第2話 女の子は指先から

「やっぱり、私を傷つけるんですね。

 ご主人様、それは新しい小型兵器ですか? それとも小型武器……」


「――全然違う?

 ……ご主人様、本当に言っているのですか? それが、ただの爪切り?」


「そのライトは敵に照準を定めるためではなく、爪をよく見るためで、はさみのような形状なのは爪を切る力が入れやすいから?」


(じっと目を見つめられる)


「……」


(急にベッドの上でばたばたする少女)


「なんですかそれ! 爪なんて切らなくても自然に取れますから! 剥がれますから! 爪を噛めば許してくれるんですか!?」


(暴れると危ないので、しっかりと固定する)

(すんなりと、バタバタするのをやめる)


「ぐすん……そうですよね、私に拒否権なんてありませんよね。分かりました。好きに傷つけてください」(涙目で)


(おびえたように浅い深呼吸をする)

(爪を切る音)


「……んっ、痛く、ない?

 爪を剝ぐものではなく、これは爪を切るものだったんですね」


「――さっきからそう言っていた? そ、それはそうなのですが。

 生まれてこのかた爪を切るものを見たことがないので。

 爪って、引き剥がさなくても良いんだ……」


「……どうぞ、ご主人様が爪を切りたいと言うのであれば」


(恐る恐る手を差し出す少女)

(爪を切る音)


「……でも、そうですよね。私の爪が伸びていると、ご主人様のお家を傷つけてしまいますよね。

 しかし、それはご主人様のお手を煩わせるほどでも……

 あれでしたら、自分が!……」


(やすりで爪を研いでいる音)


「な、なにしてるんですか!」


「――爪を綺麗に研いでいるだけ? ガタガタだと何かと不憫ですけど……

 だ、だからどうしてそこまで……」


「――黙って身を委ねろ?」


(少し頬を染める少女)


「は、はい。ご主人様のおっしゃる通りに。……すごい、どんどん丸みを帯びて綺麗になってく」(目を輝かせて)


(電動シェーバーを起動する音)


「な、なんですかそれ!? めっちゃ震えてるんですけど!」


「――これも手を綺麗にする道具? 嘘、ですよね……? やっぱり私にいやらしいこと、変なことしようとしてるんだ……」


(電動シェーバーを少女に近づけ、ぎゅっと腕をつかむ)

(上目づかいで懇願するそぶりを見せる)


「や、優しくしてください、ね?」


(視線を外して、より一層頬を染める)

(肉球周りの余分な毛を剃る音)


「いっ……? 毛を剃っているのに、痛く、ない? すすすごいです!」


「初めて使ったけどうまくいってよかった? も、もしかしてこれ、旦那様がおつくりになったんですか?」


(こくりとうなずく)


「さらに剃っても毛が落ちず、その機械に吸い込まれるんですね。毛が落ちるだけでぶたれる世界にとって、これは革命ですよ!」


「――さっきからちょっとずつ小出しにしてる、暗い背景が気になりますか?」


「あまりお気になさらないでください。私一人だけがこのような扱いを受けていたわけではありませんので」


「今の私がこんなことを言うのもおかしいんですけど」


「ほかの獣人が私を見たら、怒鳴られてしまうかもですね」


(とてもキラキラした作り笑いを見せる)


「ご主人様は、私にとって……って何しようとしてるんですか?」


(思いっきり少女を抱きしめる)


「えっ、えっ、ちょっといきなりなんですか。やっぱりそういうことするつもりだったんですか?」


「――そうですね。ご主人様はそんなことしませんよね。

 ……次は、何をするんですか? もうおやすみの時間ですか?」


「――もう我慢できなくなった?」


「///へ?」


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