第44話 僕、希少価値が上がる

 頭も心も疲れ果ててしまった大人達のために一旦休憩を設けた僕ら。


 神職も兼任していた村長さんには刺激が強すぎたようで、未だ尚魂が抜けたような顔から戻ってこない。

 カル父さんとサフィー母さんはあまり神様に造詣が深くないのか深刻なダメージは無さそうだ。

 カル父さんの生い立ちはあまり知らないけれど、サフィー母さんは境遇からして信仰心を育む暇があれば自分を鍛えて知識を深めていただろうから然もありなん。


 エレアお姉ちゃんはピンピンしているので部屋を見て回ったり、ウィンドウさんの神像をつつきながら「アッシュにつくってもらえて良かったね~」なんて喋りかけている。


 村長さんが起きていたらまた「ほおおお!!」とか叫び出しそうだけど、魂が抜けているので構わないだろう。


 僕はそんな村長さんに美味しい水を提供して、微弱な回復魔法を疲労軽減を意識して体全体にかけている。


「アッシュ? いろいろと聞きたいことがあるんだけど…良いかな」

「うん。大丈夫だよ。と言っても僕にも突然の出来事ばっかりで分からないことだらけなんだけどね」


 カル父さんはどこか不安げに僕に問いかけてくるが、隣のサフィー母さんは僕を真っ直ぐに見つめている。


 どうやら世界が変わっても母は強いらしい。


「じゃあまず、ウィンドウさん? と言う神様をどうやって知ったんだい? アッシュはこの神様を知っていたから神様の像をつくろうと思ったんだよね? 一体どこで知ったんだろう?」

「生まれる前だよ。生まれる前に僕を送り出してくれたのがウィンドウさんなんだ。その時のことを憶えているのは多分、【記憶】スキルのおかげだと思う」

「生まれる前……? と言うか記憶…スキル? 村長さんにスキルを確認させてもらったのかい?」

「うぅん、ウィンドウさんの加護の力で自分のスキルを見ることが出来る様になったんだ! つい昨日ね……」


 二人が同時に顔を手で覆いながら天井を見つめはじめた。


 どうやらスキルを確認出来ると言うのは割と重大なことだったのかもしれないが、そんなことより両親のコントの様に揃った動きに思わず笑ってしまった。


「あ~まったく……うちの子達は規格外だな……」

「自慢の娘と息子よ……もうちょっとゆっくりと成長してほしかったけれどね?


 この二人から見て規格外と言わしめるほどの事なのか?


「えっと……自分のスキルを見る事ってそんなにすごい事なの?」

「本来はスキルをと言うんだ。何故かと言えば、それは神様が見せてくれているものだからなんだよ。だから神様に迷惑をかけないようにと、スキル確認の儀は決まった日に決まった年の者達だけで行われるんだ。それも敬虔な神職の方にしか行えない儀式なんだ」

「神様にスキルを見せてもらって確認させてもらうのがスキル確認の儀で、それを無視して自分の意思でいつでもスキルを確認ではなく見ることが出来るのがすごいってコト?」

「そうだね。……だってそれは、神様に愛されているとも言えるし、神様と同じことが出来ると言う事でもあるんだよ?」


 ハッとさせられた。

 スキルを確認すると言う事が神様頼りだと言うのは途中で理解したが、それが愛されているだとか神の力の行使として見られるなんて……厄ネタが増えたと言える。


 僕が思わず愕然としているとサフィー母さんが近づいてきて僕を強く抱きしめてくる。


「アッシュ、約束して頂戴。あなたのその力のことを誰にも言わないで……お願いだからもう少しだけ私達と一緒に居てほしいの……」


 そう語りかけてくるサフィー母さんの声は少し震えていた。


 神様が幅を利かせすぎているこの世界で宗教関係が持つ力が弱いはずがない。そんな組織に今の話が知られたらどうなるかなんて想像するまでもない。


 それに何よりも僕も家族と暮らしていたいのだから秘匿する以外に選択肢なんて無い!


「僕からもお願いだ……まだまだ教えていないこともあるし、もっとアッシュと一緒に居たいよ……」

「母さん……父さん……大丈夫だよ。僕もみんなと一緒に居たい。だから誰にも喋ったりしない。それにね? ウィンドウさんが言ってたんだ。自由に生きなさいって。神様がそう言うんだから従わなきゃだよね?」

「…………あっはは! そうだね。神様がそう言うんだったら目一杯自由に生きないとだねっ」

「うっふふ。お母さんウィンドウさんのこと大好きになっちゃいそうよ」


 笑いながら目元を拭う二人に僕も微笑み返す。


 ウィンドウさんはたしかに言っていたんだ、自由に生きて自由に死んでと。

 僕は嘘は言っていない。スキル選択画面には確かにそう書かれていたのだから。


 そして僕は今日まで自由に生きてきた。そしてそれはこれかも……僕が死ぬその時まで変わらないし変えるつもりもない。神に二言は許さない。


「「アッシュ! 変な顔になってるよ!(わよ!)」」


 …………僕の笑顔は変な顔で固定化されてしまったのかもしれない。

 でもまあ、二人が笑っていてくれるならそれが一番だよね!


 横でくすくす笑ってるエレアお姉ちゃんにはあとで悪戯してやるんだっ!



 村長さんの魂がいつの間にか戻っており、「私も涙もろくなってしもうたかのう」なんて言いながら美味しい水を啜っていたので休憩は終わり、昨日の説明を引き続き行ってもらう。


「先ほどの教会に対する懸念と同じ事柄が霊獣との接触にも言えるのじゃ。カル殿、サフィー殿、お二人は霊獣が獣人やエルフ、ドワーフの生まれに深く関わりがあることは知っておるかのう?」

「ゼフィアさんとフェーグさんからこの村に移住が決まった時に伺っております」

「ならば話が早い。私たちはアッシュも含めて、アッシュを鍛えるという方向で話が纏まっておる。明後日にはフェーグのところで鍛錬が始まるそうじゃ。事後報告で申し訳ないが、これが一番アッシュの為になると意見は一致しておる。許しておくれ」


 そう言って今度はカル父さんとサフィー母さんに深々と頭を下げる村長さん。

 僕を思うが故の考えなのに、これほど真摯な姿勢を見せられては許さざるを得ないだろう。


 二人は頭を上げてくれとワタワタしていたが、アッシュ強化案には大いに賛成していた。


 元々僕を鍛えてくれていたのは他ならぬ両親だからね、拒む理由の方が無いと言うもの。




 大体の僕に関する話を終えた後は大人たちによる細々とした話し合いが続き、子どもの僕たちが口を挟む余地は無かった。


 村の運営や畑の事、生活方面の話し合いには流石に、ね?



 大人たちの話し合いが落ち着きを見せた頃、丁度絵描きが到着したとの知らせが入った。


 知らせを受けた村長の瞳に炎が見えた気がした。どうやら僕の仕事はここからが本番らしい。


 霊獣の姿となると家族のみんなにはどうすることも出来ないので、みんなは先に帰ってほったらかしにしていた畑や家事を片付けてくるそうだ。

 帰り際に見せた両親の可哀想なものを見る様な目が頭から離れなかった……


 エレアお姉ちゃんも何故か僕と一緒に残る事を拒否して両親とともに帰っていった。


 一人取り残された僕は、瞳に炎を宿す村長さんと、同じく瞳をきらきらと輝かせる絵描きさんに根掘り葉掘りと霊獣のことを聞かれるのだった。




 僕が教会横の庭に二分の一スケールの霊獣を模した土の像をつくって逃げるまでそう時間はかからなかった。



 そして二分の一スケールでも全長十メートル高さ三メートルはある五尾の狐の像が村長と絵描きの手によって厳重に管理されたことを知るのはもう少し後の話。

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