第5話 放課後

英明学園に転校してきて初めての放課後を迎えた。 俺はいそいそと鞄に教科書を詰めて帰り支度を始める。


一人暮らしの条件に成績が中の上をキープしないといけないので、置き勉はしない。 結構大変よこれ。


鞄を持って教室から廊下に出る。 さて、帰ってゲームをしよう。 最新作の死にゲーが俺を待っている。 流石東京だ。住んでいたド田舎とは違い通販を利用しなくても発売日に最新作のゲームが購入出来る。 そしてネット環境も抜群。サクサクとダウンロードが終わるからとても嬉しい。 田舎ではダウンロードに2~3時間を費やすのが当たり前なのだ。 最高だぜ東京!!


ゲームが早くしたい。アパートに帰る為、廊下を早歩きで移動。 その途中で


「あっ、しまった。冷蔵庫の中身が乏しくなっているのを思い出した」


……全く嫌な事を思い出してしまった。 自炊をしないといけないから食材を購入しないといけなかったんだ。 早く最新のゲームがしたいのに。 こればかりは無視出来ないので、帰りにスーパーに寄って食材を買って帰らないと。


廊下の真ん中で立ち止まり、何を購入すべきかを思案している(唸りながら何を買うか考えているので、端から見たらただのアホにしか見えない)と


「い、和泉君! 廊下の真ん中で何を唸っているんですか? 何か悩み事ですか? も、もし私で良かったらご相談にのりますが」


と俺の背後から誰しもが聞き惚れる綺麗な声が聞こえてきた。 慌てて声のした方を振り向くと、土方さんが心配そうな顔をして立っていた。


土方さんは今から部活なのだろう。 手にはテニスのラケットとスポーツバッグを持っていた。


「えと……土方さんは今から部活? 頑張ってね」


「あっ、はい。ありがとうございます。 って、そうじゃ無くて、何を考えていたのかを聞いているんです」


俺は土方さんの質問に素直に答えた。


「大した事じゃないから大丈夫。ただ、食材を買って帰らないといけない事を思い出しただけだから」


「そうなんですか。お母様に頼まれたんですか?」


「うんにゃ。頼まれたんじゃ無いよ。俺、今一人暮らししてるから」


俺がそう言うと、土方さんはビックリした顔をして


「い、和泉君は一人暮らししているんですか!?」


「うん」


「何故一人暮らしを?」


「えと、土方さんからすれば呆れる返答かも知れないけど、俺はネット環境が滅茶苦茶良い所で思う存分好きなゲームをしたかったから……かな? 東京は通販を利用しなくても発売日に最新作のゲームが購入出来るし、ゲームオタクの俺にはもってこいの素敵な環境だよね♪ ただ、自炊をしないといけないから大変だよ」


土方さんは俺の返答を聞いて、何故か自分の顎に人差し指を置いて思案顔になった。 そして


「分かりました! それじゃ今からスーパーにお買い物に行きましょう! 私も一緒に行きますので」


いやいや、待て待て? 何故土方さんが一緒に買い物に来るんだ? おかしいだろ? それに、土方さん部活は?


「土方さん部活は? 早く部活に行かないと不味いんじゃ? それに、買い物位1人で行けるって。子供じゃないんだから」


俺は土方さんにそう言ってお断りを入れたのだが


「今から部活の顧問の先生に " 今日は部活をお休みします! " と伝えに行ってきます! 少しばかり此処でお待ちくださいね」


「あっ、ち、ちょっと待って土方さん!」


土方さんは俺の制止を無視して部活の顧問が居る職員室へと小走りで向かっていった。


……何故か土方さんにこの場所で待機を言い渡された俺。 早く買い物を済ませてアパートに帰ってゲームがしたいんだけど……。 待っていないと駄目かなやっぱり……。


そして待つ事 約10分位。(腕時計で確認したから間違いない) まだ土方さんは現れない。


……帰って良いかな? よし、帰ろう。 そして買い物済ませてアパートでゲームだ。


そう結論を出して数歩歩いた所で


「お待たせ致しました!」


と息を切らせた土方さんが帰ってきた。 ちっ! もう少しで帰れたのに。


「あれ? 和泉君は何故少し場所を移動しているのですか? もしかして1人で帰ろうとしていました?」


「イヤソンナコトナイヨ? チャントマッテタサ」


「何故カタコトなんですか? 怪しいですね。……まぁ良いでしょう。 あのですね和泉君、部活の顧問の先生に今日は部活をお休みしますって言いに言ったら、大会が近いのに部活を休むのは余程の理由が無いと駄目ですって言われちゃいました。だから今日はお買い物にはご一緒出来なくなりました。物凄く残念ですが致し方ありません。 申し訳ありません」


……は?


「では私、部活に行ってきます。すみません和泉君。私から言い出した事なのに」


「いや、気にしないで。部活頑張ってね」


「はい。ありがとうございます」


そう言って土方さんは部活へと行ってしまった。


その場に残されていたのは呆然と去っていく土方さんの後ろ姿を見ていた俺の姿だった。


……俺の貴重な時間を返して欲しい。 おっと、この時間も無駄な時間だな。早く買い物を済ませてアパートに帰ってゲームをしよう。


気を持ち直した俺は、学園を出てアパートの近くのスーパーに向かって歩きだした。




ここまで読んで頂きありがとうございますm(__)m


面白いと思われたら ♡ ☆評価 コメント レビュー等を頂けたら嬉しいです (* ̄∇ ̄*)


今後とも拙作を宜しくお願い致しますm(__)m













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