~無機の女性(おんな)を一局(ひとつ)乖離(はな)れた、Aの素顔は黄泉の理郷(くに)から―From second paradise―~(『夢時代』より)

天川裕司

~無機の女性(おんな)を一局(ひとつ)乖離(はな)れた、Aの素顔は黄泉の理郷(くに)から―From second paradise―~(『夢時代』より)

~無機の女性(おんな)を一局(ひとつ)乖離(はな)れた、Aの素顔は黄泉の理郷(くに)から―From second paradise―~

 困惑して居た幾多の幻夢(ゆめ)から、俺の精神(こころ)に跳ねる万葉(ことば)が活気を被(こうむ)り、明日(あす)の日元(ひもと)を片手に具える幻想(ゆめ)の芳香(かおり)へ独歩を拵え、漸く芽の出る活歩(かつほ)の暗黙(やみ)から上気を得て居た。俗世(このよ)の独歩(ある)ける正気の暗黙(やみ)から人間(ひと)の脳裏に何時(つね)に逆巻く至柔(しじゅう)の晴嵐(あらし)を初春(はる)へと見上げ、俺の精神(こころ)へ辿れる感覚(いしき)は幻夢(ゆめ)を丸めて正気を失い、他(ひと)の寝言を空(そら)で聴いては律儀を装う余程の臭気を片付け始める…。

 初めて活き得る幻夢(ゆめ)の末尾は俺の目下(ふもと)で感覚(いしき)を連れ添い、呼気(こき)へ跨る多くの無想(ゆめ)から頭痛の種さえ遠くへ退(しりぞ)け、早歩きに幼児の闊歩に独身(ひとりみ)に咲く勇気を従え、明日(あす)の日元(ひもと)を不乱に捜せる好(よ)き隣人さえ確保して居る。俺の夜気(よぎ)には人間(ひと)の未完(みじゅく)に概(おお)きく解(と)け得る覇気の感無(オルガ)を上手に見初めて、苦力(くりょく)の努めが両脚(あし)に在るのを人生(みち)の果てから大目に読み取り、昨日まで観た奈落の縁(ふち)から恰好(かたち)を呼ばない感覚(いしき)を幻見(ゆめみ)て、明日(あす)の果(さ)きから活歩(かつほ)を牛耳る夜目(よめ)の感覚(いしき)へ拡散して生(ゆ)く。白紙の旋律(しらべ)は現代人(ひと)の無機へと概(おお)きく拡がり、現代人(ひと)の感覚(いしき)が現行(そこ)に無いのを既視(おおめ)に観たまま丁歩(ていほ)を続けて、寡黙に対する感覚(いしき)の理知(はどめ)を矢毒に任せて宙(そら)へ飛ばした。無言を欲しがる俗世(このよ)に活き得る現代人(ひと)の内実(なかみ)は、小手にも奪(と)り得ぬ僅かな気力も創作には無く、その身の理性(はどめ)は生き抜く為にと涼風(かぜ)をも怖がる保身を訴え、主張して生く自己(おのれ)の旧巣(ふるす)は元(もと)を正せば活気を欲しがり、身分の果てには恥ずかしさも無い暗黙(やみ)の手踏みに返還され得る。俗人(ひと)の集まる世俗の無様に騒音(ノイズ)に歯向かう小手毬(こてまり)を観て、初春(はる)の暴嵐(あらし)にその実(み)を費やす相当仕込(そうとうじこ)みの集中(さなか)を以て、自己(じこ)を侍らす晩秋(あき)の宙(そら)まで自体(おのれ)を庇護して虚しさを知る。女性(おんな)の躰が吟味を浮かべて男性(おとこ)へ蔓延り、退屈間際に煩悩(なやみ)と相(あい)する性(ひと)の相手は性差を拵え、幾つに成っても寡黙へ向かない人間(ひと)の本能(ちから)に唾棄を発する。虚空に見紛う砂利の上から現行人(ひと)に不向きの人道(みち)が乗り出し、葛藤(さゆう)に導く黄泉の〝古巣〟は如何(どう)にも斯うにも恰好(かたち)を示せず、女性(おんな)の性(さが)には幾度にも無い苦悩が宙観(そらみ)て、男性(おとこ)の目下(ふもと)へちょこんと居座る不義の局部(かなめ)を露わにして生く。四季の生味(かおり)に未潤(みじゅん)が漏れ出し、人間(ひと)の感覚(いしき)が開花する頃、行く行く狭まる人の果(さ)きへは幻夢(ゆめ)が散(ち)ら張(ば)る疲労を奏でて、男性(おとこ)も女性(おんな)も奥手を蝕み生気を奪(と)れない俗世(このよ)の落胆(おちど)に揚々責められ、自分の居場所に自由を保(も)てない小波(なみ)の口炎(うさわ)を静かに聴いた。

      *

 アイドル歌手のN・Aが出て来た。Aは矢張り芸能人にも人気が在る様子で、A込みで繁華街に人気のあるお笑いタレント二人、その二人に纏わる芸人、Yの奴ら、他女性芸能人、素人(男女を含め)も居たかも知れない、等が集まって、カラオケルームの様(よう)な一室にてやんやと喋って居り、その内に俺も居て、俺は、N・Aが居る、と言うだけで可成り嬉しく楽しく、大阪人とは違う東京人と喋る事が出来ると言うだけで、テンションも上がっていた。初めはテレビ番組のように皆で盛り上がり、皆もそれなりに楽しんで居たようだったが、次第によく在る喋り疲れた際の間(ま)が特に大阪人の方に出て来て、先ずお笑い芸人二人は余り喋らなくなった。特にH(二人の内の一人)は俺とAが喋って盛り上がっているのに一向盛り上がったり等せず、ずっと白いソファに浅く座った儘で下を俯き、俺とAが盛り上がるのを自分の我儘にて閉じ伏せようとでもするように、機嫌悪い様子を見せて居た(その時は怒ったり迄はしなかった)。

      *

 十字の自活(かて)には情緒豊かな腐乱が顕れ、人間(ひと)の罪悪(つみ)から俗世(このよ)を流れる感覚(いしき)の殴打を怠惰へ繋(むす)び、やがて血に降(ふ)る流体(ながれ)の火蓋は真っ赤に燃え尽き両掌(りょうて)に伏した。転々(ころころ)弾転(ころ)がる農緑(のうりょく)から成る周辺(あたり)の気運(はこび)は、現行(いま)に差し突く固陋の手腕(うで)から軒並み運べる向きの傘下をその眼(め)にした儘、矮小(ちい)さく漂う黄泉の蜃気は俺の背後(あと)から前方(まえ)へと繰り出し、煩悩(なやみ)の膨(おお)きな無意(むい)の若輩(やから)を当面離して滑稽(おかし)く呼べ得る女性(おんな)の生気を大事にして居る…。未亡の寡黙(やみ)から誰にも識(し)られぬ気配を傾け、自体(おのれ)の内膣(やみ)には男性(おとこ)を宿せる器量を従え、茶色の女匣(はこ)には男性(おとこ)の生気を段々腐らす黄泉の神秘(ふしぎ)が宙吊りに在る。乳白(しろ)い吐息が女性(おんな)の理肌(はだ)から次第に漏れ出し、初めに目にする「宙(ちゅう)の酒場」は如実に突き刺す害獣(けだもの)さえ識(し)り、齷齪働く俺の正味の由来に先(せん)じて、男性(おとこ)の両肩(かた)から生気に溢れて漏れ出す活気は、他力に培う埋れる実力(ちから)が寝耳を欹て俗世(このよ)の脚色(いろ)から程好く発(た)ち往く無想(むそう)の感無(オルガ)を獲得して居る。

 俗世(このよ)の温度と黄泉の温度の二履(にば)きを表す孤独の坊には、女性(おんな)の気色が空気(やわら)に失(き)え行く無機の実力(ちから)が程好く発(た)った。俗世(このよ)を損なう〝電子〟の果てから私欲(よく)に見取れる矛盾の回帰は男性(おとこ)の孤独を馴らせる後にて女性(おんな)の心身(からだ)を透って遺棄する二極(ふたつ)の性(せい)から上気を昇らせ、無想(ゆめ)に見紛う現(うつつ)の果(さ)きから我欲(よく)の振度(しんど)に拡散して逝く〝無い物強請り〟がその場を訴え、自由の栄華に自在を愛する無機の不向きに自由を訴え、女性(おんな)の肢体(からだ)は自体(じぶん)の身辺(あたり)に純白(しろ)い景色を実に観ようと、間抜けな空気(しとね)を這い出た後にて調子付き生く音頭を識(し)った。自己(おのれ)の暗黙(やみ)から始終を波(わた)れる波動(うごき)が立ち行き俗世(このよ)の集地(アジト)を一度に眺める場所を知ったが、俺の過去から遠く上がれる他(ひと)の表情(かお)など〝電子〟に遠退き、漆黒(くろ)い輪舞曲(ロンド)に暫く透れる幻夢(ゆめ)の調子に悪態吐(づ)いた。〝電子〟の寡黙(やみ)へと自身を落せる〝空気(しとね)の信徒〟は、無暗矢鱈に喜怒を眺める無欲の体裁(かたち)を地中へ葬り、哀れ成る儘、自信を射止める人間(ひと)の絆(つな)から得たその腕力(ちから)は、たった独りの人の脚力(ちから)に到底叶わぬ無難を見て識(し)り、慌てないまま独自の密室(へや)にて暗黙(やみ)を頬張る自足の絡みを得手としている―――。

 無礼に躍動(はたら)く俗世(このよ)の自然(あるじ)の空気(もぬけ)の果(さ)きから現代人(ひと)の独自を孤独へ曇らす未完(みじゅく)の成就が頭角(あたま)を擡げて、俗世(このよ)の四柱(よすみ)へ煌(かがや)き波(わた)れる飽(あ)しき愚痴さえ項垂れ始め、男性(おとこ)と女性(おんな)が〝生き血〟を好める禁制豊穣(きんせいゆたか)な道徳(みち)が列(なら)んだ。俗世(このよ)の心底(そこ)から次第に豊かな私宝(たから)が顕れ、現行人(ひと)の欲芽(よくめ)は次第に弛(たわ)める身欲の〝暴徒〟を悦に睨んで、明日(あす)の自活(かて)からその実(み)を葬る〝電子(あかり)〟の在り処を払拭し始め、現行人(ひと)と人間(ひと)との統(すぐ)れた配置を何に歪曲(まげ)ずに白雲(くも)に見上げて、煩悩(なやみ)の上手に吾子の曇らす掌(たなごころ)にさえ、無闇(やみ)を相(あい)する思春が降(お)りた。

 現行(ここ)に息衝く〝脆弱(よわ)り…〟の果(さ)きから他(ひと)の未完(みじゅく)がぽつんと現れ、俗世(このよ)に息巻く害悪(あく)の果てには普遍に居座る害獣(けだもの)が居り、天変地異まで偏在して逝く無理を化(か)え行く未信の果(さ)きには、紺(あお)く束ねる他(ひと)の情緒が儚い芽を出し成長して生く。俺の文句(ことば)は現行(いま)の果(さ)きから後生細身(ごしょうほそみ)に誘惑を識(し)り、人間(ひと)の前方(まえ)にて教鞭(むち)を執るのは至難の業(ぎょう)にて、明日(あす)に培う我が実(み)の精神(こころ)は思惑(こころ)を透して結紮させられ、苦悩に亘(わた)れぬ遍く宮(みやこ)の児(こども)へ返上(かえ)して宮(みやこ)を去った。俗世(このよ)の無理から黄泉(あのよ)の無理迄、俗世(このよ)に尽き得る吟味の呆(ほう)けに万葉(ことば)を揺蕩(ゆら)げる他(ひと)の両掌(りょうて)は素直に成らず、既視(すで)に透れる昨日の身欲(みよく)は無理を受け付け一悶着して、俺の精神(こころ)を廻れる白紙は段々「信じた軌道」へ乗り出し、逝くも還るも容易い「感覚(いしき)」に苦言を唱(しょう)する幻想(ゆめ)を突く儘、〝蜃気〟に見紛う夜気(よぎ)の蒸気は生命(いのち)を保(も)ち出し〝死のう〟と知った。適うべくして夜目(よめ)の周辺(あたり)は身欲を蹴散らせ、明日(あす)の蒸気は人間(ひと)に見紛う造形を観て、俺の背後に細小(ちい)さく利(い)き得る理産(りさん)の発揮は、人間(ひと)の寿命(いのち)に余命(いのち)に優れる利算(りさん)を立たせて、旧い〝社(やしろ)〟へ俺の背中は還って入(い)った。

 〝向き〟の上気が〝蒸気〟と蹴上がり巧く列(なら)んで、他(ひと)の〝勝手〟は大海(うみ)を識(し)るのに海馬(うま)の背に乗り文句(ことば)を成らせ、香ばしくも在る空気(しとね)に紛れた糧の生臭(にお)いが黄泉の〝寝言〟の心地に灯れる豊穣(ゆたか)な珊瑚の希少へと逝き、透明色した滑稽(おかし)な呼気(いき)には幻(ゆめ)の逆奏(もどり)が速いのも在り、無限に突き出る苦労の水面(みなも)は人間(ひと)の孤独へ好く好く向く儘、幻想(ゆめ)の目下(もっか)で足場を留(とど)める無為の発揮を既視(おおめ)に観て居る。――――。

      *

 俺とAがどれだけどんな話の内容を以て、どんな助走を付けて笑ったとしてもHは俯いた儘で一向に此方を見ようともせず、他の芸能人関係者達も次第にHに釣られてHと似た様(よう)な姿勢を採り出し余り喋らなくなり、そうした〝苛つきの矛先〟は常にAではなく俺に向けられ、それは人気度、俺とAの違い、又男女の違い等が功を奏する形に在り、俺には如何(どう)する事も出来なかった。周りには何時(いつ)もの様(よう)に気遣い、皆が幸せの内に在れば、なんて思うから俺は余計にその時そこに集った輩達に腹が立った。

      *

 和らぎ始めた無想(むそう)の階下に俺の曇りは燦々晴れ行き、無垢を相(あい)せる我等の共鳴(さけび)は無鈍(むどん)に尽きせぬ宙(ちゅう)へと細切れ、弾く旨には遺棄に間近い害獣(けだもの)が居て、明日(あす)の自活(かて)から現行(いま)を苛む無欲(よく)の叫びを言朗(げんろう)して生く。白い人煙(けむり)が宙(ちゅう)を巻くのが早い現行(いま)にて俺の無想(ゆめ)には未完(みじゅく)の成就が再三断り、胸に間近い〝軌道〟の行方は未知の順行(ながれ)の道標(みちしるべ)へ発(た)つ向きの詩吟(しらべ)が泥酔して居た。孤独の臨界(かぎり)に女性(おんな)が侍らす小人(こびと)を除き、騎士の発(た)つ間(ま)に尻餅付け得る幻想(ゆめ)の輪舞(ロンド)は結晶(かたまり)とも成り、乳白(しろ)い甲(こう)から女体(からだ)を湿らす葦の呼気(いき)へと頬杖突いて、俺の煩悩(なやみ)を空気(しとね)へ堕とせる無為の夢には菜の花さえ咲き、それを掌(て)にする隠れた独身男(おとこ)は〝隠者〟の印(しるし)を豪語(うわさ)に採られて、操(あやつ)る夢想(ゆめ)には何にも咲かない哀しい男性(おとこ)の無口が在った。俺の肢体(からだ)は一人の男性(おとこ)の儘に操(と)られて明るい陽(ひ)に向く白菜(しろな)の性格(あかり)を無理に曲げずにその延びまで観て、自己(おのれ)を頼らす男性(おとこ)の揺蕩(ゆらぎ)は白馬に跨げる騎士の態(てい)にて、白菜(しろな)を捕えて陽光(ひかり)へと向く幻夢(ゆめ)の将来(さき)までAと登った。許され間際の男性(おとこ)の我欲は率先して行く本能(ちから)の美味から自分と真横に転々(ころころ)寝そべる夢遊の客等(きゃくら)と統合した儘、無為の皆無を遮る事無く真向きに据え込む律儀の呼笛(あいず)に白い宙(そら)への終着を観て、俺とAとが同じ速度で並んだ歩速(ペース)を寡黙へ馴らして弓を萎(しな)らす童児(みじゅく)の心理に没頭した儘、二度と上がれぬ不適(ふてき)な生理を暗(やみ)の間(ま)に間(ま)に従い観(み)せた。

      *

(俺)「あのH、何時(いつ)か葬る…」

      *

 俺の文句(ことば)は苛々したまま猪突に仕上がり、H目掛けて一足跳びにて突っ切る態(てい)だが、矢庭に仕上げた身欲(みよく)の果てには自己(おのれ)を曇らす豊穣(ゆたか)な危惧さえ一段身構え、安い身元を彷徨う折りには単調主義(モノクロリズム)に活(かつ)を見出す単調(たやす)い脚色(いろ)から自衰(じすい)が浮き立ち、幻(ゆめ)を講じる文句(ことば)の元(もと)では独人(ひとり)を蹴散らし独身男(ひとり)を遺棄する無欲の牛歩がその実(み)を保(も)った。無為の〝触手〟は明日(あす)の気色を逆手(さかて)に準え、無機の〝向き〟にて一長短(いっちょうたん)から美欲(びよく)が仕上がる元気さえ保(も)ち、目前(まえ)の気色を鵜呑みにして行く無有(むゆう)の式から絆され始めて、独語(ひとりごと)を吐(つ)く黄泉へ逆らう固陋の内実(うち)から趣味を気取れる愉しみさえ持ち、俺の姿勢(すがた)を色々奏でるAの調子の華の間隔(あいだ)は自由に景色と俺を象(たど)れる虚(うつけ)の形(なり)さえ仕留めて在った。孤独の範囲(うち)から孤独が産れて、暗黙(やみ)の臨界(かぎり)に歯軋りさえ在り、俺とAとを永久(とわ)に繋げる輪舞曲(ロンド)の行方は空気(しとね)の在り処を俺に報さぬ男女の揺蕩(ゆらぎ)を投身させ得て、無理に射止めぬ女性(おんな)の類(るい)には「八度(はちど)」倒れぬ夜目(よめ)の揺蕩(ゆらぎ)が自体(おのれ)を建て替え、俺の未然(みち)には幻夢(ゆめ)に名高い思想(ゆめ)が現れ、俺とAとを薄平(たいら)に取り巻く自然(あるじ)の果てには宙(そら)の途次(みち)への何処(どこ)へ立っても軟い両眼(まなこ)の蓋を開(あ)け得る四温(しおん)に導く涼風(かぜ)が芽吹いた。

 床(とこ)の間(ま)に就く無駄の羞恥の息の寝息(しらべ)に、俺の生歴(かこ)から奇妙に差し込む事始(こと)の揺らぎが其処彼処に観え、やがて失(き)え行く無為の行為の滑稽(おかし)な寝言(しらべ)に、人間(ひと)の眼(め)から観る無想(ゆめ)の言動(うごき)が淡々(あわ)く傾(かしづ)き、俺の背後(せなか)は布の厚差(あつさ)に深々(しんしん)温もり、明日(あす)を幻見(ゆめみ)る神秘(ふしぎ)な温度を額(ひたい)に保(も)った…。

      *

 …そして遂にHが、

「もうええわ、おもんないわ、もうこれやめよ!やっててもしょうないわ!」

等と、まるでAを奉る会を終ろう、と言うような事を言い出した。俺はここで初めてそういう番組だった事を知る。Aは矢張り流石にどんな状況にも殆ど動じず、他人を許して居るようだった。器が違うと思った。「もうやめよ」と言われながらも、A(憧れの女)との話の延長で中々当然話を終れない、又終らせたくない、俺のAに対する気遣いのような思いや状態もあって、Hの言う事・態度に無性に腹が立って来て、改めて「繁華街に人気の在るお笑いタレント二人」、特にHの事が俺は〝大嫌い〟に成った。

      *

 現代人(ひと)の間(あいだ)で無数に上がれる〝人の手〟を観て俺の精神(こころ)は動揺して居り、現行人(ひと)の視(め)に付くブランドばかりを宙(ちゅう)に投げ遣り夢中で認(みと)めて、現行(ここ)に活き得る自分の生気を傍観して居た。俺を見付ける現行(ここ)に活き得る怜悧(つめ)たい視(め)からは俺の生歴(かこ)から丈夫に上がれる〝苦し紛れ〟を充分観て居て、精神(こころ)を病(や)ませる俺の思惑(こころ)は何歳(いくつ)に在っても無性を携え、活気識(し)らずの自活の内にて意味を透せる瞬間を観た。紺(あお)い膨宙(そら)から〝意味〟の零れが拡散する内、自己(おのれ)の身欲に進退窮まる無純(むじゅん)の心機が夢中を見て取り、俺の周囲(まわり)で段々どんどん透る現代人(ひと)には自分と同様(おなじ)に生気を保(も)たない空(から)の陰りがぽつんと落ち得た。矮小(ちいさ)な晴嵐(あらし)が俺の頭上(そら)から真向きに鳴り出し、俺と父性(ちち)とはこの場に在っても一向語らぬ無機の言動(うごき)に沈静して行き、両脚(あし)を止めない不屈の経過(けいか)は小言を列(なら)べて俺と向き合い、軟裸(やわら)を欲して徘徊して生く未知の〝分岐〟を概(おお)きく識(し)った。俺の自活(かて)とは、誰にも識(し)れない密室に在る。他(ひと)の自活(かて)とは、宙(ちゅう)を彷徨う密室に在る。大空(そら)を駆け生く一台(ひとつ)の天馬が羽根を拡げて俺へ近寄り、無垢の態度を以前(むかし)から添え滑稽(おかし)く在っても、微妙に静まる〝向き〟の片鱗(かけら)は上気を逸して身悶え始めて、俺に先行(さきゆ)く二局(ふたつ)の悪魔を現代人(ひと)に落した。

      *

 そうしてHの〝やめよ〟が効いたのか、皆は急々(いそいそ)帰り支度をし始め、次の瞬間には、コンパなんかで皆で勘定(レジ)待ちして居る風景に成り、Aと俺もその中に居た。その辺りで、一旦、俺とAとセッションは消えそうだった。しかし女に群がる男女の様子は相変わらず在り、俺は文字通り排除されたように無視されつつ、Aは又返り咲いて他(ほか)の仲間とセッションを図る事も多くなって、俺は、段々Aを〝憧れ〟て居た思いは垂々(たらたら)Aから離れ始めて、Aを全く他人とする事で落ち着きを取ろうとして居た様(よう)だ。女同士でならAもそんなに男へ対する程の気遣いも化粧もして居なくて強く見えたが、Aは、レジに列(なら)んだ多数の客の様(よう)に長蛇に成った皆の前方と後方とに走り回って居た様(よう)であり、忙(いそが)しい、女の強さ(過剰な迄の気丈・丈夫)を俺に見せて、俺はその情景・光景を見た為もあり、Aはもう自分に戻らない、他人の物に成る、なんて落胆し、とにかく長蛇(そこ)から離れようと試みた。

      *

 文句(ことば)の無視から宙(そら)の無視まで、概(おお)くの記憶へ宙々(ちゅうちゅう)辿れる無適(むてき)の思惑(こころ)は俺へと訪れ、軟い芽を出す女性(おんな)の人陰(かげ)から「長蛇」に列(なら)べる現代人(ひと)の頭数(かず)まで〝意味〟を配せず目下(ふもと)に見詰めて、憧ればかりを常に馴らせるAの肢体(からだ)は空気(しとね)に赴き、俺の足元(もと)から鉄壁(かべ)を造れる無機の成就を拡散して居た…。

 間隔(やすみ)さえ無い黄泉の身許へ一向続ける無欲の一連(ドラマ)の憤(むずか)る景色は、俺の他(ほか)には誰も見知らぬ夜半(よわ)の局部(かなめ)の〝見本〟を示され、軟い一体(からだ)の具体(ぜんぶ)を示され初の〝意(い)〟と成り、俺の心身(からだ)を幻夢(ゆめ)に見紛う愚かな企図には現代人(ひと)の覇気さえ奇妙に流行(なが)れて、無駄を着せ得ぬ〝魅力の寡〟が「俺」への寸出(すんで)に歩速(ほそく)を止(と)め生く…。俺の逆鏡(かがみ)がミトンの初めをその掌(て)で着せ替え、行方識(し)らずの本能(ちから)へ寄りつつ旧来(むかしながら)の技法を取り添え無機に倣って、現代人(ひと)の在り処を充分欲しがる夜半の一夜(いちや)を過ぎた跡は、他(ひと)の表情(かお)から一連(ドラマ)が差し生く「空気(もぬけ)の語り」の約束さえ在る。現代人(ひと)との理性(はどめ)に界(かい)を幻見(ゆめみ)た俺の気運(はこび)は耄碌せずとも足場を固めて、俗世(このよ)の常識(かたち)を優(ゆう)に打破する〝無適独白(むてきがたり)〟のsympa(シンパ)に付き添い、十二才(じゅうに)の頃まで〝夢〟に観て居た独房(おり)の許容(うち)から世代を懲らしめ、自分の気質と思惑(こころ)に向くのは旧来独白(むかしがたり)の馳走に在る等、sympa(シンパ)の活気にずんずん解(ほぐ)れる〝無適独語(むてきがたり)〟の進退まで見た。「併せ逆鏡(かがみ)」の空気(しとね)の範囲(うち)には黄泉の身元(もと)まで無様に下れる未知への乖離が機様(きよう)に顕れ、旧来語(むかしがた)りが延々続ける黄泉への旋律(しらべ)を現行(いま)の現行人(ひと)から絶賛されつつ、〝向き〟を呈すは現代人(ひと)の恥辱(はじ)等、たった一点(いちど)の短命(みじか)い現世(このよ)で〝俗〟を問うのは空しい行為で、併せ鏡に未完(みじゅく)を吃(ども)らす現代人(ひと)が灯らす無機の好為(こうい)は、恥辱(ちじょく)の憤怒に一向耐え得ぬ未完(みじゅく)の問いへと退(さ)がり始めた。何歳(いくつ)に成っても有機を識(し)れない御伽調子の俗世(このよ)の内実(なか)では、現代人(ひと)の文句(ことば)は心身(からだ)に刺さらず浮きを呈した現世(このよ)の内(なか)迄、空気(しとね)の初春(はる)から見事に零れる華の生気を集める間(ま)に間(ま)に、宙(ちゅう)へ浮べる至順(しじゅん)の躾は〝価値〟を返(へん)じて歩調を発狂(くる)わす。時刻(とき)の進まぬ微温(ぬる)い密室(へや)にて過去の帳が俺を識(し)る頃、慟哭さえ鳴く無意(むい)の境地が興味本位に俺まで現れ、若い気鋭(とがり)を適宜置き去る幻(ゆめ)の網羅を試み始める。俺を離れた小さな場所にはAの気配が読み取れるのだが、Aに掛かれる別の女性(おんな)の芳香(かおり)が近付き、昼の最中(さなか)は何者にも無い孤高の酒宴(うたげ)を尋常にした。現行(ここ)に始まる俺の果(さ)きには母性(はは)の躰はじんわり寄り付き女性(おんな)の貌(かお)した幾多の表情(かお)から泥濘に近い〝物憂さ〟など観て、架空の独房(おり)には俺に保(も)てない多くの木霊が微小に仕上がり、夜雲(くも)を掴める冷風(かぜ)の間(ま)に間(ま)に女性(おんな)へ目掛けて失踪(はし)って行った。

      *

 試み始めてから、場面はまるで店内から店外に変った様子で、カラオケ屋・居酒屋の前で立ち話をして居る最中(さなか)に、俺は俺なりの行き道を採り黙々と歩いて行き、そうして周りの奴等共を自分から排除しようとした時、Aが不意に列から外れて俺に声を掛けてくれて、

「え、もう帰るの?どこか行こうとしていたんじゃなかった?」

と多少の微笑を以てまるで俺と二人切りの関係・場面を作ろうとして居た様子さえ見えていたので、俺は嬉しく、

「そうやねん、俺はAと二人で落ち着いて喋りたいんよ」

と切り出した。

「ほら、俺もう、三回生になったやろ、そやからここに来れるんが限られてきて、ほらもう卒業したらAさんとも会われへんようになるやんか(微笑)、そやから、今の内に行ける所は何処(どこ)へでも行っときたいねん」

等と、〝俺はAが好きだ〟と言うアピールを、実際の事情を絡めて上手く話して居た様(よう)だった。

      *

 俺の思惑(こころ)をふわりと衝動(うぎ)ける気迫の心渦(うず)から、Aに対する身欲(みよく)の独気(オーラ)が段々仕上がり、小さな思惑(こころ)に段々静(しず)める煩悩(なやみ)の種(たね)にはAが目にした俺を包(つつ)める孤独が浮き立ち、翻(かえ)り咲けない黄泉の辛苦は俺の躰を覗き込む内、未(いま)か…、今かと、幻想(ゆめ)に跨る無理の憂慮を敏(あざ)とく識(し)った。Aの貌(かお)には男性(おとこ)を誘(さそ)える神秘(ふしぎ)が在ったが、黄泉への活気を独歩に謳える女性(おんな)の常識(かたち)に漸次に仕上がり、男性(おとこ)の身をした俺の精神(こころ)の基底(そこ)の方から、「自分の未完(みじゅく)を現行(いま)に装う謳歌の交響(ひずみ)」が曖昧でも在る…。何とかAとの和(やわ)いだ空間(すきま)を二人で手に保(も)ち、「二人に活き得る〝実しやか…〟は発達せぬか…?!」と、苦労話に微力を付け添え、常識(かたち)を破れる気鋭(とがり)を待った。Aの方から俺の身元(もと)迄、白雲(くも)の上から見下ろす態(てい)にて、脆(よわ)い女性(おんな)の手弱(たらち)の性(さが)には二重に跨る連句が飛び交い、俺の目下(ふもと)へ空転(ころ)がる華奢(あし)には夜(よ)にも見事な黄金が咲き、黄金(きん)の憧憬(けしき)をずっと観ている男性(おとこ)の本音を露わにして居た。逸る気持ちを抑えながらに俺の根暗は〝彼女〟を求めて社会に於いても延び延び出来得る勝気を欲しがり、私業(しぎょう)の彼方へ自分を採れ得るいとも見事な成功等を、Aの両眼(まなこ)と俺の両眼(まなこ)に天を翻(かえ)して溺信(できしん)して居た。夢想(ゆめ)の臨界(かぎり)は身欲(みよく)の果てへと「俺」を儲けて、〝意味〟を働く無心の豪華へ埋没する内、世上に羽ばたく無心(こころ)の彼方に〝浮き〟を観た儘、A(かのじょ)の朗らに「世間の隔離」を大袈裟に見た。俺の人陰(かげ)から空気(まわた)に集まる父母(おや)の体裁(かたち)が仄かに発(た)ったが、俺を見付けた諸刃の気鋭(とがり)はA(かのじょ)を捕まえ俺へと遣って、俄かに灯れる黄金(きん)の脚色(いろ)した神秘(ふしぎ)な廃屋(かげ)には、A(かのじょ)に尽きせぬ勝気の微熱が俺の微笑(わらい)へとぼとぼ独歩(ある)ける矮小(ちいさ)な期待がぽつんと立った。

 立ったばかりで微動だにせぬAの気鋭(とがり)は女性(おんな)だてらに至難を設けて明日(あす)の談義に〝一花(ひとはな)〟跳ぶなど薄い蜃気にその実(み)を投げ込み、不埒な過去から女性(おんな)が上がれる透った〝上気〟に情景を観て、遂に儚い〝二人のsympa(シンパ)〟を拾い集める無適(むてき)の私欲(よく)から脱出して居た。A(かのじょ)の身辺(あたり)に男性(おとこ)は跳び出ず、女性(おんな)の色香(いろか)はその後も居座り、俺の両眼(りょうめ)を愉しませもする有機の暴挙も淑やかに秘め、俺に味わう〝秘事(ひじ)〟の如くにA(エー)の蜃気は盗まれながらも俺を相(あい)する独創(こごと)の独房(おり)へと這入って行った。美辞と麗句は文句(ことば)の許容(うち)へと意味を侍らせ、二人に跨る会話の並には不動に連動(うご)かぬ足切りさえ立ち、初め掌(て)にしたA(かのじょ)の美身(からだ)の幼い温味(ぬくみ)は〝彼女〟に衝動(うご)ける「相(あい)」の活気に凡庸(ふつう)に在って、A(エー)の目前(まえ)から余程に連動(うご)ける不甲斐を背負える俺の勇気は、A(エー)の在り処を途々(ゆくゆく)問う儘、無知の許容(かぎり)に億尾に座せ得る〝実しやか〟を密かに愛した。

 恋慕の性乱(あらし)が遠くに集まり、俺の瞳(め)にさえ〝斬新(あらだ)〟を差し向け積って行く頃、A(エー)の周囲(まわり)を試算に囃せる不思議な小躍(おど)りは男性(おとこ)に寄り付き、女性(おんな)の保護から身欲(みよく)を冷ませて死に往く感無(オルガ)は、俺の身辺(あたり)をすうっと跳び越え、俺の前方(まえ)にて端正(きれい)に漲る女性(おんな)の目下(ふもと)へ連進(れんしん)していた。夜と昼とが俺の周囲(まわり)で翻(かえ)る頃には無機に連なる有機に相(あい)した細かい一女(おんな)の仕種が立って、A(エー)の仕種に発情して行く俺の本能(ちから)は夕暮れに在り、男性(おとこ)から成る「女性(おんな)を奪える好意」の彼方(はて)には、〝意味〟の冴えない〝奈落の匣〟から奇妙に仕上がる手弱(たらち)の女性(おんな)を、舌舐め擦(ず)りして凝(じ)っと見送る煩悩(なやみ)の鎮静(しずか)が確かに在った。俺の体裁(かたち)はA(エー)の身元(もと)から次第に流行(なが)れて男衆(おとこ)へ近付き、女性(おんな)の前方(まえ)から密かに上がれる欲の火蓋を真逆(まさか)に説き伏せ、慌て始める男性(おとこ)の純情(こころ)は自己(おのれ)の無欲を盾にしたままA(エー)の徘徊(ある)ける最寄りの温味(ぬくみ)をそっと手に入れ、煩悩(なやみ)に仕上がる欲の波間の向きを変えずに、凝(じ)っと…、凝(じ)っと…、ひたすらA(かのじょ)の情(じょう)を握(つか)める暗(やみ)の信途(みち)へと昇って行った。

      *

 Aは俺の話に〝無理は無い〟と判断した為か、俺の申し出に納得してくれた様子で、次の場面では、俺とAは見知った様(よう)で見知らぬ所へと移動して居た。何処(どこ)かへ行く前に、初めに、Aが俺に向けて、自分の地方に行く際の、(Aの)母親に覚えさせられたと言う、教訓・作法のようなものを俺に語り出し、

「あのね、絶対、気を悪くしないでね。地方の例えば饂飩屋さんなんかに行く時、濃い口で食べて、関西風味は残すように、なんて言われているの(云々)」

から始まり、何か少々関西を馬鹿にしているような都会人独特の詮無き見栄を俺に見せては来たが、俺はその時、別段困った様子を見せなかった。寧ろ、Aも俺と二人で何処(どこ)かへ行ってくれて、二人だけで落ち着きたいと言う様(よう)に聞えて来るAの雰囲気が大きく映って、俺はAを益々好きに成り、早く俺と一緒に行こう、とAを誘って居た。

      *

 A(エー)の姿勢(すがた)に従順(すなお)に絆され、浮世に見付ける男性(おとこ)の孤独と間延びに遣られて、俺の浮心(こころ)は未有(みう)に瞬く愛情(こころ)に落ち込み、A(エー)の肢体(からだ)が仄かに確かに俺の宙(そら)へと落ち込む上では俺の心身(からだ)がA(かのじょ)を求める不屈の脚力(ちから)に剛気(ごうき)が備わり、逸化(はやが)わりをして俺を惑わす無垢の気泡(あぶく)をその眼(め)に吸い込み、俺の四肢(てあし)を程好く濡らせるA(かのじょ)の愛撫は、俺の孤独に言葉と一緒に好く好く馴らせる幻想(ゆめ)の気運(はこび)に近付き始める。端麗(きれい)な瞳(め)をした女性(おんな)の常識(かたち)を済崩しにして疲労に具わる幻(ゆめ)の〝酒宴(うたげ)〟は独歩に伝わる冷や汗さえ失(け)し、珈琲色した宙(そら)の彼方(かなた)は俺の〝好意〟をそっと浮べる五月蠅(あわ)い宙(そら)さえ端麗(きちん)と映し、見る見る解(と)け行くA(エー)の情(こころ)は恋慕(こい)の成就に、俺に斜交う無駄を配さず直立(すぐた)ちしたまま機敏に向いた。精神(こころ)の暗黙間(やみま)に後光が差し込め、泡繰(あわく)る坊主は初春(はる)の空間(すきま)を逃げて生けるが、俺の思惑(こころ)にぽつんと波立つ無意(むい)の解(ほぐ)れは郷愁にして、白愛(あい)の恋慕(れんぼ)は横にも縦にも試算を付けずに、従順(すなお)に…、従順(すなお)に…、藪睨みをした二局(ふたつ)の交響(こだま)を両手に取り添え、A(エー)の肢体(からだ)を充分相(あい)せる無機の震度に終止を打った。理知(はどめ)の利かない横殴りに来る二局(ふたつ)の「恋慕(れんぼ)」は、俺とA(エー)とにふらふら寄り付き、「二股成らぬ…」と未完(みじゅく)の謳歌に知性を寄り添え、灰色(はいいろ)から観た昼と夜との交互の狭間で、A(エー)に置き遣る俺の〝相(あい)〟には二極(にきょく)の生果が満喫された。未熟の灯(ひ)の実(み)が処女の美味さえ片手に打ち上げ、俺と虚無との旧来独語(むかしがたり)を揚々見下げて罵声を投げ掛け、女性(おんな)の青春(はる)から男性(おとこ)の思春(はる)まで、律儀…、律儀…、に小躍(こおど)りして居る陽気の悪魔が〝間延び〟を嫌い、俺の目下(ふもと)へ呆(ぼう)っと居着ける暗(やみ)に仕上がる「旧来(むかし)の一女(おんな)」を、片手に余らす「語り」を尽して夜明けを仕上げる。俺の寝室(へや)にはA(エー)の居座る気配が佇み、男性(おとこ)の呆気(ほうけ)を鼾に黙らす紺(あお)い上気を下敷きにして、俺の心身(からだ)は初春(はる)を跳び越え輪廻へ近付き、脆い幻想(ゆめ)から〝上気〟を射止める女性(おんな)の勝気を充分観て居た。窮屈ながらに恋慕(こい)の横手(おうて)は蛇行に従い、黄泉へ降り立つ人間(ひと)の暗(やみ)には悪態さえ無く、空気(しとね)に絡めるA(エー)の正体(からだ)は雨天へと延び、華(あせ)を垂らして俺に添い得る怜悧(つめ)たい躰を透して在った。A(エー)の心身(からだ)は段々温味(ぬくみ)を求めて居ながら俺の躰へそっと寄り付く呼気(こき)の〝呼笛(あいず)〟をその眼(め)にして置き、屋外(そと)の晴嵐(あらし)が段々静まる〝旧来遊戯(むかしあそび)〟の娯楽に寝そべり、初夜の鐘から〝処女の子音(おと)〟迄、通り縋りの俺の煩悩(なやみ)へすんなり聞かせる無機の発声(こえ)まで生気へ出任(でまか)せ、〝旧来独白(むかしばなし)〟に〝相(あい)〟を透せる恋慕(こい)の通りを程好く梳いた。

 白然色(とうめいいろ)した旧来(むかし)の発狂(くるい)は男性(おとこ)と女性(おんな)の部類に分かれる白と黒との歯境(はざかい)に在り、幻視(ゆめ)の虚ろを背中に突け得る〝間延びして生く男性(おとこ)の進化〟は無為を解(ほぐ)して挟境(はざかい)へと向き、だんまり佇むA(エー)を相(あい)した俺の気鋭(とがり)は、執拗(しつこ)く憤(むずか)る児(こども)の態(てい)して女性(おんな)を欲しがり、性(せい)の暗(やみ)にて〝成就〟を欲しがる一人(ひと)の正理(せいり)を充分識(し)った。〝女性(おんな)〟の体型(かたち)に揚々仕上がるA(エー)の体形(からだ)は肉体とも成り、一人(ひと)の生気を正気に向かせる恋慕(こい)の行方に分岐を当て付け、理性と理知(はどめ)の二局(にきょく)の進化を人間(ひと)の目下(ふもと)へ順々置き遣る無機の聖徒(せいと)を理解して居た。A(エー)の幼心(こころ)は女児の頃から不敗を観続け、男性(おとこ)の〝進化〟に理知を響かす〝向きの進歩〟をふらふら届かせ、一人(ひと)の「明日(あす)」へと芽吹く身辺(あたり)を情緒に宿して検覧(けんらん)するのはA(エー)の旧来(もと)から矢庭に近付く細い老母の寛容に在る。俺の気色は幻魔(ゆめ)を逃れて脱色して活き、A(かのじょ)の幼心(こころ)にほんのり凄める男性心(おとこごころ)の強面を建て、ゆっくり…、ゆっくり…、経過(とき)の本能(ちから)に間延びを遣らない強靭(つよ)い当たりの牛歩を跡付(あとづ)け、A(エー)の背後に身落(みお)ちする頃、A(エー)に操(と)られた邪魅の陽気は寝室(へや)の空間(すきま)に鮨詰めとも成る。A(エー)の文句(ことば)は次第に膨れて暗(やみ)に切り裂き、透明色した無機の行方をその掌(て)に安(やす)めて俺まで現れ、現行(ここ)で視(め)にする現(うつつ)の巨躯には幻想(ゆめ)の辛気が寝言(ことば)に漏れない宵の独気(オーラ)に落胆しながら、初めて二人で語れる戯言(うわさ)は堅い扉に排され続ける無純(むじゅん)の生歴(きおく)に老化して行く。A(エー)の両脚(あし)から暗(やみ)へ独歩(ある)ける一女(ひとり)の記憶がふらふら仕上がり、俺の心身(からだ)が紙面に透れる黄泉の温度を思惑(こころ)へ敷く頃、二局(ふたり)の〝相(あい)〟には余地を交せる上気が発(た)って、失敗続きの俺の好意が俗世(このよ)の寡黙(だまり)へぐっと静(しず)む頃、女性(おんな)の歩幅へ調子を合せる幻(ゆめ)の気力は漸く仕上がり、A(エー)の万葉(ことば)へ「自分」を仕上げる一人の男を演じて行った。

      *

 又、関西人が関東人に対して覚える〝東京弁を喋る人・ムードへの物珍しさ〟と言うのに感動と期待を向けて俺はAを欲していた様子も在って、それまで自分を巻いていた関西人を(その雰囲気を)事毎嫌った様子も在った。初め自転車で何処(どこ)か行こうとして居るように見えたが、実は違っていて、車がちゃんと用意されて在り、その車で取り敢えず俺の八幡市街(ローカル)に連れて行きたく思い、その旨をAに告げると、さっきの「地方へ行く時の自分の作法」と言うのを繰り出したのだ。

      *

 幼い表情(かお)したA(かのじょ)だったが俺の文句(ことば)は無効に囀る暗夜(やみよ)を突き抜け、A(エー)の意図する無垢の芳香(かおり)に少し誘(さそ)われ未完(みじゅく)を保てる無駄の要らない空間(すきま)が見得出し、明日(あす)へ続ける二局(ふたつ)の生途(せいと)は幻(ゆめ)に紛れて紺(あお)い瞳(め)をして、人の識(し)らない無様(むよう)の〝絵画〟に「幼いA(すがた)」は段々項垂れ、暗夜(やみよ)の大口(くち)から未完(みじゅく)を保てる二局(ふたつ)の労苦が新参して居る。未知の文句(ことば)を自分の前方(まえ)から直ぐさま失(け)し去り、仄香(ほのか)に漂う臭う正味がA(かのじょ)の身元(もと)から揚々濃く成る〝浮き沈みの在る無純(むじゅん)〟に従い、生(せい)の破滅は破局に見紛う足場の無さだと順々透って俺が安(やす)まり、A(かのじょ)の歩に発(た)つ薄い生気の正味(あじ)の程度(ほど)には、他(ひと)の吟味が一切乗らない未覚(みかく)の茂りにその場を任せて退散して居た。他(ひと)の活気を何処(どこ)で識(し)るのか、無想(むそう)に包(くる)めた懶惰の宵には、恋敵(こいがたき)に観る旧い気色の手相見術(てそうみじゅつ)から全く仄香(ほのか)に匂える実(み)が在り、虎口(ここう)の大口(くち)から何処(どこ)へ向かうか一層識(し)れない二又(にまた)の〝相(あい)〟には、孤高に醒めない独我(どくが)の芳香(かおり)が俄かに充(とも)って明日(あす)の芽を観る。「誰が好き?…」とか簡素に佇む〝魔人〟の口から俄かに挙がれる美的を駆使して俺とA(エー)との静弱(しずか)な韻から未完(みじゅく)を解いたが、哀れな一人(ひと)には〝俄か仕立て〟の苦行が飛び交い、A(エー)と俺との終(つい)の住処に摩天の反射(あかり)が吃る頃には、A(エー)の心身(からだ)は透明器(がらす)に捻れる不可視の温度を上手に組み立て、俺の身元(もと)からこっそり発(た)ち生く幻覚(ゆめ)の〝嫉(そね)み〟に伏しても在った。

      *

 又、俺は特に〝繁華街に人気の在るお笑い芸人二人〟のうちHが嫌いなんだ、と言えば、それを聞いたAは俺を窘め、

「そんなこと言うもんじゃない、皆一緒に楽しめる方法考えなきゃ」

と女神の様(よう)な事を言う。それから行き先決って(よく覚えてないが、何か、九十五年頃のTVに放送ながれたような、二人にとって懐かしい場所だったように記憶する)で、俺はAを連れてその場所へ入る。しかしそこは湿地帯で、〝湿地帯には鰐が居る〟と頭で想えば速攻で鰐が現れ、俺とAの行く手をその鰐が阻んだ。

      *

 無理の利かない脆(よわ)い刹那が無我を通せる夜途(よみち)を拵え、俺の透りを更に好くするA(エー)の右手は何処(どこ)も彼処もそっと把(つか)める幼熟(おさな)い旧巣(ふるす)にすっぽり駄魔(だま)され目路(みち)を測って、地にも宙(ちゅう)にも紛れないほど現代人(ひと)が死に逝く無根の悪事を〝らうたげ〟にも魅せ、握(つか)み尽せぬ二局(ふたつ)の両腕(かいな)は途(みち)を誤算(あや)まる試算(つもり)も尽(つ)かずに、俺とA(エー)との可弱(かよわ)い発音(おと)から夜逃げにも似た遁世(ひなん)を識(し)った。A(エー)の両腕(かいな)は空(くう)を遮る白壁(かべ)に凭れて漆黒(くろ)い暗(やみ)から無気(むき)に仕上がる感想さえ識(し)り、二局(ふたり)の間に空気(しとね)が和らぐ晩春(はる)の陽気に至純(しじゅん)を重ねて、二重(だぶ)る二重瞼に無機を通わすA(エー)の仕種は無純を確認(たしか)め、「筈」の前夜で終(つい)える夜途(みち)には凍える魔の手が不思議に冴え出す不治の〝温味(ぬくみ)〟がそっと挙がった。

 煙草の灰燼(はい)から一点(ひとつ)の温度が空(くう)を切る瞬間(とき)、仄香(ほのか)の貌(かお)して燃ゆる火点(てん)にはA(エー)の精神(こころ)が助走を付け出し、俺の身元(もと)から呆(ぼう)っと隠せる黄泉の温度を寝室(ねむろ)に這わせて、掴み切れない信仰(まよい)の体温(ねつ)には奇妙が仕上がり柔軟へと向き、女性(おんな)の艶体(からだ)を華(あせ)に濡らせる暗黙(やみ)の契りを空転(ころ)がし始めた。空転(ころ)がし始める俺に操(と)られた男性(おとこ)の理性(はどめ)は、活きてこれまで充分観て来た純白(しろ)い〝魔の手〟を自由に扱う振りしてその実(じつ)足場(ふもと)を知れずに、気付けば気長い女性(おんな)の確保にすっぱり遣られて没我に苦しむ幻聴(ゆめ)の在り処を足場(どだい)にして居た。A(おんな)の把握は男性(おとこ)を仕立てる不純を儲けて俺の心身(からだ)を幻(ゆめ)に気取らす手順を踏み活き、密室(へや)に座し得た無適(むてき)の女体(からだ)は夜雲(くも)を白壁(かべ)から引き摺り出せ得る失敗続きの打算を着せ替え、初めから在る原罪(つみ)の重篤(おもみ)をその実(み)に宿せる無垢の重罪(つみ)へとその歩を速めて、昨日まで観た男女の孤独を忘れる程度に幻(ゆめ)の脚力(ちから)は冒涜を成し、俺の心身(からだ)が澄み得る寝室(へや)には女性(おんな)の女芯(だいじゃ)が事毎成った。「無音の〝遥か〟に君が生れて、遠い〝旧巣(ふるす)〟に俺が向くとき現行(いま)へ延び生く過去の発明(あかり)は見事に焼け付く既視(ふたえ)の進化に乏しく成るのだ。身欲(みよく)の空間(すきま)に君が降(お)り立ち、明日(あす)の規律(ルール)に幻(ゆめ)が向く時、孤独の身元(もと)へと馴らした躰は女性(おんな)を乖離(はな)れて野放(のほう)に近付き、俗世(このよ)の果てには〝現行(いま)〟を識(し)り得ぬ緑(ろく)の発明(あかり)が至純(しじゅん)に満ち生く…。〝活き活きして居る恋慕(こい)の水面(みなも)の揺れの重さは他(ひと)に気取れぬ白水(みず)の流行(ながれ)に溜まりを観るうち俺と男性(おとこ)に薄く近付く恋慕(こい)の正味(あじ)まで記憶に遣る等、無垢の一女(おんな)に気分を担げる身欲(みよく)の連呼に凡庸でも在る。…」

 都会に生れた俺の身内(うち)から所々で大きく傅く旧来(むかし)の帳が順応にも在り、上記に配した小言の誇示から空気(しとね)に上がれる寂寥(さびしさ)さえ発(た)ち、A(かのじょ)へ対せる俺の浮気は未完(みじゅく)を隔てて凡庸でも在る。俺の白紙(こころ)は瞬間(とき)の未完(みじゅく)に俄かを噛む儘、A(かのじょ)の心身(からだ)が至順(しじゅん)に向かえる一路(いちろ)の道筋(すじ)から小金(こがね)を並べて、活きる意欲を概(おお)きく外れる経過(とき)の身辺(あたり)に〝旧巣(ふるす)〟を拵え、明日(あす)へ向くまま今日に向く儘、現代人(ひと)を無視して「あわよくば…」を観た。凍結して行く俺と現代人(ひと)との変らぬ距離には女性(おんな)に操(と)られた流行(ながれ)が冴え活き、個人(ひと)の晴嵐(あらし)も感情(こころ)も思惑(こころ)も、全く拾えぬ〝一路(いちろ)〟の進化を終(つい)を観たまま生命(いのち)を絶えさせ、端(はた)から懐ける〝ブランド台〟での講義の在り処は俺の代わりに世間に訴え〝稚拙〟や〝未熟〟を陶酔して生く個人(ひと)の心裏と断定した儘、黙る心理に空巣(あきす)を侍らす緩い規則を打ち出し始めた。俗世(ぞくせ)の流行(ながれ)は初めに無いまま常識(かたち)を掬える幻(ゆめ)の刃取(はど)りに文様(もんよう)を見て、知識人だけ没頭出来得る無駄の空間(すきま)を充分着せ替え、新たの〝場所〟から我欲(エゴ)を引き出す現代人(ひと)の生気を一瞬採った。そうして〝生気〟は脆々(もろもろ)崩れてその実(み)を保(も)てない〝相場通り〟の規定に従い、人間(ひと)は一人(ひと)へと過失を連れ添え幻想(ゆめ)の彷徨(まよい)に信仰(まよい)を見るのだ。誰も彼もが現代人(ひと)で在る内、一糸違(たが)わず無垢と成り得た。独創(こごと)の再呼(さいこ)が未(ま)だ降りないのは女性(おんな)の牛歩に自棄(やけ)を観る儘、本能(ちから)に任せて〝向き〟を扱う男性(おとこ)の初歩(いろは)が動物的で、自我を収めぬ矮小(ちいさ)な生歴(きおく)に肖り生く後(のち)、身欲を女性(おんな)へ打(ぶ)つけるからだ…。始めから在る男性(おとこ)の不様の本能(ちから)の向きには、女性(おんな)に対せぬ怪しい気質(たち)から孤軍に傾く危(あや)しさが発(た)ち、活きの絶えない身欲の脆味(よわみ)をその掌(て)に観る内、〝彼処〟より来(く)る魅力の連破(れんぱ)が実(じつ)に在るうち男像(けだもの)を観て、連々々々(つらつらつらつら)、往くも還るも惨(むご)い暗黙(やみ)へと失(き)える後(のち)には、男性(おとこ)の誠実(じつ)など女性(おんな)の目前(まえ)では五分(ごぶ)の虫にも寸先識(し)れない〝見掛け〟の脆差(もろさ)に相違無かった。――――。

      *

 〝まさか今の時代にこんな身近に鰐なんて居ないだろう〟と高を括って居た俺だったから余計に狼狽え、びっくり慄いて、湿地の浅い水の中に、もう見えている形で鰐が寝そべり、そうした鰐が自分達(Aと俺)の周りに無数に至るほど居る事に気付いた俺は、何とかこの危機を乗り越える方法が在る筈だ、なんて挑戦しながらも矢張り解決策が無く、怖がりながら〝戻る事〟を頭に念じれば、Aと俺は、この湿地帯へ入る前の場所まで戻る事が出来て居た。

      *

 俗世(このよ)に活き生く無想(むそう)の定型(かたち)は現代人(ひと)に識(し)れ得ぬ寡黙の体(てい)にて、人間(ひと)の調子に合せる際には向きも不向きも畳まれながらに目先の利(り)を見て堂々衝動(うご)ける女性(おんな)の定型(かたち)に流行(ながれ)が沿う内、無機の小手から静まる幻(ゆめ)には男性(おとこ)の躰がぐっと寄り出し、独創(ひとり)に活き得る一人を満たせる独白(ことば)の返りは常に直され俗世(このよ)から退(の)き、幻(ゆめ)の夢中(うち)だけ既(おお)きく保てる無欲の進歩に往来して居た。俺の気持ちはA(エー)の前方(まえ)から未完(みじゅく)に解(と)け行く確かな進歩を〝暗黙(やみ)〟の藪へと概(おお)きく投げ込み、現代人(ひと)の空間(すきま)に細かく生え出す無想を切り出す緻密の仕業(しごと)に、散々幻見(ゆめみ)た身欲の紳士は欠伸をしながら悪態を吐(つ)き、現世(このよ)で活き得る脂に塗れた我欲(エゴ)の不様を散々殺して底浅(そこあさ)を観た。現代人(ひと)の全身(からだ)はブランド着せられ、下駄を履かされ発声(こえ)を代えられ、幻想(ゆめ)に翻(かえ)られ、嗣業(しごと)を替えられ、地位を代えられ名誉を替えられ独自を変えられ、あらゆる分野で〝神〟を究(もと)める曰く識(し)らずの群像(むれ)を這い出た。人間(ひと)の無いのは意識の無いのと同じ事だと〝林業修める首謀者(あるじ)〟に訓(おそ)わり、とっても未完(みじゅく)な故意を識(し)るまま宙(そら)の高根(たかね)でしゅんとして居る…。故意に活き生く〝亀〟の行方は渡航知らずの傀儡(どうぐ)と成りつつ、流行(はやり)識(し)らずの田舎の男・女(だんじょ)は身欲を従え感覚(いしき)に則り、独創(こごと)限りの二重(ふたえ)の孤独を既視(すで)に着せ替え自由を保(も)った。「今夜限り――」が一縷の世迷に流行(ながれ)を引かせて、俗世(このよ)に発(た)ち得る〝併せ鏡〟の活き方からでは無為を興せぬ空想を観て、狡い限りの概(おお)きな〝生気〟を絵空に投げ込む思中(しちゅう)の末には、男性(おとこ)も女性(おんな)も俗世(このよ)に居座る独(どく)の空気(しとね)に熱病(やまい)を知った。

 向かい疲れて現代人(ひと)から乖離(はな)れて自分の動作に役(やく)を観る頃、俺の活気は世上に流行(なが)れる幻(ゆめ)の世迷を既視(おおめ)に観て取り、不意に煩う〝併せ鏡〟の反射(ひかり)より成る現代人(ひと)の余命(いのち)の孤独の辺りは、先程まで言う凡庸辺りに幻(ゆめ)に見紛う白水(みず)を流行(なが)せる独(どく)の我信(オルガ)を発酵させ得る。生(せい)の未覚(みかく)を死後の辺りへ不吉に問う儘、幻(ゆめ)の連呼は〝俗世(このよ)の奇妙〟を上手く欲しがる黄泉の生気に片付けられ活き、俗世(このよ)の何処(どこか)へ蔓延り続ける現代人(ひと)の我欲(エゴ)から産れる我信(オルガ)は幻(ゆめ)を煎じて我尊(がそん)へ降(お)り着き、人の田舎にこっそり図太く宙(そら)に生き得る〝D子〟の狡猾(ずる)さを伝(おし)えて在った。きれいに眺める現代人(ひと)の連鎖は俗世(このよ)を介して地平太(じべた)へ降(お)り着き、欲の本能(ちから)で左右され生く春蟲(むし)の如くに地中に蠢き、思春を過ぎ去り晩春(はる)の幻滅(ゆめ)へとぽつんと遺され地獄を観る頃、詠い上手な肉塊(にくのおとり)は未信に煩う〝濡れ衣〟さえ詠む。俗世(このよ)に産れて何の因果を片付け得るのか、「未信」の内にて活きる信者(もの)には幻(ゆめ)の惑える一局(ひとつ)の〝空気(くうき)〟が獄(ごく)に無いのを少し気にして、自己(じこ)を侍らす余程の自然(あるじ)に欲を任す時、何も頼れぬ未完(みじゅく)の盲者(もうじゃ)が〝傀儡(どうぐ)〟を窄めて「未覚(みかく)」を詠む等、誰も彼もが〝無駄〟を擁する〝御伽の理郷(くに)〟へと一歩煩う調子に暮れ出す。信仰(まよい)の進歩に我欲(よく)を織り出す無適(むてき)の学(がく)には詠(うた)が顕れ、「覚え直し」の一切利かない〝意味の独白帳(カルテ)〟が人間(ひと)を取り巻き、活きる当面不在を観(み)せない自然(あるじ)の還りは漆黒(やみ)へ靡いて、歴史(かこ)を繰り出す無適の一連(ドラマ)は幻覚(ゆめ)へ遊泳(およ)げる悪態を識(し)り、男性(おとこ)も女性(おんな)も何も通らぬ光明(あかり)へと往く誠の一路(みち)には、俺に対する現(このよ)の活気が分(ぶん)を弁え自体(おのれ)を報せる院府(よみ)の翻(かえ)りを密かに待った。

      *

 「無理、あんなん無理!」と俺は執拗に開き直ったようにAに許しを請う様(よう)な形で居て、Aは気分を害せず微笑であった。

 俺は起きてから、もう大学が三回生まで来て、あと一年ちょいで卒業しなきゃ成らない、という事に気付き、この夢と現実に、余計に感傷的に成った。出来れば、こんな夢を見せてくれる状態で居られる大学(学生)生活をもっと続けたく、健康と金(かね)が永遠に欲しい、と言う思いに駆られて居た。

      *

 言葉の数多(かず)から夢想(ゆめ)が空転(ころ)がり、明るい小庭(にわ)では独創(こごと)の理性(はどめ)が杜撰を報せて、意味の解らぬ無理の登頂(おか)には男性(おとこ)と女性(おんな)の栄枯を観ながら、俗世(このよ)に置かれた生気の明かりが段々乏しく、男・女(ふたり)の間柄(あいだ)に鬱の好転(ころ)がる幻想(ゆめ)の路(みち)さえ概(おお)きく在った。最早俗世(このよ)は一理の配する始業を顕し、文(ぶん)に幻見(ゆめみ)る孤高の高嶺は身形を潜ませ、俺を乖離(はな)れた遠い宙(そら)では二重(ふたえ)の孤独に活気を成し得ぬ不問の夜宙(よぞら)を平らにして居た。人間(ひと)の肉臭味(くさみ)が途方に現れ、俺の孤独は幻(ゆめ)を背にして甘さを観て居り、人の語学(ことば)を焚いて眼(め)にする現代人(ひと)の両刃(もろは)を両手に傅け〝意味〟を成し得ぬ不可視の得体(からだ)を独創(こごと)に採るのも、漂白(しろ)い小口(くち)から平々(ひらひら)煌(かがや)く無味の旋律(しらべ)に調度を得て居た。現代人(ひと)の絆が絶えず脆差(もろさ)を他(ひと)へ見せ突け、慌てた様子に未来(さき)を割かせず末踏(みとう)を踏ませる余調(よちょう)を見る内、確かな残像(かげり)は一(いち)でも三(さん)でも孤葬(こそう)を幻見(ゆめみ)て、常に俗世(このよ)で生気が片付く「やがては孤独の一人(ひと)の定め」を故意に曇らせ暗黙(やみ)へ紛らす浮遊の無意(むい)にて黙認し続け、自分の身辺(あたり)に朗明(あかり)を遮る白雲(くも)の流行(ながれ)は真昼に棚引く。

 A(エー)の人相(すがた)は俗世(このよ)に射止める不思議の十字を暗夜(やみよ)に射止める手腕に傅き、古びた文句(もんく)を徒党に与(く)ませる夜半(よわ)の私事(しごと)は充輝(じゅうき)に戯れ、俺の周囲(まわり)は女花(はな)の咲かない誠実(まこと)の陽気に相戯(あいたわむ)れた。

      *

「微笑を以て微笑を返す…」

「神秘(ふしぎ)な家屋に祭壇が在る…」

「気熱(ねつ)の心裏に辛酸が在る…」

「俺と男性(おとこ)は一歩を取れない…」

「俺と女性(おんな)は競歩を保(も)てない…」

「俺と現代人(ひと)とは別離(べつり)に生きる…」

「俺と現代人(ひと)とは離縁に活きる…」

「無重と〝新芽〟は共存し得ぬ…」

「見事な艶体(からだ)は感覚(いしき)を観ない…」

「充分活き得る苦労に際した不可視の躰は、男性(おとこ)を通して女性(おんな)へ近付き、黄泉を通して暗夜(やみよ)に置き去る盲者(もうじゃ)の〝女性(おんな)〟を事毎(ことごと)透す…」

「アカデミックは自然(あるじ)に集まり、人間(ひと)と現代人(ひと)とに温(ぬる)く操(と)れ得る代物にはない…」

「現代人(ひと)の孤独が無価値と称した縁離(えんり)の一途(みち)こそ、希少に準ずる不毛の斬新(あらた)を和価値(わかち)として逝く…」

      *

 俗世(このよ)に産れる薄い目をした現行人(ひと)の便りは俺に与る依頼(たより)は出さずに、我欲(エゴ)に通じた不価値(ふかち)の人影(かげ)から未来(さき)へ佇む〝死相〟を観て居り、死人(しびと)を拝する権力(ちから)の矛先(さき)にて一人の正義へ追従(ついしょう)して生く無垢の極致(きわみ)に既視(こどく)を観て居た。俺の四肢(てあし)は俗世(このよ)を縁離(はな)れて幻覚(まぼろし)さえ観て、人の輪を知り温味(ぬくみ)を掠める無垢の境地に未だ気付かず、微温(ぬる)い心理にその実(み)を絆せる現等(うつら)の狂気に返応(へんおう)して居た。故に世に降(ふ)る男性(おとこ)の〝傀儡(かたち)〟も女性(おんな)の〝傀儡(かたち)〟も幾度目覚めて共に歩くも互いの胸裏は気熱(ねつ)に絆され滑稽(おか)しく成って、自分の身辺(あたり)に〝女花(はな)を摘め得る漆黒(やみ)の遠路は甚だ縮まり、俺に対する自然(あるじ)の気並(なみ)には〝遍路〟を想わす歪みを着飾る。「無重」に摘め得る未完(みじゅく)の発声(こえ)には淡泊(しろ)い論破が無力に蹴上がり、無音(おと)に対する個音(おと)の印(しるし)も俺を飛び越え頭上に落ち着き、〝玉手箱〟から無力に拡がる個人(ひと)の支煙(けむり)は〝開花〟を識(し)らずに、唯々ひたすら「地位」に肖る無音(むおん)の人群(むれ)から滑稽(おか)しく流行(なが)れる微量の努力に、現代人(ひと)の労徒(ろうと)はずんずん遅れて奇妙に仕上がる人災を観る…。災い事から後手に廻れる現代人(ひと)の正味(あじ)には俗世(このよ)で目にする風味が傾き、段々段々孤独の漏斗が黄泉の彼方へ向かって延びるを活きながらにして一人(ひと)は認める、孤独の正味(ありか)が身辺(あたり)を漂う俺に適した運命さえ在る。

 白虎の態(てい)した孤独の自然(あるじ)は白雲(くも)を背にして擬態して居り、人間(ひと)の周囲(まわり)を常に取り巻く〝勇者〟の貌(かお)した巨肉片(レギオン)等には厚い絡みに始終から成る〝浮き〟の罅割(ひずみ)が無言に片付き、俺の肢体(からだ)を地道(ひそか)に介した黄泉の文句(ことば)の我信(がしん)の果てには、「自分の宙(そら)」から地中へ埋れる共鳴(ひびき)の連呼が再生して居た…。

 A(エー)の肢体(からだ)は無機の火照りを余所にしたまま再び俗世(このよ)の孤独には無い不可思(ふかし)の正味(ありか)へ身分が近付き、向きと不向きに〝身分〟を煩う俺の理性(はどめ)は基準さえ無く、俗世(このよ)に触れ生く無垢の夕べへ試算に乗じて遊来(ゆうらい)して居た。自己(おのれ)の未完(みじゅく)が片付かないまま宙(そら)の紺差(あおさ)に浮来(ふらい)した儘、俗世(このよ)で憶えた全ての男・女の災い事には、黄泉の理郷(くに)から〝自分〟へ還らす無垢の〝夕べ〟の〝心当たり〟が、Aと俺とに密かに棚引き夢遊の晴嵐(あらし)を意図して在った。〝もう一度〟の夢、幻(ゆめ)に紛れて小鳥と見紛い滑稽(おかし)な脅威にその手を振る頃、未苦(みく)の夕べは虚遁(きょとん)とするまま不埒に呆けて男女(だんじょ)を侍らせ、男性(おとこ)と女性(おんな)は夏に盛(さか)れる不安を退(しりぞ)け、唯々ひたすら破滅へ向かえる一局(ひとつ)の成就を人間(ひと)の〝気(け)〟に観て悶絶して居た…。


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~無機の女性(おんな)を一局(ひとつ)乖離(はな)れた、Aの素顔は黄泉の理郷(くに)から―From second paradise―~(『夢時代』より) 天川裕司 @tenkawayuji

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