15話 南部工業地区制圧作戦
鳥のさえずりが聞こえる。
目を開くと、いつもの天井だ。
朝の日差し……は雲に隠れ見えないが、朝を告げる空の明るさが窓の外から伺えた。
鳥の鳴き声の次に聞こえたのは、廊下を元気よく走る音だった。
「お姉ちゃーん!調子はどう?」
「おはよう、ソレイユ」
ソレイユが私の部屋の入り口から、顔を覗かせた。
「修復が終わってから一週間が経つけど、身体はちゃんと動きそう?」
「うん、どこにも問題は無い。もう大丈夫」
フローヴァ中央都市襲撃のあと十日間もの間、私は目を覚さなかったらしい。
しかし、今は問題はない。
機体の修理が終わった後、動作テストも行なった上で以前と変わらぬ機能を保っている。
これなら今すぐにでも戦場に復帰できる、とクリス博士も太鼓判を押してくれた。
「さっき軍の人から、司令本部に来いって言われてたよ。多分今度の南部工業地区制圧作戦のことだろうけど」
「ありがとう、ソレイユ」
「……本当に大丈夫?まだ直ったばっかりだよ?」
「うん、問題は無いよ。しばらく戦闘出来なかった分、成果を出さないと。……何か、心配なことでもあるの?」
心配してくれるのは嬉しいが、少し心配し過ぎな気がする。
何か気になる事でもあるのだろうか。
「……うーん。これは勘なんだけど、お姉ちゃん、なんか元気なくない?」
「そう?私は元気だけど……」
「そう、なのかな?……ごめん、私が不安になってるだけかも」
「不安、かぁ……。まあ、確かに復帰明けではあるけど……」
「それもあるんだけど……都市襲撃で機械兵器を全部倒した後、お姉ちゃんが運び込まれてきてさ、そのとき黒髪の女の子が近くにいたんだけど、その子が言うには倒れる前の様子がおかしかったんだって。……なんか、ぼそぼそと呟きながら倒れた、って聞いたんだけど」
「うーん……」
あの時のことはよく覚えていない。
機械兵器を倒したことだけは事実として覚えているが、それ以外はあやふやだ。
「ごめん、よく覚えてない。……とりあえず、会議に行ってくるね!」
ベットから立ち上がり、ソレイユに小さく手を振りながら部屋を出ていく。
「お姉ちゃん…………」
ぽつりとソレイユが私を呼んだ気がするが、私は振り向かずに廊下を歩いていった。
廊下は閑散としていて、人通りが全く無い。
恐らく、これから南部工業地区制圧作戦についての会議があるから、そちらの方に人員が召集されているのだろう。
アンドロイド開発局を出て、都市の中心にある軍司令本部へと向かう。
高くそびえ立つ、巨大な白い建物。
その高さは約九百メートルほどであり、何本もの柱に支えられ、その上で大きな衝撃にも耐えられる素材で建築されている。
先日の襲撃事件のような非常事態であっても、防衛基地としての役割を十全に果たせるという訳だ。
フローヴァ国の発展と技術を象徴する、政治と軍事の要。
私は建物の中に入り、作戦本部へと向かった。
エレベーターで会議室のある15階へと登り、一番奥の部屋が作戦本部だ。
部屋に入ると、中には既に十数名の隊員が居た。
作戦会議の始まる十分程前だが、全員揃っているようだ。
今回私の参加する作戦は、私の復帰後の試験運用も兼ねてそこまで大規模な作戦ではない。
そのため会議に参加するのは各部隊の隊長十数人程度だけだった。
フローヴァ軍は6つの大部隊と128の小部隊で構成されており、それらを束ねるのがシーザー総司令———フローヴァ軍の総司令官であり、実質的なフローヴァ国の最高権力者なのである。
人が集まったのを見計らって、今回の作戦の司令官が口を開く。
「では、南部工業地区制圧作戦についての説明を始める。まずは———」
長々とした説明が始まる。
要約すると、作戦内容はこうだった。
私たちは今回、フローヴァ国とレクセキュア国の国境沿い、その南部にある工業地区へと侵攻する。
南部工業地区は海に面しており、なおかつ以前制圧した第六自動管制塔とも隣接していた。
攻め入るには絶好の条件である。
海上からの戦艦に地上部隊、そして空から私が侵攻し、付近の防衛設備を突破。さらに工業地区内の中心にある防衛基地に侵入し、そこのシステムを無力化すれば作戦は成功となる。
「……以上で作戦概要の説明を終了する。では、具体的な編成及び役割を確認する」
会議はまだ続く。
私は空からの奇襲後、防衛基地に侵入しシステムを無力化する役割を担っている。
つまりこの作戦の
「…………」
ふと、今朝のソレイユの様子が気になった。
私のことを過剰に気にかける様子。
私の修理は完璧なはずだ。
身体も不自由無く動くし、動作テストでも普段と同じ結果が得られた。
……何も問題はない。
だが、それでも彼女は何かを気にかけていたようだった。
しばらくソレイユと共に行動して気づいたことだが、彼女は「勘が良い」らしい。
理論的な説明はおろか、ソレイユ自身もどうしてそうなるかを理解できていないが、彼女が「そうなる」と思ったことは高確率で発生する。
旧レクセキュア炭鉱制圧作戦でも、彼女のおかげで崩れていく鉱山から脱出することができた。
……これは恐らくだが、彼女は無意識化で物事を計算し結論として出てくる行動を、彼女はそのまま理解することなく行動に写しているのかもしれない。
詳しいことは分からないが、どのような仕組みであったとしてもソレイユの「勘」は当たりやすいのは事実だ。
……とりあえず、気をつけておこう。
考えごとに
「では、これにて作戦会議を終了する」
次々と隊員が部屋から立ち去っていく。
私もそれに続いて部屋を出る。
ふと、部屋の外にあった窓から景色を見た。
ここからはフローヴァ中央都市部を一望できる。
……軍司令本部を中心に広がる、大規模な都市。
襲撃事件により、都市の各地に機械兵器による破壊の痕跡が残っているのだが、この高さだとそれも見づらい。
それよりも街の明かりの方が目立っている。
こうして見ると、まるで襲撃事件そのものが無かったかのように思えてくる。
何も、無かったかのように———。
「………………」
しばらく、窓の外の景色を眺める。
ただ、何を考えるわけでもなく。
ぼうっと、思考に
「……そろそろ、戻らなきゃ」
窓に映る景色から目を背け、そのまま私は軍司令本部を後にした。
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