映画デート②
カップルシートは中々に刺激が強い。
家で並んで映画を見ている時より近い。
そのせいかダイレクトに美憂の柔らかさが伝わる。これを外で行っているという背徳感はなかなかに感情を揺さぶられる。
端的に言うと映画に集中できる気がしない。
そもそも3次元の恋愛映画は得意ではない。
好きだけどハズレを引いてしまうと寝てしまう。カップルシートは2種類あってソファー式とベッド式。今回はベッド式だ。
(デートで寝るのは不味いよなぁ…。)
そんな事を考えていると照明が降りて暗くなる。早速CMが流れ始めると美憂が俺の手をにぎにぎと握ってくる。ちょっとドキドキする。
全く集中できずにCMが終わると本編が始まった。チラリと美憂を見ると既に画面に集中しているようだった。
面白いかどうかに関わらず、今は映画に集中しようと俺も無心になるのだった。
映画の内容はよくある病気のヒロインとそれを支える主人公の話だった。
内容としては良くある話だが演技と脚本が素晴らしい。言葉の使い方が絶妙だし、飽きさせないネタも所々に仕込まれていた。
なにより途中で挟まれるギャグが世界観を崩さないように挟まれる。これは難しい事だ。
内容自体は重く暗いのに終始陰鬱にならないような工夫がされているのだ。
そしてクライマックスではしっかりと泣かせに来た。これ以上ない完成度。
率直に言えばかなりの名作だった。
シアターを出る際にチラリと達也を見るとやっぱり茜に起こされていた。
やっぱりかと美憂と苦笑いを浮かべながら外に出てパンフレットを買う。
名作のパンフレットは揃える主義だ。
見つかる前にさっさと移動してカフェで休憩をする。美憂の目が少し赤い。きっと俺も赤いだろうなと思った。
「想像の何倍も良かったです…。」
「そうだな。正直あまり悲恋は好きではないがこの作品は間違いなく名作だった。」
「不満があるとすればやはりヒロインが亡くなることですね…。でもそうしないと綺麗に終わらなかったかも知れませんし…。」
「そうだな。俺としてもそれは不満だが素晴らしいラストだった。確か原作があったよな?」
今回見た映画は小説原作だったはずだ。
「そうですね。読んだことはないですが…。」
「俺も無い。よし。せっかくだから小説も買おう。これほどの感動を貰ったお礼はしないとな。」
小説なら映画でカットされた部分も細かく入っているはずだ。裏設定や原作との違いをみることによりさらに魅力がわかることもある。
「そうですね!私も気になります!」
美憂はかなりの読書家だ。
たまの休みの日は俺と共に書斎にいてずっと本を読んでいることもあるくらいだ。きっと喜んでもらえるだろうと提案すると案の定、快諾してくれた。
「今日の晩御飯はどうしますか?」
映画の話題がひと段落しコーヒーを飲んでいると美優に聞かれる。
普通に外で食べるより美憂のご飯が食べたい。
だけど今日はせっかくのデートだ。料理するのも疲れるだろうし、外で食べるべきだろう。
「逆に美憂は何がいい?」
「そうですねぇ…。私は何でもいいんですが強いていうならピザが食べたいですね。作るのも大変ですし。」
確かに。家でピザを作るのは大変だろう。たまに作ってくれるがしっかり生地から作っていて大変そうだった。
美憂は俺が飽きないように毎日違うものを作ってくれる。たまには休んでほしい。
「じゃあお勧めがあるんだ。茜が前に教えてくれた本格イタリアンの店。ちょっと遠いけど車があるし移動しよう。」
さっとホームページを開くと19時半に予約が可能だったので予約をする。
「楽しみです♪」
美憂が微笑むのを見て俺も微笑んでしまった。
こうやって遠出をするのも久々だ。
俺は出来うる限り安全運転で進んでいく。
時間は18時。店まではあと5分ぐらいだからまだ余裕はある。
近くには夜景で有名な山がある。そこで少し時間を潰せば丁度いいかもしれない。
「夜景に興味はあるか?」
「あります!見たいです!」
運転に集中するために顔は見れないがどうやら喜んでくれてるみたいだ。
方向転換すると山を登っていく。
夜景で有名なだけあってしっかりと整備されているから心配することはない。
慣れていない俺でも問題なく山頂に着くことができた。
美憂をエスコートして展望台に進む。
数組のカップルがいるがこちらもカップルなのであまり気にならない。
美憂は展望台から夜景を見下ろす。
その目がキラキラと輝いているように見える。
言葉はないが感動してくれてるようだ。
ここは何度かあの2人のデートで付き添っているから俺は星を見る。輝く4つの星。秋の大四辺形だ。そして今日は満月らしく月が綺麗に輝いていた。
「月が綺麗だな。」
ぼそっと呟く。特に意味は込めなかった。
「ずっと一緒に月を見たいです。」
横から返ってくる言葉にあっと思う。
これは有名な返しだ。
気づいてから赤面する。
顔が熱い。意味を込めずに愛の告白をしてしまった。だがそれを口にする事は出来ない。
覆水盆に返らずという言葉がある。
美憂がそう受け取った以上、ここでそれを口にすれば返した方に恥をかかせることになる。
まぁいいか。俺達は婚約するんだし。間違いはないんだから。
そっと抱き寄せてもう一度月を見る。
見上げる月は綺麗に輝いていた。
ピザを食べて帰る車内。
美憂は終始ご機嫌だった。
意図せずに愛してると伝えてしまったからだろう。もう俺も覚悟を決めた。
そう。何でもないように伝えるんだ。
恋愛童貞故のドキドキで少し心臓が煩い。
だがあくまで平静を装う。
「美憂。来週指輪を見に行こう。」
敢えて運転中に伝えた。
「…っ…はい!」
顔は見れそうにない。
隣から鼻を啜る音が聞こえる。
嬉し泣きだと信じたい。
ヘタレなのは認める。
ロマンティックさも何もない。
間違いなく赤点だろう。
でも隠れて買いに行くより2人で選びたい。
1人じゃ選ばそうにないし。
チラリと横目で美憂をみるとこちらを優しく見つめている。流れる一筋の涙を今拭うことはできない。でも俺の気持ちは伝わっているはずだ。いや伝わっていて欲しい。
前を向いて運転に集中する。
この先何が起こるかはわからない。
だけどきっと楽しい日々を送る事ができると確信していた。
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