第6話 霊力の測定
「到着いたしました」
神社である。それもめちゃくちゃ大きい。
道中何匹もの『災禍』に襲われたけど、どれも父の敵ではなかった。
一子相伝の術式強い。
俺も欲しい。
ちなみに、境内は『災禍』を寄せ付けない結界が張り巡らされているらしく、ここまでくると敵襲の心配はもうないらしい。やったぜ。
「ソラ、おんぶしてあげよっか?」
「だいじょうぶ! じぶんであるける!」
「そっか、無理しちゃだめだよ?」
「わかってる!」
関係者以外立ち入り禁止と記されているエリアに、堂々侵入する父。
父、母の後ろをとことことついて行く俺。
なお、運転手の清水さんはおかげ横丁で待機である。
しばらく行くと、鉄色の大きな門があらわれた。
今日の日本ではあまり見ない、閉じた状態の城門だ。
父がその門戸に手をかざす。
(おお! 門がひとりでに開いた⁉)
ずいぶん古い建造物に思えたが、どういう仕組みなのだろうか。
それとも霊力を使った術式に関係が?
き、気になる……!
「よう来たの。雑賀や、待ちわびたぞ」
門が開いた先に、女性がいた。
白い巫女服のスリットからのぞかせるは細い手足。
言葉にするなら蠱惑的、そんなカリスマオーラを放つ、妙齢の女性だ。
「お待たせして申し訳ございません」
「冗談じゃ、相変わらず硬いのう」
頭を下げる父と、コロコロと笑う女性。
この人、偉い人だ。
それもたぶん、トップクラス。
「
「ハッ」
音もなく、キツネの面をつけた官女が現れて、こちらですと案内される。
枯山水庭園を横目に渡り廊下を通り抜ける。
4枚で一組の龍の絵が描かれたふすまの先に、地下室へと続く階段が部屋の中央にある。
「雑賀家、ご到着いたしました」
地下通路の奥には、石造りの門がある。
その門の右側と左側に、子連れの親子が一組ずついて、さらにそのそばに、俺たちをここに案内してくれた官女さんと同じ面をつけた官女がそれぞれについている。
「これより、開門の儀を執り行います。桜守家、門前へお越しください」
「はい!」
勢いよく返事したのは、向かって右側にいた一家の娘さんだ。
難しい言葉だったが、両親を置いてけぼりにして門の前へと移動する。
事前に儀式の段取りを聞いていたのかもしれない。
うちの到着が遅かったみたいだし。
「では石碑に手を――」
「えい!」
官女さんが言い切るより早く、女の子は石碑に手を当てた。
すると、一見して重厚な石戸が、音を立てて開いていく。
果たして、門の先にあったものは――
また別の門だった。
(マトリョーシカ!)
一番手前の門が開ききると次の門。
二番目の門が開ききるとまた次の門、と扉が順々に開けられていく。
11枚の門が少しだけ開きかけたところで、門はびくりとも動かなくなった。
「じ、十門開放! 十門だ! やったぞ! 桜守家は安泰だ!」
「えへへ! パパ、あかねすごい?」
「すごいぞ
ふむ。
これはあれかな?
扉が開いた枚数で、霊力量を測定するのかな?
規模はよくわからないけれど、十枚開けばべた褒めされるレベルらしい。
大丈夫だよな、俺。
ゼロ歳のころからトレーニングしてきたんだし、それなりにはあるはず……。
やべえ、急に不安になってきた。
受験の合格発表当日みたいだ。
お、おなかが……っ。
「続きまして壬生家、門前へお越しください」
「はい」
先の少女、あかねちゃんが両親に手を引かれて名残惜しそうに石門の前から立ち去った。
石碑に触れる者がいなくなった石門は、奥の扉から順々に戸締りされていく。
壬生家はなんというか、凛とした空気を纏っていた。
厳格、と表現すればいいのだろうか。
近づくものを許さない、迂闊に間合いに入り込めば問答無用で切り伏せる、そんなイメージが浮かぶ。
「では、石碑に手をあててくださいませ」
「はい」
壬生家の子どもも女の子だった。
あかねちゃんとは違い、静かな動きで、少女は石碑に触れる。
石門が、一つまた一つと開いていく。
「八門開放か」
「パ、父上……!」
「心配するな
「……はい」
ときちゃんは同年代に負けたのが悔しかったのか、うつむいたまま顔を上げなくなってしまった。
しかしそうか。
8枚でもすごい方なのか。
少しだけ気が楽になったな、少しだけだけど。
……これで1枚とかだったらどうしよう。
「最後に雑賀家、門前へお越しください」
「は、はい!」
緊張で強張る体を何とか動かして、ゆっくりと歩く。
周りは無遠慮な視線を送ってくる。
見るなよ。
いや、さっきまではジロジロ見ていた側なので文句は言えないか。
(どうしよう、これでしょっぱい結果だったらどうしよう)
8枚、いや口ぶりからするに7枚でもいい。
いままでの訓練は無駄じゃなかったと、証明してくれ!
(頼む……!)
石碑に触れるとき、目を開けたままではいられなかった。
ぎゅっと目を瞑り、審判が下される瞬間を、待つ。
がらがら、と。
扉が開く音は聞こえた。
音源はどんどん遠ざかっていく。
(お、おお⁉ これは、結構いったんじゃないか⁉)
音の切れ間があいまいなせいで、何枚開いたのかは耳だけじゃ正確に把握できなかったけど、それなりに長い時間響いていた。
音も最後の方はだいぶ遠くから聞こえる気がする。
両親も、喜んでくれるはず……!
その、はずなのに。
いつまでたっても、喜びの声は上がらない。
ならば俺の思い過ごしで、実はたいしたことない結果だったのだろうか。
いや、それにしては悲嘆にくれる声さえ上がらないのはおかしい。
「こ、これはいったい……」
最初に声を上げたのは、父だった。
(どっちだ⁉ どっちなんだ⁉)
衝撃を受けてるみたいだけど、結果はよかったのか? それとも絶句するほど悪かったのか?
どっちなんだよ!
大丈夫だ、いまのところ人生の大半を費やしたトレーニングに偽りはない。
そう、信じて、勇気を振り絞る。
思いまぶたを押し開ける。
「なんだ、これ」
そこに、信じられない結果が待ち受けていた。
用意されていた扉、すべてが開かれていたのだ。
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