第45話 僕、つくり直す

 家族みんなで僕の激動の一日の説明を受けた翌日。僕はまたもや朝一番に村の教会に来ていた。

 何でも、ウィンドウさんが自分の神像はアッシュに持っていてもらいたいと文字を刻んだそうだ。


 村長がふおふお言っている姿が目に浮かぶ……どころか、声が脳内再生余裕なレベルで鮮烈に脳裏に刻まれてるんだよね。思わず僕も驚いた時にふおおとか言ってしまいそうだ。

 それと神様も意外と感情豊かと言うか、寂しいのかな? なんだか手を繋ぎたそうにしているエレアお姉ちゃんみたいで少し可愛らしい。


 そんなこんなでウィンドウさん神像の回収にやって来たのだが…………


 教会横につくったドデカい霊獣像の周りにキープアウトのテープを思い出すほどに厳重に柵が敷かれているのが見えた……見えてしまった。


 その場しのぎでつくったものがここまで厳重に管理されるのは最早羞恥プレイではないだろうか? しかもその像に向かって今まさに感謝を捧げている村長さんが見えれば尚更だ。


 どうせ見られるなら全力でつくったものが良い――のだが、ああも熱心な姿を見てしまうと今更壊すのも何だか忍びない……でも恥ずかしい……良心と羞恥心の葛藤がああ!!


 僕の悶え苦しむ念に気付いたのか、村長がこちらを振り返る…や否やものすごい笑顔でスススっと寄ってきて僕の手を掴んで上下に振る。


「おはようアッシュ! いやあ長生きはするものだねぇ! こんなにも心躍ったのはいつ以来だろうか……ささ、朝は冷えるだろう中に入りなさい。今美味しい紅茶を淹れてあげよう。これはとっておきの茶葉でねぇ――」


 朝一からハイテンションな村長さんは僕の返事を必要としないのか一方的にまくし立てており、適当に相槌を打つのが精いっぱいだ。

 どうやら村長さんは神様や霊獣を信仰するのとは別に、とても好いているのだろう。これらの話をするときの村長さんは毎度楽しそうだ。

 神様達もさぞかし嬉しいだろうね。それはそれとして落ち着いて欲しいのが本音ではあるが……


 気付けば湯気が立ち上るティーカップが置かれており、ほっとする不思議な香りが鼻孔をくすぐる。

 立て板に水をかけるが如く話している村長さんの話をざるの様な頭で受け止めながら落ち着く香りの紅茶を味わう。

 息を吐く時に鼻を抜けていく紅茶の香りがまた心地良い……心が凪いでいくようだ。


 今の僕には村長の話も程良い環境音に聞こえる……


 自分のペースを取り戻せたからか村長が息継ぎをしているところを狙って話しかけることに成功する。


「村長さん、何か良いことでもあったのですか? 今日はやけにご機嫌ですね?」

「おほん……そうだったそうだった。昨夜ウィンドウさん神と少しだけ交信することが出来てねぇ。君が愛したこの村の者たちに限った話ではあるが、スキル確認の儀をもっと気安く行って構わないと仰って頂けたんだよ。これでこの村はまた活気づく……それが嬉しくてね。本当にありがとう、アッシュ」

「あぁ……そうなんですか。なんだか、僕が知らないところで僕のあずかり知らない話が進んでいたんですね……まあでも、村のみんなが自分の能力をこまめに確認出来るのは良い事ですね!」

「良いなんてものではないんだよ! 自分の努力が実を結んでいることを今までよりもず~っと短い期間で確認出来る様になると言う事がどれだけ有り難い事か! ウィンドウさん神を祀ることが出来ないのが悔やまれるよ……」


 なるほど、そう考えると凄まじい価値があるな。

 単純に努力のモチベーションの維持がしやすくなるし、神様にスキルとして認められていると分かれば自信にも繋がる。そして自信があればやる気も違うしモチベーションはもっと維持しやすい……良い循環が生まれるのか。


 ……それを僕は記念だトロフィーだと言っていたのか……少し恥じ入る思いってやつだね。


「というかウィンドウさんを祀れないんですか!? こんなにも恩恵をもたらしてくれているのに!」

「うむ……私にはウィンドウさん神の存在を明確に証明できないからね……そしてそれが出来るのはアッシュ、君なんだ。だがそんなことをしてしまえば――」

「僕のことが公になってしまうと……なんだろう、少しモヤモヤしてしまいますね」

「だがそれとは別にウィンドウさん神も祀らなくて良いと仰ったんだ。昨日も自らの意思で地上を離れたとも……ウィンドウさん神ご自身がそう望まれるなら、それに従うのもまた、信仰する者の務めと言うものだ」

「村長さん…………」

「なに、祀るなとは言われたが信仰するなとは言われていないからのう! こっそり祈りと感謝を捧げておくまでよ! ほっほっほ!」


 そう朗らかに語る村長さんはなんだかまるで本当に村長の様で……村長だったか、失敬。


 でもそうだね、教会で祀るなと言われただけだしね、個人的に祀る分には構わないってことだもんね。精々拝み倒してやるとしようかな!


 僕らは教会に来た目的も忘れて雑談に興じていく。



 本来の用事と追加の用事を思い出したのは教会から帰る寸前だった。


「あっ、ウィンドウさんの神像の事をすっかり忘れていました……」

「ふぉっ……私とした事が! 申し訳ない! 申し訳ない! ウィンドウさん神よぉぉぉ」


 僕も忘れないように抱えて持っているようにしよう。


 と言うか、【記憶】スキルってこういう時には働いてくれないと言うか、思い出そうとしないと思い出せないと言うか……僕のミスをスキルのせいにするのは良くないか。

 スキルも使い手次第と言う事かな、肝に銘じておこう。


「そうだ村長さん、実は折り入って一つお願いがあるのですが……霊獣の像の事で……」

「ふぉぉん、ふぉぉん……おっ、霊獣様の像がどうかしたのかい?」

「先ほど見た時、すごい厳重に囲っていたじゃないですか。そこまで大事にされるならもっと丁寧につくり直したいと言うか、手抜きの突貫工事の代物なので……」

「あれほどに緻密な像が手抜きと言うのかお主は……凄まじいのう。ふむ……であれば改めてお願いしても良いかの?」

「っ! はい! 喜んで! 二分の一じゃ大きいし、管理しやすいように縦横三メートルと高さ一メートルくらいにしておきますね」


 この時僕は良かれと思ってそう言ったんだ、小さいほうが管理も移動もしやすいだろうと。だがそれは大きな間違いだった。この発言が僕自身の首を締めることになる。



 霊獣の像をつくり直し終わったのは太陽が中天に差し掛かる頃だった。


 僕の言葉で僕がつくった像が二分の一の大きさだった事を知った村長が原寸大霊獣像を望まない筈がなく、それはもう酷いわがままジジイ――村長がごねにごねまくって来たのだ。


 なんとかふおふお煩い良い年の村長を言いくるめ、十分の一スケールの縦横二メートル高さ六十センチで納得してもらった。


 その代わりと言ってはなんだけど、記憶から出来るだけ正確につくってみたし、白い狐だったので土魔法で像の表面の色を変えられないか試してみたら、大理石みたいになって僕も満足。

 村長もふおおん!と喜んでくれた。引き換えに毎日鍛え続けている僕の魔力が枯渇寸前まで減ってしまったけどね……


 昨日つくったドデカい霊獣像は綺麗さっぱり撤去しておいたよ。村長は言わずもがなふおーんってしてた。




 フラフラの状態で家に帰ったら家族にえらく心配されてしまったけど、個人的にはクリエイティブなことが出来て非常に満足している。土魔法の可能性も広がったし、今日は良い一日だ。


 あとは明日から始まるフェーグさんの鍛錬に備えて英気を養っておくとしよう!




 家に持ち帰ったウィンドウさん神像はリビングに置き場所をつくってもらえたのでみんなが気軽にお祈り出来る様になった。

 時折、台座の文字が変わったりするので案外、お喋りを楽しんでいるのかもしれない。


 良かったねウィンドウさん!

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