙ったまま覚悟を宿した瞳で家族を見つめるのだった。
「だーかーらー! そこは二番目じゃなくて三番目の選択肢を選ぶのが正解だったんだよ! なんでルーナはすぐそう力技に頼ろうとするかねー?」
「う、煩い! 回りくどい方法が嫌いなだけだ! 次は上手くやってみせるさ」
レギオン"銀燭の碧眼"の拠点である屋敷の一室、ヴェルの私室でルーナはコントローラーを握りながらテレビの画面と向き合い、ヴェルはその横で何時ぞやのように駄目出しをしていた。
「まったく、黄々の個別ルートはしっかり三つのエンディングから全イベント回収まで出来たのに、長男の赤也のルートを目指した途端こうもグズグズになるとは……」
「仕方あるまい、こういう女々しい選択肢は性に合わんのだ」
「女々しい言うな! 愛らしいと言え! 赤也のルートに入るには愛らしさのパラメータが一定値以上必要なの! パラメータを伸ばす為にもそれっぽい選択肢は積極的に選ばなきゃいけないんだよ!」
「しかし以前、男らしさのパラメータしか伸ばしてないのに黄々ではなく緑人のルートに分岐した事があっただろう?」
「あれは緑人の好感度が一番高くて、尚且つ黄々のイベントをあまり踏まず黄々の好感度が個別ルート突入に必要な最低ラインにも満たなかったのが原因だ。緑人の個別ルート突入に必要な好感度とパラメータの面白さはネタ選択肢を踏んでも伸びたりするからな」
「私は大真面目に選択肢を選んだつもりなのだが……」
そんな風に二人がキキゾク談義をしていると、扉の影から二人を恨めしそうに見つめる一つの影があった。
「楽しそうですねぇ」
「うわっ!? って、なんだリアムか……そんなところで何やってるんだよ?」
「いえ、最近の御二人は仲が良さそうで、僕の入り込む隙がないなーって」
「わ、私は別にヴェルと仲が良い訳では……」
「そうですかぁ? 最近は頻繁にヴェルさんの部屋を訪れてるみたいですし、何より何時の間にかお互い名前で呼び合うようになって……これで仲が良くなった以外に何があると言うんですか!?」
「それは……その、この間の件ではレギオンだけでなく、ヴェルにも多大な迷惑を掛けたからな。少なくともヴェルの力に頼りっぱなしになっている今の私ではヴェルに副団長と呼ばれる資格はないと思ったのだ」
「まぁそういう訳でルーナが副団長として成長し、俺の力に頼りっぱなしにならずに済むようになるまで、俺は副団長呼びと敬語は止めるようにと言われた訳だ」
「ほーん、へー、そうなんですかぁ」
(全然納得する気がないな、コイツ)
ハイライトの消えた瞳で二人を見つめるリアムに、ヴェルは仕方がないなとある提案をする。
「そうだ、折角だしリアムもこっちに混ざってルーナの駄目なところを指摘してくれ」
「え? 僕がルーナさんに指摘をですか?」
「俺一人の意見より二人の意見の方がルーナも受け入れ易いだろう」
「私は別にお前の意見に反抗している訳では……」
「ほぉ? じゃあダンスパーティーイベントで赤也に手を取られた際、ショルダー・アームブリーカーを決めたのは何でだ? 手を取られたくらいで暴力を振るうなって何度も言ったよな?」
「ぐっ、それは……」
「青樹が駅前でナンパしているのを見掛けた時、背後から走り込んでブルドッギング・ヘッドロックをぶちかましたのは何でだ? いくら青樹がナンパしていたとはいえ、人通りの多い場所で暴力を振るえば警察が駆けつけて逮捕エンドになるぞってその前にも言った筈だよな?」
「…………」
「それに黄々のジム通いイベントの時も「えぇい! 煩い煩い!」」
止まらないヴェルの駄目出しにルーナがついに堪え切れなくなり、顔を真っ赤にして立ち上がる。
「大体お前のその言い方も悪いのだ! そんな風にネチネチと指摘して、そんな言い方をされれば誰だって従う気が無くなるに決まっている! もっと優しく他人を思いやった指摘は出来ないのか!?」
「何度言っても直らないからこんな言い方になってるんだろうが! というか他人を思いやった指摘って、そういう事はまず自分が出来るようになってから言いやがれ!」
「なんだと!? この前のお前の演技に乗ってやった時はお前も"グッドコミュニケーション"と言っていたではないか!」
「その後の鯖折りで全てが台無しになってるんだよ! 」
「あ、あの二人共、一旦落ち着いて……」
二人の喧嘩を止めようとするリアムだったが、二人はそれに構う事なくどんどんヒートアップしていく。
「そもそも私の事を会話下手くそだなんだと言うが、そう言うお前は部屋に一日中籠ってロクに人と会話もしていないではないか!」
「俺はちゃんと会話しようと思えば会話出来るから良いんですぅー! 会話しようとしても上手く出来ないルーナとは違うんですぅー!」
「言ったな貴様!? ならば証明して貰おうではないか!」
「良いだろう! コントローラーを貸してみろ」
そう言ってヴェルが手を差し出すと、ルーナは首を横に振る。
「ゲームは駄目だ、プレイ済みのこのゲームをお前にやらせたところで私より上手くやれて当然だろう」
「じゃあどうする? 俺もやった事がない未プレイのADVでも出すか?」
「いや、私に良い考えがある」
ヴェルの提案を断わり、ルーナは自身の提案を告げる。
「お前には明日の新人団員の実地訓練に参加して貰おう」
「…………は?」
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