第5話 最終奥義




 じゃあ、禾音かのんクンが記憶を取り戻すまで一緒に居る事。

 これは局長命令だよ。


 渋る瑠衣るいに、なぎは最終奥義、局長命令を繰り出した。


「命令だからね。いい。断れないからね」

「いえ、局長も間違う事はあるので、全面的に命令に従う事はしません。私が局長の命令が間違っていると判断した場合、仕事仲間に集まってもらってのち、みんなで話し合って、その命令に従うべきか否かを判断しますので、断るという選択肢も出てきます」

「………ウン、そうだね。私も間違う事はある。認めよう。キミが断れる時もあるね」

「はい」

「それで?今回はどう判断したの?」

「………局長命令を出すほどに、局長は禾音に早く記憶を取り戻してもらいたいと思っているのですね。禾音が優秀な騎士だと認めているからこそ」

「う~ん。うん。そうだね」

「わかりました。早く禾音が記憶を取り戻せるように助力します」

「うん。よろしくネ」

「禾音も本当にいいのですか?本当に私の傍に居れば、記憶を取り戻せると思っているのですか?」


 瑠衣は禾音に視線を定めた。

 禾音はこくんと小さく頷いた。

 まるで小さかった禾音がするような仕草だった。

 もしかして、記憶喪失に伴って、幼児に退行しているのではないか。

 もしそうだったら、自分の手には余る。

 しかし断るという選択肢はすでになかった瑠衣は、素早くどうすればいいかを考え、答えを導き出した。


「局長」

「何だい?」

「評判のいい家政婦紹介所を知っていますか?」

「うん。知っているけど」

「よかった。教えてください。それと、記憶喪失専門家の紹介所も教えてください。家政婦と医師、私の三人で、禾音の記憶を取り戻せるように助力したいと思います」

「うんうん。家政婦と医師も一緒に居てくれたら、頼もしい限りだよね。それでいいかい?禾音クン」


 凪はそっと隣に座る禾音の肩に手を置いた。

 禾音はじっと凪を見つめては、必要ないと、はっきりと言ってのち、瑠衣を真っ直ぐに見つめて、瑠衣が居ればいいと、強い口調で言い切ったのであった。











(2024.7.3)



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