第11話 僕、そこまでやれって言ってない

 今朝、魔力が目覚め、美味しい水を大きな水甕いっぱいに出し、朝食を美味しくいただいた後、母さんと魔法の練習を始めた僕。

 だが、魔法の練習はお昼を待たずに切り上げることとなった。


 というのも、【記憶】スキルが悪さ?本領?を発揮したせい?おかげ?だ。


 時は、変な顔を解した後、魔法の練習を始めたところまで遡る。



「それじゃあまずは、体のぽかぽか、いいえ、魔力を強く意識してみましょうか!」


「はいっ!」


 威勢の良い返事を返した僕は、すぐにぽかぽかしている魔力に意識を集める。


 一度魔法を発動させているからか、はっきりと魔力の輪郭を捉えることが出来た。

 どうやら胸の中心辺りで、鼓動と同じ間隔で体内の魔力量を増やしながらゆらゆらとうごめいている。


「胸の真ん中に、魔力があるね」

「そうね、良い調子よ。じゃあここからはその魔力を動かして行きましょうか!最初はあんまり動かないかもしれないけど、続けているとどんどん思うように動かせるようになるの!」

「動かせるとどうなるの?」

「魔法を上手に扱うことが出来るのよ!」

「分かった、やってみる!」


 異世界に転生した感覚は【記憶】スキルのお陰で今までも十分に感じてきたけど、ここまでザ・ファンタジーになってくると否応なくテンションが上がってしまう!燃えてきたー!


 魔力を動かすってことは、魔法を使った時の動きの感覚を思い出せば何か掴めるかもしれない。

 【記憶】スキルでしっかりがっつり確かめさせてもらおう....ふむふむ....なるほどね。


 やっぱりこのスキル優秀だ。想像以上に。その時の感情や体感覚まで再現してくれる。おかげである程度の感覚は掴めた。これに自分流を少し足してやってみよう。


「..........むぅ〜」

「ふふっがんばってるわね....ゆっくり自分のペースで良いからね〜」


 思い出しているところを苦戦しているように受け取られたようだ。


 ふっふっふ、今からすぐに動かして驚かせてあげるよサフィー母さん!


 魔力が鼓動とともに増えている感覚を覚えたからこそ思いついた、血流に乗せて身体の流れにそって動かしてみる方法を早速試してみる。


「......あえ?なんで?....??」

「んふふ〜全然動かないでしょー。お母さんも最初はそんな感じだったわよ?動かすことは出来たけどねっ」


 サフィー母さんが、三歳の息子にマウントを取ってきてることすら気にならない異常事態だ。


 するっする動く。動きすぎて全身に行きわたちゃった....とりあえずサフィー母さんに聞こう!


「母さん....めっちゃ動いた....身体中をまわってるよ?これどうしたら良いの?」

「えっ........?」


 逆になんで?って言いたそうな顔ですごい戸惑ってる。

 赤ちゃんの頃のリアクションを見てる身からすると、サフィー母さんの反応って見てる側が面白いんだよなぁ。感情も表情も豊かで素敵な母さんだよ。


「....あー!アッシュ〜〜流石に嘘はダメよ〜!魔法の練習は真面目にやりましょうね!」

「全然嘘とちゃいますねん。めっちゃするする魔力動いちゃってますねん。信じてよ母さん!」


 マウント取り返したい訳じゃないんだ!プロレスなんてやってる精神的余裕ないんだよ!サフィー母さん!余裕なさすぎて前世の方言でてんねん!


「じゃっ、じゃあ、その魔力を動かす感覚を維持したまま、魔法を使って見ましょう。そうしたら、魔法を発動した後もある程度自分の意思で動かせるはずだから....」

「さっきのお水出す魔法で良い!?もうやるね!?」

「あっ!水の量も出来れば少なめを意識してみて!」


 この全身をするする巡る魔力に意識を傾けながら、手を前へと突き出し、詠唱を開始する。


「わかった!!『我が意に応え、清らかな水よ出でよ!』....ん?」


 なんだ今の感覚....詠唱する前に魔力が動いて掌まで向かい、詠唱してる段階で手の先に水が生じ始めていたんだけど....


 そんなことを思っている間にも魔法によって生まれた水は落ちることなく少しづつ量をまして大きな水の球になっていく。


 あっやばいと思い魔力を止めてみる。すると目の前でどんどん大きくなっていた水球の動きが止まる。

 不思議なことに、物理的には繋がっていないのに、目の前に浮かぶ僕の胴体ほどもある特大の水球と僕の魔力が繋がっている感覚がある。


 感覚のままに水を動かそうとしてみるが思うように動かない。こちらは要練習のようだ。


「母さん!水が球になったままだよ!でもここから動かせない!!どうしたら良いのこれ!!」

「..........」


 水球の維持に意識を割いている中で無言のサフィー母さんが気になり、チラリと視線を向けてみるとそこには、普段は切れ長な目をまん丸に見開いて、口も目同様まん丸に開けているサフィー母さんがいた。

 然しものサフィー母さんと言えど、そのような顔をして仕舞えばアホ面というか間抜け面というか、ちょっと笑ってしまった。


「ぷふっ....あっ!?」


 ばっしゃああん!と特大の水球が地面に落ちて弾けて飛び散る。


 目の前に水球を浮かべていた僕への被害は凄まじく、地面の土が泥になって流され全身がびしょびしょに濡れ泥に塗れてしまった。

 はっ!と思いサフィー母さんの方を見てみると、強い風が母さんの周りを渦巻いており、水も泥も全てを跳ね除けながらそこにあった。


 そんな凄まじいことを瞬時にやってのけるサフィー母さんに尊敬の念を抱いたところで気付く。


 なんで僕のことを同じように守ってくれなかったんだ?いじわるかな?


 じとっとした目をサフィー母さんに向けると、サフィー母さんがさっきから微動だにしていなかった。


 母さん何やってるんだ?どこ見てるんだ?虚空?しかも高速で口が動いてる。思考に沈んでるのか?


「......僕、どうしたらいいんだろう....とりあえずさっきの感覚、【記憶】でもう一回感じてみようかな?」


 魔力を全身に巡らせる感覚、詠唱を始めるとすでに水球が生成されていた時の感覚、水球が大きくなっていく時の感覚、魔力を堰き止め水球を維持する時の感覚、そして水球を動かそうとして動かせなかった時の感覚。


 これらをしっかり吟味し、その上でもう一回やってみよう。サフィー母さんが思考から戻ってくるまで。



 えーっと、魔力を全身に巡らせる....今回もまた自由に動かせる....


 つっ次に、詠唱....した時の感覚思い出して再現してみるか。母さんが一瞬で風を生み出してたことから、無詠唱自体はありそうだし。


 むむ〜、おっ!水出た!

 この水を繋がった魔力で球の状態にして維持。


 そして水球を魔力で動かす。


 ....もうほとんど抵抗なく出来る....



 ....っ!?!?


 僕の頭に豆電球が灯った。閃いた。

 そうか....そう言うことだったのか....!!


 僕はさっきまで【魔法の才】が、異常な速度での魔法関係の技能習得に関係していると思っていた。


 違う....違ったんだ!!少しは【魔法の才】も関わってるかもしれない、でも一番悪いのは【記憶】だ!!


 簡単に言えば、この【記憶】スキル、僕の体に覚えさせたな!!

 魔力の動かし方も!魔法発動のプロセスも!その後の魔法の維持や操作も!!


 僕が魔法を使ったのは今朝、水甕に水を出したのが初めてだ。その際、魔力に外に出ろと意識はしたが操作はしていない。

 その後、魔法の練習開始とともに魔法使用時の魔力の動きを【記憶】で改めて確認した。その時の魔力の動き方を感覚を【記憶】で体に覚えさせ染みつけたんだ。僕が必要としたから。


 【記憶】スキル君。これってもしかしてパッシブなのかい??

 僕、そんなスキルだと知らなかったよ?

 このままじゃ、学べば学ぶだけ僕が天才で秀才で麒麟児で神童になっていっちゃうよ?


 僕の脳のメモリそんなに容量あったかなあ....?


 最早こんな風に違うことを考えていても、水球の維持が出来るほどに体が覚えちゃったらしい。


 【魔法の才】があるからこんなにも自重を知らないおバカさんなのかな?

 剣術とかなら流石にここまでのオーバースペックは発揮しないよね?



 とりあえずやれるとこまでやってやろうと水球を二つに増やして制御の練習をしてみる。


 ....一個も二個も変わんないんですかね?


 一個維持する時の魔力のラインを右手と左手に一個ずつつくる感じでできた。

 だが、この維持にも体内の魔力を消費しているのか、体の中のポカポカが少なくなってきた。


 なんだかあんまり良い気分じゃないな。でも、使い切った方が良いのかな魔力?....僕のは心臓の鼓動と一緒に魔力が生成されるみたいだし、無くなってもすぐ戻るでしょ。


 折角なので魔力を使い切るまで、水球の維持をがんばってみた。


 結果、水球が維持できなくなり、気分が悪く、さらには体に力が入らずその場に座り込んでしまった。

 全身ドロドロでびちゃびちゃなので汚れは気にならないが、どうにも心細いような虚無感が襲ってくる。さらには疲労も濃く出ているようで、息が乱れる。

 これが魔力を使い切った状態なのか。

 どうやら使い切ってしまうと、魔力の回復速度がとても落ちてしまうらしい。五回鼓動を打つと一回魔力が生成される感じだ。


 やはり、魔力よりも、身体に対しての方が回復の優先順位が高いらしい。


 今後戦闘することがあれば、魔力が尽きないように戦わないといけないな。覚えておこう。あっいや、忘れられないか....


 僕は濡れた地面に座り込んで息を整えながら、サフィー母さんの様子を伺う。

 ようやく思考から帰ってきたのか、周囲の惨状と僕の状態を見て大慌てで駆けつけてくる。


 その後、魔法の練習は切り上げられ、体を洗いにサフィー母さんと村のすぐ側を流れる川に向かう。

 サフィー母さんは僕のどろどろの体と服を洗いながら、いっぱいのごめんなさいと、魔法を限界まで使わないことを懇々と言い続けていた。


 僕もここは謝ることしか出来ず、お互いに気をつけましょうでその場はなんとか収まった。


 サフィー母さんは、三歳の僕を対等に扱ってくれていて、思わず僕は嬉しい気持ちが込み上げてきて笑ってしまった。

 そんな僕を見てサフィー母さんも、仕方なさそうに笑っていた。



 やっぱり、母さんが母さんで良かった。

 僕のかけがえのないたった二人の母さん。

 今度こそ大切にしたい。家族も、いずれ出来るだろう友人も。

 次に死ぬ時は満足して死ねるように。

 きっと後悔だけはしてしまうんだろうけどね?

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