鬼灯の手記

はじまり

 お元気でしょうか。余命幾ばくもない死の床か、はたまた絶望で身を投げるその前にこの手紙を読んでいるか、思い出していることを今の私は切に願っています。それが、私が今わざわざ時間を消費して、こんな手紙を書いているただひとつの目的です。私はあなたが元気で健康である未来が許せそうにありません。ですから、きっといつか死んでください。できるだけ不幸になって、満たされることなく死んでください。絶望のふちで泣きながら、死んでください。それが私の願いです。

 嫌いなあなたに手紙を書く理由はひとつ、恨みつらみを書き綴るためです。あなたを不幸にするためです。ポジティブ思考のあなたをどん底に落とすためです。だから、思いつく限りに綴ることにします。あなたがうんざりするように、あなたが死にたくなるように。

 あの日、親の帰りが遅く、一人で留守番をしていた日、突然にあなたは来て、私に言いました。

「親が帰ってこないなんて、最高じゃん。別に平気でしょ。ていうか、帰ってこない分だけ好きなように遊べるじゃん。好きなだけお菓子を食べて、アニメをみて、飽きたら寝て、幸せの極みじゃない。」

 親が帰ってこないことを心配して、悲しんでいる私にあなたはこんなことを言い放ったのです。あなたにとっては私を励ます言葉だったのかもしれない。それでも。私には深く突き刺さりました。なんてことを考えるのだと思いました。呆然としている私の横であなたは自分で言ったように、お菓子を持ってきて、ソファに寝そべりながら、サブスクを開き始めましたね。その姿もわたしの心を深く傷つけたのです。私は酷くあなたに失望したのです。結果で言えば、親は無事に帰ってきました。心配かけてごめんねと、普通の顔で言われました。あなたは気づけばいなくなっていました。車の音が聞こえたので、親が帰ってくるかもしれないと思い、急いで用意した宿題の姿を一瞥した両親は良い子だねと私の頭を撫でながら褒めました。罪悪感が私の胸にずんと残りました。あなたへの不信感もその時はじめて抱きました。

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