第20話 僕、友達と話す
授業をしてくれていたゼフィア先生との話をエレアお姉ちゃんに聞かれて、エレアお姉ちゃんを傷付けてしまった僕。
自己嫌悪しながらも反省していると、一部始終を見ていた数少ない同年代の男子の友人たちが話しかけてきた。
ので、無視して先に家に帰ろうと思う。あいつらは俗にいう悪ガキというか、やんちゃ坊主だ。よく怒られているところを村中の人が知っている。
そんな奴らと同じグループに見られたくない。
「おいおいおい!! なに当たり前のように帰ろうとしてるんだよ」
「逃がしませんよ! アッシュ君!」
「アッシュ―、良い日影があるんだ、そこでのんびりしようよ~」
「よし、その日陰に行こう! 今日は素晴らしい日だ! そして素晴らしい友がいて誇らしいよ!」
今日は雲一つない快晴で、暖かいが日差しが眩しい。そんな日に日陰で眩しさから逃れつつ、暖かな陽気を感じてのんびりする....理想的なくつろぎ空間!!
僕は、走り回ったり剣を振り回すより、魔法を使って日々の暮らしを豊かにして楽をして生きていきたいんだ! そんな僕にとって日陰でのんびりは非常に魅力的な提案だ。
前世では自然に囲まれたことなど無かったから、余計にここでの日々は緩やかで穏やかで好ましい。
この提案をしてきたのは、ドワーフのグロック。
身長が僕と頭ひとつ分違うほどに小さいのだが、大人になってもあまり大きくはならない種族だ。
彼は明るい茶髪で天然パーマだ。よく似合っている。瞳は眠たげな垂れ目で、緑色の綺麗な瞳があまり見えない。
そんな彼とは良く波長が合うが、合い過ぎてのんびりし過ぎてしまい、しばしば一日を無為に過ごすことがある。その都度、反省するのだけどまた誘われると反射的にノッてしまう。もはや癖だ。正直楽しい。
「こいつら、まじで趣味がおっさんくせえ....男なら冒険だろー!」
「冒険が良いのは認めますが、自然を眺めるのも悪くないですよ。....余裕のある男はモテるらしいですしね」
「なん....だと....たまにはのんびりするのも悪くねーな!! うっし! のんびりするぜー!!」
単純でお馬鹿な発言が目立つのは狼の獣人のコルハ。
獣人と言っても、この村の獣人はベースは人間で、そこに角や獣耳や尻尾など動物の一部が出ているだけで、獣成分は強く無い。
彼は狼の獣人なのだが、実は人間の耳も持っていて聴力も良いが鼻の方がきく。
紺色の髪に、紺色の短毛が生えた高い耳が頭から上に向かってピンと立っている。
身長もかなり高く、こちらは僕と比べて頭一つ分大きいね。
瞳は橙色をしており、意外と優しい色だねと言った時はなぜか恥ずかしがっていた。ちなみに目は吊り目がちなので第一印象はあんまり良くなかった。
コルハは突発的にあれこれしようと言い出しては、却下されて、言いくるめられて結局別のことをしている愛すべきお馬鹿だ。
そしてそんなコルハを言いくるめている、理知的に見えてやっぱりお馬鹿なエルフはゼガン。
エルフは寿命が他の人種族より長いが、成人するまでは同じように成長するらしい。なのでゼガンも同じく六歳だ。
彼の見た目はとても優れている。ぜフィア先生よりも薄い色味だが綺麗な金髪で瞳は碧眼。
目元も緩やかな弧を描いており、見た目の印象が良すぎて悪印象を覚えた程だ。
総じて、タイプの違うイケメンが三人居るようなもので、自分の見た目にあまり気を使っていなかった僕は、初対面の時に面食らって気圧されたよ。
この村には男前しかいないのか? ザ・モブって感じの人を見たことがない。キャラが濃い人や見目麗しい人が多すぎる。
そんなコルハとゼガンの二人はチラチラとエレアお姉ちゃんたち女子が集まっている方を見ながら、少し大きめの声で喋っている。分かりやす過ぎるその下心、なんか馬鹿っぽくて俺は良いと思うよ....!
とまあ、この三人と仲良くなってしまった僕もきっとお馬鹿なんだろう。
エレアお姉ちゃんの様子はすごく気になるが、今からどうこう言ってもすぐには機嫌は治らないだろう。今は時間に任せよう....ということで! のんびりするぞー!
「さあっ我が心の友グロックよ! 疾く案内したまえよ!」
「君は何様なんだよ~....まあいいけど。場所は、ここから北に行ったところにちょっとした丘になってるところあるでしょ? そこに一本の大きな樹が生えててねっ、良い木陰になってるんだ~!」
「なんと素晴らしい! 急ごうグロックくん!」
日陰は日陰でも、まさかの木陰!
葉と枝の隙間からこぼれる日差しと、地面に移る影のコントラストが美しいに決まっている! そして樹にもたれながらリラックスしてまどろむ....まるでフィクションだ....
「なあ、こいつら見てたらモテる気がしねえんだけど....」
「僕も、そう思います....でも彼らのあの生き生きとした顔を見てください。もう止められません....」
後ろでうだうだ言ってるコルハとゼガンを急かして、僕らは丘にある一本の樹の元へと、いやシャングリラへと向かうのだった!
....そんな僕らをぶすくれたエレアお姉ちゃんたちが見ているとは知らずに....
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何事もなくやってこれた、僕のシャングリラ。
そこはまるで一つの絵画のような場所だった。ひたすらに美しい。前世の【記憶】があるだけに本当に非現実的に感じてしまう。
純粋に感動してしまった。
「おぉ、おぉぉ! グロック、僕は今とても感謝している! ありがとうグロック、ありがとう大樹、ありがとう世界!」
「「「やばいな(ですね)こいつ....」」」
周囲の目線なんて何も気にならないほどに僕は感動している。
大樹の周辺の下草は程よい長さになっており、転がった時に煩わしくないどころか、草がクッションになってくれる本当に丁度良い長さ。
木漏れ日によって描かれる草の上の影は風と共に揺れ、同時に葉が擦れる音が耳に心地良い。
大樹にもたれながら視線を向けた先には広大でなだらかな丘、その少し先には僕らの村が見えている。その光景すらもはや芸術的である。
「僕のお墓はここに立ててくれ、グロック、コルハ、ゼガン....」
「極まってるよね~アッシュって」
「こうはなりたくねえな!」
「それには同感ですね。よい反面教師です」
「まあまあ、みんなも大樹に背を預けて、脱力して身を委ねるんだ。そうすれば僕の気持ちも少しは分かるはずさ....」
無粋な子らよ、ただただ今この時に浸るのです....穏やかな気持ちで改めてこの平和を享受する....全人類がここに寝転べば世界は平和になるのにね....
....やっぱ駄目だ。全人類がここに来たら僕がくつろげない。
こうして世界平和は実現されないんだな。世界の真理を体感してしまった。
「アッシュほどではないけどここ良いよね~涼しくてきもちいぃ....」
「まあ、悪くはねえな。大人たちがちっこくておもしれえ」
「僕もここは好きですね。そうだ、せっかくなのでドライフルーツでも食べますか? 最近作り過ぎてしまって、三人に渡そうと思っていたんですよ」
この素晴らしい空間に、さらに自然の甘みを生かした甘味....
「ゼガンは僕を天に召そうとしているのかい?」
「....そうですね、アッシュの場合いっそ一度召された方が良いかもしれませんね」
「それはもう、こりごりだよ」
「「「えっ?」」」
「さて、そんなことを言うってことは、僕の美味しい水はいらないってことだよね?」
「冗談ですよ! アッシュ君! いやだなーはははは!」
僕の、必殺の切り札。アッシュの美味しい水。
僕の生み出す水の美味しさはこの村においても唯一無二。ドライフルーツなぞ、どこでも買えるし貰えるもの....それに比べて僕の水は超貴重でこの自然豊かなカンロ村でも味わえない極上の水!
僕の切り札が強すぎる!ふはははは!
「それじゃあ、みんな水筒出して。入れてくから」
「「「ありがたや~~」」」
この流れもいつの間にか僕らの間に出来たお約束だ。
そのあとの僕らはひたすらにくつろいだ。
時に風に頬を撫でられ
時にドライフルーツをつまみ
時に口の中の甘みを美味しい水で流し込み
時に村を眺め、目を閉じる....
....天に召されたわけじゃないよね?? なんだこの怠惰と優雅の極みは!!
あ~、駄目になっていく....僕は自然と一体になり、自然全ても僕となるかのようなこの感覚....心地良い。
「あれ? アッシュは~?」
「ん? アッシュ君いないですね?」
「はあ? そんな訳ないだろ? えっ居ねえ!? スンスン....おい! 居るぞ! そこに居るけど、気配が信じられねえくらい薄い!」
なんだか、周りが騒がしいけど今の僕には子守歌にしか聞こえない。
大地の上に立つ、小さな存在が元気に喋っているだけなのだから....
「アッシュ! 消えるな! 天に召されたのかこれ!? 生きてるよな!?」
「流石に怖いね~....目の前に居るのに存在がすごく薄っぺらいよぉ」
「....仕方ありません。アッシュ君、エレアさんが泣いてますよ?」
「....誰だ、泣かせたやつ....どこだ、教えろゼガン!」
「「「もどってきたぁ~」」」
魔力を循環させ、それを目に集中させることで視力を強化する。その状態で、周囲や村を見回し、エレアお姉ちゃんの姿を見つける。
どうやらこちらに向かってきているようだが、泣いているようには見えない....どういうことだ?
「泣いてないじゃん....なんで嘘ついたのゼガン」
「えっ、もう見つけたの? 普通に怖いね~」
「俺、全然わかんねえ、匂いは風向き次第ではあるが、音もぜんっぜんわかんねえ....」
「アッシュ君の気配がどんどん消えていって怖かったので、アッシュ君が起きそうな嘘をついたんです....良かったですよ、何事もなくて....」
んん? どういうことだ? 僕はただ自然に身を委ね自然の一部となっていただけなんだけど....
ゼガンの言う通りなら、あとで【記憶】で再確認しておこうかな。気配を消すのはこの世界では重要な技術だからね。
....だらけきったことで得る技術があるなんて、やはり素晴らしい世界だな。
「ところで、そのエレアお姉ちゃん達がこっちに向かってきてるけどどうする?」
「アッシュのこと探してたんじゃな~い?」
「まじかよ!? ゼガン、どうだ? この態勢、余裕がありそうに見えるか?」
「ぶふっ!......えぇ、見えますよ....? ふふふ....」
僕のことを探しに来た? あんなに怒ってたのにどうして? 分からない。分からないけど....
「コルハ....そのポーズ良いね....んふふっ....」
「二人ともいじわるだよね~。あっ僕も良いと思うよぉ?」
コルハはまるで涅槃像のようなポーズをとっていた。
コルハには似合わなさ過ぎて、笑いが我慢できないっ!
いやまてよ....閃いた! この三人に仏様のポーズを取らせよう!
この場所の空気感と相まってきっとおもしろ....すごいことになるぞ!
「グロック、胡坐をかいて。背筋を伸ばして、手は両手で丸をつくるような形でそれを親指側を上にしてへその前に持ってくるんだ!」
「こう~? なんかこれ良いねぇ。とっても集中できる気がする~」
「ゼガンも胡坐をかいて、左手はコの形にしてグロックと同じ要領でへその前に。右手は脇を締めて、そのまま肘だけまげて手の平を前に向ける。」
「おぉ、なんでしょうか....身が引き締まりますね」
「そのままみんな目を閉じるんだ」
..........完璧だ。世界を超えて仏様が並んでいる。丘の上の大樹の前に人間以外の種族の三体の仏が並ぶ光景に僕は非常に達成感を覚えていた。
あとはここに四体目の僕が並ぶだけ。
文化侵略してる気もするし、神様がいるかもしれないこの世界でこれはまずいかもしれないが、そんなことは今更気にしても遅いだろう。
ここまでみんなが完成されたポーズで目を閉じ集中していると、面白いを超えていっそ神々しい。
そうこうしている内に、女の子の話し声が耳に届いた。
僕は胡坐で座り、親指と人差し指を合わせて輪を作り、そのまま腕を膝の上に乗せ、手の平を上へと向ける。その状態で癖になりつつあるアルカイックなスマイルもつくっておこう。
....もはやここは、シャングリラではなく極楽浄土だな。
この丘の上の神々しい四人の悪ガキのことが少しの間村で噂されるのだがそれはまた別の話。
僕らの極楽浄土はもう少し騒がしくなりそうだ。
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