第5話

「で、その噂話というのは一体……」

 俺は興味津々だった。

「まぁ、聞くと大した話じゃないと思うだろうからそんなに期待するなよ」

 そんなことを言われると余計に気になって仕方がなかった。

「まず、このファミレスグストの裏に、王林高校あるだろ?ここらじゃ一番頭が良い高校、そこに通う生徒の話なんだけど」

「はい」

「王林高校は生徒が皆優秀だから、基本的にお前らみたく学校サボったりしないわけよ、だけどある日、王林高校の制服着た女子生徒がこのグストに平日からサボりに来たっていう話」

「なんか思ってたより、ショボい話ですね、聞いといてアレですが」

「まあまあ、話は最後まで聞きなさいよ」

「え?あ、はい」

「その女子生徒が、理由はわからないけど、店に来てから何も注文せず、ずっと顔を伏せて1時間近く泣き続けた挙句、そのまま退店したみたいなんだ、まあ私はその日バイトのシフトが無くて、他のスタッフから後日又聞きしただけなんだけど」

「変な話ですねー、その子めちゃくちゃ可愛かったりして?」

 志童が冗談交じりに言ってみる。

「お、志童勘が鋭いなご明察、店内のごく少数の人だけが、彼女が店を出る際に、彼女の顔を一瞬見て、その情報によればめちゃくちゃ可愛かったみたいだ」

「あはは、マジすか、そんなことあるんですねー」

「店に来て1時間近く何も注文せず泣き続けて、しまいにはそのまま帰るなんてことをしたもんだから変に目立ってたみたいだ、おまけにあの王林高校の生徒で、顔はめちゃくちゃ可愛いし、そして、ここら辺の他校のお前らみたいなサボり魔もその日はグストで結構な数サボっていたみたいで、その子が泣きに来た翌日からその子目当てで、このグストで学校をサボりだす奴が最近急増している。」

「影響力すごいですねその子、因みにその子が来店したのっていつ頃ですか?」

「大体今日から2,3週間前らしい」

「めちゃくちゃ最近ですね、その話」

 ガラガラガラガラ…

 店の自動ドアが開く音が聞こえてきた。

「千里、志童見ろよ、奴等だよ」

「え」

 俺は志童と同時に声を発した。

「奴等は彼女の噂話をどこかから聞きつけて、ここんとこ2日に1回はここにサボりに来る常連さ、しかもまあまあデカい声で彼女の話をするもんだから目立ってしょうがないのさ」

「なるほど」

「もし興味があれば、耳済ましてあいつらの会話聞いてみな、私は一旦休憩で奥の事務室で休んでるから」

 俺達にそう言い残し、桜さんは行ってしまった。

「なあ、千里」

「何だよ」

「すっげー面白そうじゃね、この話、俺その子に会ってみたくなっちゃったもん」

「恥ずかしいからあまり大きな声で言えないけど、実は俺も同じ気持ちだ」

 俺達は、桜さんの話を聞いてる途中で空になった、グラスに再度ジュースを注ぎ直し謎の高揚感に包まれていた。もちろん俺はジンジャーエールをおかわりした。

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