指輪と後輩

「お待たせしました!」

パタパタと美優がリビングにやってくる。

その足元には大きくなってきた真白が美憂の後をつけてきていた。

本当に仲がいいなと思いながら美憂を見るといつもよりハッキリしたメイクをしていることに気づく。いつものナチュラルメイクも好きだがこれはゲームの美麗によく似ていてこれもいいなと思う。

「今日も綺麗だな。」

俺の言葉に面白いくらい美憂が赤くなる。

「あ、ありがとうございましゅ…。宗司さんが好きな美麗に近づけてみました!宗司さんも今日もかっこいいです!」

そう言った美憂は本当に輝いていて可愛いと思った。今日は指輪を選びに行くということもあり、俺も少しは気合を入れてみた。

「じゃあ行くか。」

「はい!」

元気に返事をする美憂は本当に可愛いと思った。


何でもそろう大型商業施設。

その中には人気No.1とネットに書いてあった指輪のブランド店も勿論ある。

来てみたはいいものの善し悪しが全く分からない中で俺たちは頭を悩ませていた。

「種類が多すぎます…。」

「そうだな。流石にわからん…。」

まさか自分が婚約をするなど考えてもいなかった事もありこの辺の知識は皆無だ。

単純に高いものを買えばいいというわけでもないだろし。

そんな感じで頭を悩ませているとお悩みですか?と一人の店員が近づいてきた。

あぁと顔を上げてそちらを見て俺は目を丸くする。向こうも俺に気づいて目を丸くした

「氷の騎士先輩じゃん。お久です。」

「その呼び方はやめろ。捻りつぶすぞ。」

「こわ!」

こいつは確か速水加奈(はやみかな)だ。生徒会の書記。茜が連れてきた生意気な後輩だ。

たしかこいつは庶務の後藤海斗(ごとうかいと)の幼馴染で、その時から付き合っていたはずだ。

左手の薬指にはしっかり指輪がついている。

去年結婚の報告を海斗から受けていたがそう言えば会う機会がなくて達也に頼んでご祝儀を届けたはずだ。

「まさかあの先輩が結婚かぁ。中身がいい美人って実在したんだ。両立できないものだと思ってましたよ。」

「二次元の中にはいるだろ。」

「そのすぐ二次元を引っ張り出すヲタク脳は相変わらずやばいですね。」

速水がニヤニヤと笑う。なんか腹立ってきた。

こいつの旦那はまともでいい子なのに。

「あの…。その子とはどういうご関係なんですか…?」

あっ、まずい美憂を放置してしまった。

「こいつは生意気な後輩Aだ。」

「ちょっとちょっと!初めまして。私はこの氷の騎士様の後輩だった速水加奈です。生徒会書記として茜先輩にスカウトされました。因みにその頃から庶務の幼馴染と恋仲でしたのでこの人とは何もありません。だから誤解のないようにお願いします。」

加奈の言葉を聞いて美憂は安心した顔になった。

「私は神宮美憂です。この度、宗司さんと婚約させていただくことになりました。よろしくお願いいたします。」

二人はお互いに握手をする。

「婚約ということは婚約指輪をお望みですか。どんなものをお望みで?」

最早俺の存在を無かったようにして美憂と話を始める加奈にジト目を送るが、華麗にスルーされたので黙って成り行きを見守ることにする。

普段使い出来るように落ち着いているデザインの物がいいです。今後結婚指輪に切り替えることも考慮して値段は抑え目で。」

「ふむふむ。ではいくつか見繕いますね。」

そう言って動こうとする加奈をおいと呼び止める。

「なんすか?先輩。今忙しいんですけど。」

「俺には聞かないのか?」

「え?先輩指輪とかわかるんですか?」

「わからん。」

「ですよね。それじゃあお二人はVIPルームにどうぞ。いくつかもってくるので。」

そう言ってVIPルームに俺らを通した後に加奈はとっとといなくなってしまった。

「すまない。うちの後輩はせっかちな奴なんだ。昔からそうだった。アイツの旦那はよくそれで苦労させられていた。」

「いえ。話が早くて助かります。彼女とは仲が良かったんですか?」

美憂の言葉に少し考える。お互い同じ生徒会役員としてはよく話していた。

と言ってもあいつは前から俺に対してはあんな感じだし、話すときはいつも幼馴染が一緒にいたからそんなに二人で話すことは無かった。

「二人で話すことはほぼない。あくまでアイツの旦那と3人で話していた。一緒に出掛けるということも生徒会の買い出し以外ではなかったよ。俺は会計だから買い出しの際には必ず一緒に行っていたけどな。と言っても相方はじゃんけんで負けたやつだったからアイツ意外とも二人で買い物に出ることは無かった。そんな関係性だ。」

「そうですか。仲がよさそうだったのでてっきり元カノさんかと思いました。」

「元カノだった場合は気づいても話すことは無い。卒業まで一回も話さなかった。そして仲がいいのはアイツではなくアイツの旦那の方だ。先輩先輩と俺によく話しかけてきたからな。」

「そうなんですね。すいません。少し身構えてしまいました。」

美憂は苦笑いを浮かべる。成程。元カノかと思ったから少し警戒したのかと納得した。

そんな話をしていると加奈が戻ってきた。

「お待たせしました。いくつか見繕いましたよ。」

そう言って加奈はいくつかテーブルに並べた。

流石というべきか的確に美憂の意見を汲み取ったデザインが並んでいる。

派手ではないが気品さのあるデザインだ。

「値段に関してはつけるダイヤモンドでの大きさ等で変わってきます。ふり幅はありますが、20~50ってとこですね。まぁ先輩なら3桁の指輪も余裕だと思いますけど平均が35万なんで奥さんの意見を最優先させました」

どうやらしかっり仕事は出来るようになったようだ。生徒会にいたときは本当にやばい時にしか動かなかったのでちょっと感心した。

美憂はテーブルにならんだ指輪を真剣な目で眺めている。

「どれかいいのはあったか?」

俺の問いかけに二つ指をさした。

「この二つでしょうか。ダイヤを入れても厭らしさがなく、デザインもシンプルです。お値段の方をそこそこ抑えられているので及第点かと思います。」

美憂の言葉を受けて俺も指輪を見る。確かにこのデザインなら厭らしさもない。

「問題はどちらにするかか。」

「はい。一旦指を二人で指しませんか?合えばそれでにしましょう。合わなければお互いに相談しましょう。」

美憂に言葉に頷きせーので指をさすと二人とも左を指さした。

「さすが結婚を意識するだけあって息があってますね。ダイヤはどうします?因みに平均は0.4っすね。」

わからない俺ために平均を出してくれるのは助かる。

「0.4で。だが最高の品質のものを頼む。そこに関しては妥協しないから。」

「了解っす。」

こうして無事に婚約指輪は決まるだった。


「因みにどれくらいの期間で出来る?」

そういえば聞いてなかったと帰り際に小声で聞いてみる。知識が皆無だったのでその辺も無知だ。

「だいたい1ヶ月半はかかりますね。因みにいつが希望です?」

危ねぇ…。12月24日にまた合わないところだった。

「12月23日には欲しい。」

「今日が10月20日なんで間に合いますよ。結婚指輪はもっと悩むのに時間がかかると思うのでもっと早く来ることをお勧めします。」

「わかった。また世話になると思うが頼む。」

「了解っす。異常な額のご祝儀をいただいた手前、誠心誠意対応させてもらいますよ。」

そう言って後輩がニヤリと笑う。俺は苦笑いで返す。だってご祝儀の相場とかわからんし。

「ではまた2人で来ていただければと思います。本日はお越しいただきありがとうございました。」

後輩に見送られて俺たちは店を出るのだった。

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