第2話 ツンデレとドS

「あんたたちが声のボリュームも考えずに喋ってるのが悪いんじゃない」


 両腕を組み、鋭い目つきで俺の方を見るのは、冴羽璃琴(さえばりこ)。


 源氏名『リコピン』


 この店で一番人気を誇るキャストだ。

 腰のあたりまで伸びた金髪のツインテール。キリっとした目つきに薄い唇。可愛い顔立ちではあるものの、目つきのせいか、威圧的。


 体つきは細く小柄で、組んだ腕にドシっと乗っかる胸もない。むしろ隠れているまである。

 金髪ツインテール貧乳で、ご察しがつくように、


「なんだ? そんなに俺たちの話が気になっちゃったのか?」


「うるさいわね! あんたの話なんかちっとも興味ないんだから!」


 ツンデレなのだ。

 この見た目でツンデレは王道中の王道だと思うが、璃琴に限ってはただのツンデレではない。


 ツンが強すぎるのだ。

 デレることがないと言って良いほどのツンしかない璃琴。

 こいつも同様、お店以外ではモテないのである。


 店ではこのツンデレがご褒美というお客にぶっ刺さり、売り上げの個人成績もぶっちぎりの一位。


 デレがないツンデレを、果たしてツンデレと言っていいのか? と疑問に思うことだろう。


 しかし、極まれにデレることがある。

 そのデレたときに、顔がトマトのように真っ赤になることから、璃琴の源氏名がリコピンとなったのだ。


 まぁ、俺が付けたんだけど。てか、俺の前でしかデレたことないんだけど。

 それも、モテたいと相談されたときに、『可愛い』と言っただけで、顔を真っ赤にしていた。


 態度はツンそのものであったが、合間にちょっとのデレが入る。

 そのデレが、ギャップすぎて可愛いのだ。

 本当はお客にも見せてあげたいのだが、まだまだ時間は掛かりそうだ。


「私はどんな話してるか気になるんだけど?」


 続いて話すのは、隅縄・スヴィザーチ・颯(すみなわ・はやて)。

 源氏名『サディ』


 店内人気三番目のキャストだ。

 ロシアと日本人のハーフで、それはもう眼福してしまうくらいの超絶スタイル。

 ボンキュッボンの誰もが見惚れてしまうようなモデル体型。

 白い肌には、青い宝石のような瞳が輝いている。


 地毛の綺麗な白髪ボブには、アクセントで赤いリボンが付けられ、華奢な雰囲気。


「ま、言わないなら縛りあげて吐かせるんだけど」


 可愛げのあるそのリボンの使い道は、全然可愛いものではなく、両手首を縛りあげるためにある。


 根っからのドSな楓は、俺もお客も事あるごとに容赦なく縛ってくる。

 俺は抵抗するが、お客はそれを喜んでいるくらいのドMが付いているため、これが需要と供給とやつなんだなと、やり過ぎと思いつつ自分をそう納得させている。


 お店の中でロウソクプレイや亀甲縛りでお客を吊るし上げたときは流石の俺も止めたんだけどな。


 ここは一八禁SM喫茶と勘違いされたら溜まったもんじゃない。

 それに、名前に入ってる『縄』の文字。セカンドネームの『スヴィザーチ』はロシア語で縛るという意味。


 本当の意味で根っからのドSな颯の源氏名は、ドSの別名であるサディストが由来。

 これも、俺が考えた。

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