堕ちサビ

 何を伝えたいのかもよくわからない。ただ、その時の気持ちに任せて書いた手紙。シンプルに死にたかった。もう、消えた方がこの状況に耐えて、自分の呼吸音を聞き続けるよりも有意義なもののように思えた。でも、私が死ぬことで変わるであろうことを考えたら、自殺するのも違う気がして。私の望みがわからなくなった。私がわからないから、どんどん私の外に、家の外に縋っていった。

 そうして、中学二年の終わりから今日この日に至るまで、私はずっと愛する人を理想の人を探し続けることになる。思わせぶりな態度とか、庇護欲をそそるテクニックとか、使えるものはなんでも使って。家の状況も見ての通り最悪だから、家に帰ってもヘッドホンで姉と両親の喧嘩から目を背けて部屋にこもってるだけで一日が終わって、夕飯を食べはぐったことも一度や二度じゃない。私なんか存在していないみたいで早く解放されたいって気持ちも昂っていった。男をとっかえひっかえして、尻軽だなんだと言われても、いや、そういう罵倒こそが私を生かした。誰かに嫌われることは死ぬ理由に十分すぎる。あとは、私を愛して、その愛の末に殺してくれる人を見つければよかった。

 そして、やっと見つけた、君のことを。あの日、たまたま、朝寝坊して、自転車じゃ間に合わないから、バスに乗ったの。帰りもバスでもよかったんだけど、あんまり好きじゃなくて、息苦しいからさ。で、歩いてたら、前に見えたんだよ。俯きながら、でもなんだか楽しそうな様子のクラスメイトが。つい声かけちゃったよね。同類のような気がしたのかな、無意識に。女の勘はするどいので、当たってしまったね。君は私と同じだった。罪に寂しさに愛に泣いていたんでしょ。あとは知っての通りだよ。でも、君は変わってしまった。君からの私への愛が増えるたび、君は普通になっていってしまった。私の求める人では無くなってしまった君を私は絶望の淵に落とした。また罪を増やした。でもね、こっちから捨てておきながら、忘れることができなかったみたいなんだ。君との平穏を幸せを。他の人と交わっても君の顔が浮かんだとき、やっぱり君だと思った。私の運命は君だと思った。だから、私からのお願いです。私を幸せにしてください。私を満たしてください。次に会ったら、骨が折れるほどに抱きしめてください。そして、私のことをどうか全てから解放してください。あなたのその荒れた手で全てを終わらせてください。それが私の願い。お願い、もし君の中に私への愛がまだあるなら、お願いします。叶えてほしいんです。私の正真正銘の一生に一度の君への願いを。

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