2話 人助けは余裕がある奴がするもんだ

「行って来ます」


 日課の修行を終えた俺は珍しく昼前に外出していた。

 理由は今日から夏休みの彩華がおばあちゃんと二人で海外旅行に行くので、その前に最高の日本食を味わってもらうために必要な食材を買いに来ていたのだ。


 久しぶりに電車に乗ると人の多さに驚かされた。

 11時でこれなのだから、8時くらいの通勤ラッシュなんて想像もしたくない。


 俺が席に座り電子書籍を読んで暇潰しをしていると隣に子供が座ってきた。

 どうやら親子らしく、母親だけが座れていない状況のようだ。


「もう直ぐ着くから、どうぞ」


 それだけ母親に告げて、俺は足早にその場を離れる。

 電車の揺れを手すりを使わないで、片足で耐える修行(遊び)を楽しんでいると直ぐに駅に着き、数分歩くと目的地である築地に着いた。


 車海老400円、高級魚4匹で100円など、スーパーではあり得ないほど安く鮮度の良い魚を見ているだけでも楽しい。歩いていると目的の魚を発見した。


「...........これだな。このハモとサバを三匹お願いします」

「お兄さん若いのに良い目してるね〜おまけに貝をつけるよ」


 「ありがとうございます」とお礼をし俺は市場を去る。

 それにしても大量の貝をおまけにもらえるとはな。


「天ぷらは確定として、お造りと湯引き、どちらにするか」


 大きな鱧を背負い、歩きながら自分に問いかける。

 何を作るか悩んでいると叫び声が聞こえてきた。


「..............ん?」


 多くの人が前方から俺の後ろの方に走っていく。

 何があったのか気になったので、俺は人並みに逆らうように突き進む。


「なるほどな」


 人々が逃げていた理由は直ぐにわかった。

 イカれた目をしながらナイフを振り回す男がいたのだ。


「しねえ! しねえ!」


 ナイフを振り回している男の近くに親子がいた。

 どうやら子供が転んで、逃げ遅れているらしい。


 ナイフを突き立てて親子に近づいていく。

 瞬間、高校生くらいの男が庇うように前に出た。


「しねええ!」


 誰だろうが殺すと言わんばかりに走るナイフの男。

 咄嗟にでたは良いものの高校生は恐怖のせいか動く気配がない。

 このままいけば、あの高校生は死ぬだろう........仕方ない。


「人助けは余裕がある奴がするもんだ」


 俺は一瞬で近づいて男の腕を蹴りナイフを吹き飛ばしてそう呟いた。

 目を見開き驚く高校生。高校生は緊張が解けたのか尻もちを着く。


 ナイフ男はナイフがなければただのイカれたおっさんなので、

 顔面に拳を叩き込んでやれば、気を失って倒れた。


「あの、先ほどもほんっとうにありがとうございます!!」


 先ほどもという言葉が気に掛かり後ろを振り向くと先ほど席を譲った親子だった。


「助かってよかったです」


「変な格好のお兄さん!本当にありがとう!!」


 少年もお礼をしてきたので俺は頭を撫でていう。


「ハハ、これは変な格好じゃ.......変かもな。とにかく助かってよかったな」

「うん!!」


 俺は気絶させた男を警察に連れ渡して帰ってる最中にふと思った。

 (さっきの高校生俺が来なければまるで異世界転生する感じの展開だったよな)



「ただいまー」

「お兄ちゃんおかえりー」


 家に帰ると、制服姿の彩華がいた。


「彩華! 随分学校終わるの早いな」

「うん。って、お兄ちゃんその魚なに ??」


 右肩に背負っていた2メートル近いハモを前に出して言う。


「鱧だ。大きいだろ? 今から料理するから待っててくれ」


 そう告げて俺はキッチンに移動する。

 献立は鱧の天ぷら、湯引き、お造り。

 貝の味噌汁、鯖の味噌煮だ。


 初めて鱧を捌いたが、なかなかに難しい。

 だが、家族のためなので完璧に捌いた。


「お兄ちゃんこの天ぷら最高!」

「ならよかった。その湯引きも美味いぞ」


 食事を楽しんでいると妹が言ってきた


「海外行く前に食べれて最高なんだけど、本当にお兄ちゃんは行かないの?」

「今回はやめとくよ。二人で楽しんできてくれ」


 頭を撫でてそう言うと彩華は納得した。

 食事を楽しんだ後、旅行の準備を手伝い。


「お兄ちゃん行ってくるね!!」

「拓未、お土産買ってくるからね」


 二人がそれぞれ別れの挨拶をしてくる。


「ああ、行ってらっしゃい。お土産は本を頼む」

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