二組の夜②
「達也。私と付き合わない?」
最初にそう言われたのは8年前になる。
茜とは幼稚園からずっと一緒だ。
勿論一時期そういう気持ちはあった。
だがその頃の俺には恋とかいう物が全くわからなくなっていた。
理由は小学生の時に不倫でいなくなった実の母親だ。幸枝母さんは父の再婚相手。
実の母親ではない。
再婚したのは高校生の頃だから信頼関係もあるし、勿論今では本当の母親だと思っている。
だが俺には本当の愛とかいうものがすっかり信じられなくなっていた。
お互いが好きあって、結婚して、子供ができたとしても裏切られる可能性があるという事実を小学生の時点で知った俺からすれば、誰かを好きになっても付き合うなんて選択肢は無い。
「ごめん。お前のことは好きだ。だが付き合えない。」
「そう。じゃあ関係を進めるのはまだいいわ。だけど覚えておいて。私の気持ちは変わらない。何年、何十年でも告白するわ。だって幼稚園の時からの初恋だもの。」
初恋が叶わないなんて誰が言った言葉なんだろう。この幼馴染は諦める気がないらしい。
狂気すら感じる。だがきっとこれくらい重くないと俺は彼女の気持ちを信じられない。
だから付き合うのもありだと思いながらもこの関係を壊すのが怖くて踏み込まなかった。
そんな日々に転機をもたらしたのは美憂だ。
初めて会った時、彼女はこの世の終わりみたいな空気を出していた。
だがそれ以上に美しいと思った。
見た目だけなら宗司の理想の女性である美麗にそっくりだった。
俺の大事な親友は仕事人間。金では無く、情熱だけで動く仕事バカは会う度にやつれている。
だから俺は心配だった。
この行き場のない少女に宗司を引き合わせたのはあのバカの体調管理の為だ。
俺や茜にも仕事があるから毎日見に行く事はできない。アイツが倒れた時にすぐに気づく事が出来る丁度いい家政婦を探していた。
だけど普通の人材ではあの家に入れる事もできない。高価なものも沢山あるし。
元々が社長令嬢。そして今は一文無し。
この状況だと紹介できる人材では無い。
だが彼女の纏う無害な善人という雰囲気が俺の背を押した。
(それがまさかこんなことになるとはな…。)
どうやらバイトを何人も見てきた俺の目は真に人を見る目があったのだろう。
あの宗司がたったの半年で誰かを好きになったならそれは本当の愛があるという証明だろう。
(出会ってから20年。正式に告白されて8年。)
チラリと目の前で美味しそうにご飯を食べる女性を見る。
高すぎる顔面偏差値。
出るとこは出て引っ込むところは引っ込んでいる完璧なスタイル。
選ばなければより取りみどりなのにたった1人に執着するが故に1人でいる美女。
俺の前では一切取り繕う素振りすらない。
「茜。」
「何?」
口の端にソースがついている。
締まらないけどまぁいいかと苦笑いをする。
「俺たちも付き合うか。」
茜の目から一筋の涙が流れる。
ばっとテーブル下に茜が隠れる。
「や、やり直しを要求するわ!もうちょっとムードとか色々あるでしょ!?バカなの!?」
あぁ…実に俺ららしい。
「やり直しはしない。」
「なんでよ!?」
「婚約指輪を買いに行く時にするから。」
「婚姻届なら鞄にあるわ。」
「何でだよ!」
思わず突っ込む。ちょっと怖いわ。
「備えあれば憂いなしっていうでしょ!?達也と出かける時はいつだって持ち歩いてるわ。私は記入、捺印済だから。」
早まったかもしれん。
これはヤンデレの素養しかない。
「とりあえずそれは置いとくとして来年の同棲次第で考える。」
「0が1になった時点で私の勝ちは揺るがないわ。見てなさい!心も体も骨抜きにしてあげる!」
立ち上がってビシッと指を指す幼馴染に俺は苦笑いで返した。
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