第10話 僕、ぽかぽかの正体を知る
大きくなりたい、強くなりたいと強く願ったその翌日。
朝起きると僕の体がすごく熱くなっていて、そのことに驚いた僕は急いでリビングへと続くドアを開けると、カル父さんとサフィー母さんに声をかける。
「父さん!母さん!なんか体がぽかぽかして熱い!どうなってるの!?」
僕の声に一番最初に反応したのは、両親ではなく、サフィー母さんと共にキッチンに立っていたエレアお姉ちゃんだった。
見ているこちらが心配になるほどの勢いで振り向いたかと思うと、すぐに駆け寄ってきて、おでこをごっつんこさせてくる。
「アッシュ大丈夫!?おでこくっつけるね!....あれ?あんまり熱くない?うーん....ほんとに熱い?大丈夫?」
思ったよりも僕の体温が高くなかったのか、不思議がりながらも心配してくれるエレアお姉ちゃん。
少し考え込んだかと思ったら、ぼそっと「他のところが悪いのかも」なんて言いながら僕の全身をくまなくまさぐってくる。
こんなにも心配されると、気恥ずかしくもあり嬉しくもある。....にしても過保護すぎる気はすけど。
「ほんとだよ!体が内側からぽかぽかして熱いんだよ!....でも体はしんどくないかも。なんなら昨日よりも元気いっぱい?」
僕のその言葉を聞いた途端、こちらに駆け寄って来ていた両親が訳知り顔になって頷きあっていた。
「アッシュ、たぶんそれ、あなたの魔力が目覚めたのよ。おめでとう」
サフィー母さんが嬉しそうに言ってくる。
なんでも、魔力の熱は当人にしか感じられないものらしい。なので、僕がいくら熱いと感じようと、体温が上がっているわけではないと言うことだ。
その言葉を聞いたエレアお姉ちゃんも「なんだそういうことか」と祝福の言葉をかけてくれる。
「おめでとっアッシュ!魔法はお母さんが教えてくれるから、これからは一緒に練習しようね!」
......えっ?....魔力が目覚めた......えっ?
唐突すぎて、受け止めきれず呆然としてしまった。
前にもこんなことあったな、なんだっけ....思い出せないや。....あっ転生する時だ、ありがと【記憶】
「......僕、魔法が使えるようになったの?」
「賢いアッシュなら、きっと直ぐ使える様になるよ。おめでとうアッシュ!」
カル父さんも嬉しそうに声をかけてくれた。
そっか、これが魔力なんだ....魔法使えるようになったんだ....えっ?ぽかぽかが熱くて嫌なんだけど、これどうしたら良いんだ?
今日はお祝いだな、なんて話をしているサフィー母さんたち。
今はそんなことより、この熱いのをどうにかしたいんだ!
「母さん、この体のぽかぽかどうしたらいいの?熱くて嫌なんだけど....?」
「ん?....っ!? そっか、そうよね。....分かった、アッシュ少し待っていて、すぐに戻るからね」
何も言っていないのに、何かに納得したと思ったら、サフィー母さんが家の裏口から外に出ていく。
間も無くして、僕と同じくらいの高さの大きな瓶を持って戻ってきた。
「この水甕のなかに手を入れて?」
どうしたらいいか分からない僕はカル父さんに抱き上げられて、言われるがまま甕の中に両手を入れる。
「そうしたら、体のぽかぽか外へ出ろーって思いながら、『我が意に応え、清らかな水よ出でよ』と唱えるのよ」
ぽかぽか魔力に外へ出ろーと願いながら、一言一句違えることなく唱える。
「『我が意に応え、清らかな水よ出でよ』!」
すると、僕のぽかぽか魔力が手のひらに集まりそこから水が発生し、それと同時にぽかぽかが一気に出ていく。
僕よりも大きな甕がみるみる透明で綺麗な水で満たされていく。
ぽかぽかの魔力が出ていくのはなんだか解放感があって清々しく、体内から出て行った魔力が水になって出ていく様を見ていると、まるで用を足して——こほん!なんでもない。うん!なんでもない!考えない!
気付けば、甕いっぱいに水が溜まっており、僕は急いで魔力に「もういいよー」と強く願う。
すると魔力の放出が止まり、それと同時に水もそれ以上は発生しなくなった。
「..........」
「..........」
カル父さんとサフィー母さんが甕を見たまま止まって動かない。
どうしたんだろ?カル父さんの頬をペチペチと叩いてみる。
「どうしたの父さーん!母さんも!だいじょうぶ!?」
僕の声でハッとしたのか、何かを呟いたかと思うと、いつにも増して真面目な顔で僕の顔を見てくる。
「....アッシュ、気分が悪くなったりしてない?どこか苦しいとか痛いとか変なところはない?」
「特にはないよ。熱いのが無くなって、スッキリしたぐらい。ぽかぽかは感じるけど嫌じゃないし。」
「そっか、それは良かったわ。......アッシュ、あなたの魔力はとっても多いみたい。こんな量の魔力、そりゃぽかぽかいっぱいで熱かったわよね、気付いて上げられなくてごめんね。それと今日から早速、魔法の練習を始めましょうか」
魔法の練習は全く構わないのだけど、こんなにも真面目な顔で言われると、少し怖い。
魔力が多いとは言っていたけど、多すぎるとか?多すぎると何か副作用でもあるのだろうか?
自分に降りかかる未知はこんなにも恐ろしいのかと、思わず身震いしてしまった。
「さてとっ!とりあえず、朝ごはんを食べようか!魔法の話はそのあとでね!せっかくアッシュが出してくれた綺麗な水もあることだし、僕はこれを頂こうかな?」
僕を抱き上げていた父さんに震えが伝わったのか、明るい声で空気を変えてくれた。
そのおかげで、僕の不安も少し軽くなった気がする。カル父さんの気づかいがとてもありがたかった。
僕が魔法で出した水は、驚くほど美味しかった。
僕以外のみんなもこんなに美味しい水は初めてだと、ごくごくと喉を鳴らしながら飲んでいた。
....少しだけ誇らしかった。
・
・
・
・
ご飯を食べ終わった後、カルお父さんは畑を見に行き、エレアお姉ちゃんは広場の勉強会に、僕とサフィー母さんは早速家の裏に魔法の練習に来ていた。
家から少し離れた場所で立ち止まったサフィー母さんは、振り向きざまに宣言した。
「お母さんがアッシュを一流の魔法使いにしてあげる!」
願ってもないことですけれども、急に言われても....
「....その心は?」
「あなたの魔力は、量が多く質も高い。何より、その大量の魔力を制御出来なければ、アッシュの身体に良くないかもしれないの。それならこの際、徹底的に魔力の制御と魔法を叩き込んでしまおう!そしてアッシュの優れた魔力でそれが出来れば最早一流!と言うわけよ!」
飛び抜けた発想と力技で常に回復魔法を使用し続けているサフィー母さんの魔法訓練....ちょっと怖いんだけど......
「大丈夫よ、お母さんこれでも高位冒険者だったんだから。とっても強くて、魔法の扱いもとっても上手いんだから!」
自信満々に胸を張ってそう言うサフィー母さん。 最近思うのは、見た目は神秘的だけど、中身は結構大胆と言うか、溌剌としていてギャップがすごい。
でもね母さん、強くて魔法の扱いが上手いことは、魔法の手解きも上手いかとは関係ないわけで....いや、うじうじしてても仕方ない。とにかくやってみなきゃ!
「ていうか、その心はなんて言葉どこで知ったのかしら?」
うぐっ...!つい前世のノリで喋ってしまった。
前の友人には結論から話して来るやつが多かったものだから、「その心は」と聞けば勝手に中身を話し出す魔法の呪文だったんだ
とにかく今は誤魔化さなきゃ!
「こっこの間、母さんがお家でお茶会開いてた時だよ!使い方合ってて良かったよ!」
「あら、そう。子どもって何を聞いてるか分からないものね....最近はエレアも時々おかしな言葉づかいするのよね〜」
「そんなことより魔法の練習始めよ!母さんよろしくお願いしますっ!」
今の俺に出来る最高のスマイルで練習を催促する。
「ちょっと、変な顔しないの!そんな顔してたら、ずっとそんな顔になっちゃうわよ〜」
「!?!?」
僕のスマイルが変な顔!?エレアお姉ちゃんに出会う時に必死で開発したこの顔が!?
でもエレアお姉ちゃんも当時変な顔って笑っていたな....アルカイックなスマイルは時代の遥か先を行っているのか?ならば仕方ない。甘んじて今は封印しよう。いつか来るその時まで!
とりあえず顔を揉んでほぐしておこう。変な顔にはなりたくないからね。
「さて、それじゃあまずは、体のぽかぽか、いいえ、魔力を強く意識してみましょうか!」
「はいっ!」
サフィー母さんは魔法の練習に意欲的な僕を見てさらにテンションが上がったのか、それはもう良い笑顔で練習を開始したのだった。
ここから発揮されるのだ、僕の選んだ【記憶】スキルの真価が。
【記憶】のくせに自重を忘れてきやがったこのスキルの....記憶し思い出す以外の、もう一つの力が。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます