1人の少女の恋
私の愛は重い。
そんなことはわかっている。
それでも私は彼を失いたくない。
どんな形でも隣に居続けると決めている。
私は彼を愛しているから。
私の心の中には常に彼がいるから。
彼と初めて会ったのは幼稚園の時だ。
家が隣同士だった私達はすぐに打ち解けた。
整った顔、明るい笑顔、他人を思いやれる優しさ。そんな素敵な男の子と毎日一緒にいて好きにならないわけがない。
私は本が好きな内気な女の子だった。
活発な彼と息が合う事など本来ないだろう。
タイプが違うのだから疎遠になるのが普通。
だから先ずは自分を変えることにした。
明るく活発に生活するうちに自然と話す人も増えたが私は達也以外に興味などなかった。
苦手だった運動も必死に頑張った。毎日ランニングをして体づくりをしたりした。もって生まれた運動神経はわからないけれど毎日の努力は嘘をつかなかった。
足も早くなったし達也と一緒にサッカーやバスケをたくさんやったおかげかある程度のスポーツなら人並み以上に出来るようになった。
達也が勉強が苦手だったから勉強も頑張った。
彼に教えてあげられるだけの頭脳があれば、教えるという名目で一緒にいられるから。
そうして私は達也の隣をキープし続けた。
状況が変わったのは小学5年の時だ。
達也のお母さんの不倫が原因で父子家庭になったのだ。
達也は人を信じる事自体少なくなり、気付けばいつだって1人でいようとするようになった。
きっと一番身近な人間に裏切られた事が原因だろう。私に出来ることはなんだろうと考えたが小学生に出来ることなど高が知れている。
口数も減ったが私はそれでも達也の隣にいた。
私は彼の心を救うことは出来なかったけれど今まで通りに接する事は辞めなかった。
小学生の私に他に出来ることはなかった。
当然友達も減ったし陰口を叩かれることが増えた。でも私からすれば達也以外は有象無象なので気にならなかった。
そのまま中学になった。
達也は私にだけは笑顔を向けてくれるようになった。けれどこれでは依存だ。彼には同世代の男友達が必要だ。
そう考えても小学、中学の付き合いなど薄っぺらいものだ。傷を負った彼の心に寄り添えるような男の子などそうはいない。
そんな時に出会ったのが中学のタイミングで引っ越してきた宗司だった。
大人びた言動。落ち着いた雰囲気。理論的な発言。喋れば地頭の良さが垣間見られる。
後から聞けば小学生の頃からお金を稼いでいたのだから他の小学生とは一線を画しているのは当然だった。
彼はその後高校卒業までの6年間のテストで学年一位を取り続けた天才だった。
彼のせいで万年2位だった恨みは忘れていないけれどとりあえず私は彼に近づいた。
もちろん人となりを知るためだ。
運のいいことに彼は異性に興味がないらしく私と問題が起こることもなかった。
男女の友情は成り立たないと言う。
私は自分の容姿の良さを理解していたし、それをうまく使っていたから当然そういう話もあった。恋に発展し、それがうまくいかなければギクシャクする。だから友情は成り立たない。でも彼とはそうならなかった。
男女の友情が成立した瞬間だった。
私は考えた。秀才2人による生徒会活動は必ずウケる。先生からのウケもいいだろう。そしてその生徒会の副会長に達也を置く。
会計は唯一信頼のおける男である宗司だ。
達也は次第に宗司に心を開いて昔のような笑顔で学校生活を送ることが出来るようになった。
達也がイケメンだしさらに少し明るくなった事でモテるようになったのは誤算だった。でも彼が私以外の女性に心を開くことも靡くことも無かった。
高校卒業の日、私は遂に彼に告白した。
結果はダメだったが私は彼の横に居続けたかった。そんな時に私に手を貸してくれたのは宗司だった。
「お前とも長い付き合いだ。お前たちの仲を俺はずっと応援してやるから諦めるな。なんていうかお前達は俺の推しカップルだし、推しは推せる時に推すが俺の生きてく上での指針だからさ。間に俺がいれば気まずくないだろ?つまり狙うは粘り勝ちだ。」
粘りがちって…と私は笑ったけれど、基本淡白なこの残念なイケメンはきっと身内に凄く甘いんだと思った。
だったらこの人にそういう相手ができそうになった時はこの恩を返すために全力でサポートしようと誓った。
そして8年。私の初恋から数えれば約20年。
遂に恋は実り私は彼を捕まえた。
その夜に私は彼にメッセを送る。
「速報。長い初恋実る。」
「おめでとう。待ちに待った粘り勝ちだ。」
短い返信に私は笑う。
もっと気の利いたことを言いなさいよと思ったけれど異性の親友なんてこれくらい淡白な返信がちょうどいいのかと文面を見ながら微笑んだのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます