第13話 神スキルの本領

 未来視の二重展開には大きな欠点がある。

 並行未来へ跳躍することだ。


 図にするとこんな感じ。


【未来視の二重展開】

・一つ目の未来視発動

 └二つ目の未来視を発動

  ├未来を見たことによる行動の変化←┐

  └→行動の変化による未来の変化──┘


 この時のハミルトン閉路が超高速で反復することで、複数の未来を一瞬の間に叩き込まれることになる。

 当然、人間の脳にはキャパオーバー。

 過剰な筋トレがかえって筋肉をしぼませてしまうように、過剰な情報も経験値としてはマイナスだ。

 どう考えても、日常的に訓練に取り入れていたらいつか廃人になる。


 二つ目の未来視をごく近傍、それこそ数秒以内で行えばギャップも少なく、処理しきれると思うが、片目で半秒先は見えてるわけだから、もう一方の目は現在時間を見ている方がよっぽど有意義だ。

 ぶっちゃけそんなに直近の未来見て何に活かすのって話である。


 ということで、この体験を経た俺は考えた。

 どうすれば二重展開の術式を完成させられるかを。

 あらかじめ決まっていたことなのかもしれない、俺が術式の改良に取り組むことは。


 だから、すべての未来時間で、あらゆる俺は会得していた。

 あらゆる未来時間の俺が当たり前のように使っていた術式の解釈だからこそ体得できた、未来視の二重展開における、裏技を。


 それが未来視、二重発動・改である。


 使い方は簡単。

 まず、未来に向かって伸びる縁を一本の連続した静止画だと解釈する。

 つまり、一連の出来事をコマ送りアニメーションとして考えるのだ。

 イメージはアナログデータをデジタル変換する感じ。


 次に、任意の比率で意図的にフレームを落とす。

 その後にフレームレートを落とさず未来視を発動すれば……落としたフレームに反比例する速度で未来が再生されるって仕組み。


(いわば未来視の倍速再生)


 この改良の優れた点は、あくまでぶつ切りの縁の連続再生である点だ。


 わかりやすく図説するとこんな感じ。


【未来視の二重展開・改】(例として2倍速)

・未来を分割

 ├─分割された未来1(見る)

 │ 分割された未来2(飛ばす)

 ├─……

 ├─分割された未来2n-1(見る)

 │ 分割された未来2n(飛ばす)

 ├─……

   ※nは任意の自然数


 ここでポイントとなるのは、それぞれの未来が独立している点だ。


 未来1を見た時点で2以降の未来は見る前の未来と変わっているし、未来3を見た時点で4以降の未来も変化している。


 だが隣接する未来同士は稠密。

 刹那の間に起こせるアクション程度では連続性を失わない。


 簡単に言えば、近い未来同士をつぎはぎすることで未来を一本化しようという戦略だ。


 でもそれって、二重発動させる必要ある?

 あるんです。

 単一発動における未来視は、術式を発動せずに体験した未来を視認する術。

 つまり、二重発動せずに見る未来は、術式という鍛錬を積まなかった世界の俺になるのだ。

 修行の成果というフィードバックは現代に持ち越せないことになる。


 他方、二重展開した場合は、、フレーム落ちさせた時間においても修行中。

 単位時間当たりの経験値効率はそのまま、修行時間だけを倍速にできるわけだ。


「あ」


 見ていた未来が、突然連続性を失った。

 はてな、と疑問を浮かべて、遅れて理解する。


 考えてみれば当然ではあるが、修行時間を倍稼げるということは、コツを掴むまでの時間を半減できるということだ。

 コツを掴まなかった俺が歩む未来と、コツを掴んだ俺が歩む未来が別になるのは当然。


 未来時間における術式の解釈が現実時間にフィードバックされたことで、未来は連続性を失うほど大きく分岐した。そういうことだ。


(いける、いけるぞ!)


 努力の始点は人より早かった。

 大幅なスタートダッシュを決めることができた。


 そのうえ今度は、人の何倍もの速度で成長する術を手に入れた。


(ふはははは! 俺の進化に追いつけるものはいない!)


 と、調子に乗っていたら。


「あ」


 未来で俺が気絶した。

 割とあっけなく気絶した。


 この後帰ってくる父親に修行を付けてもらえることになったのだが、初見殺しみたいな術式を前にあっけなく意識を刈り取られたのだ。


「いや、その攻撃を初見で回避しろってのは土台無理な――」


 と、考えている間に未来が再生された。

 俺を気絶させたはずの父親は俺を心配そうに「す、すまん! 加減を間違えた」などと供述しており、母親は「初見であの術式を回避したとおっしゃるのですか⁉」と驚愕している。


(あ、そうか。初見殺しを事前に知っていたことになったから)


 初見じゃないからギリギリ直撃は免れた、ってわけか。


(修行効率アップだけじゃなく、初見殺しの予習も可能、と)


 胸の奥がかっと熱くなる。

 わくわくと昂奮が抑えられない。


(なんだこの術式、神スキルか⁉)


 欲しいもの全部詰まってるじゃねえか!

 まさに、理不尽に対抗するための最適解。

 俺が望んだ理想解!


(地道な修行過程を省略して成果が返ってくるし、目に見えて強くなるからトレーニングなのに全然つらくない!)


 むしろ楽しい!


(これなら絶対なれる、最強に!)


 みなぎってきた……!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る