ダブルデート②

VIPパスは入場口から一般とは違う。

並んでいる人を尻目に豪華なゲートからの入場だ。ちょっとした優越感があった。

「まずどれからいく?」

「美憂は絶叫はいける?やっぱり目玉はジェットコースターでしょ。」

ここは広いから色んなジェットコースターがある。俺たちは絶叫系が大好きだからまず美憂に声をかけたのだろう。

当然並んではいるが俺たちにはVIPパスがある。

これを見せれば最前列に案内してもらえる。

「私は多分大丈夫です。乗ったことはないですが宗司さんがいますから。」

美憂の言葉で行き先は決定した。

「本当に大丈夫か?」

一応彼氏として声をかける。

「わかりません。けど宗司さんが居るので大丈夫ですよ。手を繋いでてくれますよね?」

「勿論。」

俺は出来うる限り優しく微笑む。

少しでも安心して欲しかったからだ。

後ろでは親友2人がなにか騒いでいたが、俺は美憂の微笑みにドキドキして目を離せなかった。

俺達の番が来て一番前は親友2人に任せて二列目に座る。俺の方から美憂の手を握ると彼女も強く握り返してくる。

徐々に頂上へと向かうとその力も更に増して遂に頂上へ達した時急にスピードが上がる。

「キャーーーー!!!!」

美憂の叫び声が横から響く。

「うぉっ!」

普段聞いたことが無い声に俺も一瞬ビビる。

前からは楽しそうな2人の声。

アレ?もしかして美憂って絶叫系苦手かも?

俺の手を握る強さも強まっている。

ジェットコースターから降りた俺と美憂はベンチで休んでいた。2人は次のジェットコースターに向かわせた。2人も一緒にいると言ってくれたがせっかくだから乗り回してこいと俺が送り出した。

「すいません…。」

美憂はすっかりしょんぼりムードだ。

気の利いた言葉…気の利いた言葉…。

うん無理。もう思ってる言葉を言おう。

「得意、不得意は人それぞれだし気にしなくていい。因みに俺はお化け屋敷が苦手だ。だから入りたくない。でもここは国内でも1、2位を争う遊園地だし、乗れるものは他にもあるさ。それに何をするかじゃなくて誰といるかだから今こうしてる時間だって思い出の一つだ。」

「宗司さん…。」

「ん?」

美憂の方を見ると推しの整った顔が目の前にある。一瞬で顔が熱くなりドキドキしてしまう。

周りの喧騒が一瞬消えて世界に俺たち2人だけになったような感覚。

美憂の甘い香りにクラクラとする。

美憂が目を瞑る。俺はキスをしそうになり咄嗟に優しく美憂の頭を撫でた。

そして喧騒が戻ってくる。

やばいやばい。TPO、TPO。

「あっ…。私…ごめんなさい。」

「いやいやいや。俺もちょっと場所を忘れそうになった。」

流石にテンパる。頭が回っていない。

よし落ち着こう。深呼吸を…。

「宗司さん。」

「えっ?」

「やっぱり私は優しいあなたが好きです。」

そう言って微笑む美憂を俺は美しいと思った。


「ダブルデートだったのに結局別れちゃってごめんね?」

「いえ。私の方こそすいません。」

茜と美憂が仲良く並んでいるのは絵になる。

周りの男が振り向くくらいの美女2人だから当たり前だ。きっと俺たちが居なければナンパされているだろう。

「どうしたんだよ親友。」

「いや…絵になるなぁと。」

「まぁ確かに。あの2人は間違いなくトップレベルだ。俺たちは幸せ者だな。」

そんな事を言ってるこいつもチラチラと女性に見られている。一軍3人に二軍が1人か。俺だけ場違いだよなぁ。

「本当にどうしたよ。考え事?」

「いや顔面格差に絶望していた。顔を作ってくればよかった。」

「氷の騎士が何言ってんだか。」

氷の貴公子ってなんだ。痛すぎだろ。

「何だその背筋が凍るような痛い二つ名は。」

「え?知らないの?お前の二つ名だけど。」

「なん…だと!?」

知らんぞそんな二つ名!

「ほら。お前3次元に氷のように冷たかったから。茜が生徒会長で学園の姫、俺が副会長で姫の忠犬、お前が会計で氷の騎士って呼ばれてたんだぞ?正直姫の忠犬ってなんだよとは思ったけどお前よりはマシだと思って諦めた。」

「知らんかった…。」

「まぁお前は氷の冷たさで色々叩き切ってたからな。おまけに文武両道で常に学年トップ。喧嘩も強い。脅せば脅し返す。氷の魔王とも呼ばれていたな。」

なんてこった…。茜がストーカーされる度に確かにそんことをしていた。たまには自分でボコボコにもしていた。だがそんな恥ずかしい二つ名がついていたとは…。

それと仕事も合わさって時間がなかったから交友関係はこの親友2人のみだ。噂が届かなかったのも頷ける。

「忘れよう。全てを忘れよう。」

「そうだな。忠犬も忘れたい過去だ。」

あぁなるほど。ボディーガード筆頭格だからそんな名前をつけられたのか。

「あの時の茜は両手にイケメンだったから敵が多かった…。」

「両手に花はともかく両手にイケメンは草。」

「一時お前が彼女作ったけど、1ヶ月であっさり別れてまた茜の横に戻っただろ?あの時も色々やばかった。女子の妬みで溢れてた。しかもお前の女子への態度が氷点下を超えていたし、ゴミを見るような目で見てただろ?」

「ゴミに謝れ。汚物だった。」

「言い過ぎだろ。そんなお前が笑うのは俺達といる時だけだったなぁ。それがあんな可愛い彼女ができて…感慨深いよ。」

「人のことより自分の事だろ?」

「そう…だな。」

チラリと達也の顔を見るとその目は真っ直ぐに茜を見つめていた。


VIPパスはパレードも最前列、しかも座り心地のいい椅子で見ることができる。

当然俺たちも最前列で鑑賞していた。

並び順は達也、茜、美憂、俺。

女性陣を間に挟んで完全ガードだ。

心置きなくパレードを楽しめる。

隣にいる美憂はとても楽しそうだ。

この笑顔を見ているだけで課金した甲斐がある。課金した時点でアド確定という安定感。

やはり金とはこう使うものだ。

思わず頬も緩んでしまうというものだ。

「初めてのパレードがこんな至近距離の大迫力なんて私は幸せ者です!」

パレードが終わり、美憂は楽しそうに笑う。

「確かにアレはやばいわ。パレードなんて遠目から楽しむものなのに、あんなに近くで見れるなんてね。」

「確かに!俺も興奮した!宗司もだろ!?」

確かに今までの人生でこんなに遊園地が楽しいと思ったのも初めてだし、パレードを集中したのも初だ。

「あぁ。金をかけた価値があるな。また何かの記念にでもいいかもな。」

「記念…あの!」

美憂の声に視線が集まる。

「どうした?」

「今日の記念にお揃いのものが欲しいです!」

お揃いのものか。良いかもな。

「いいわね。今日は初のダブルデートだし。」

「そうだな。俺もいいと思う。宗司は?」

「勿論課金させてもらおう。」

『言い方!』

全員の声が揃い俺は思わず笑ってしまった。


「こんなに色々あると迷っちゃいますね!」

はい、可愛い。推しの笑顔はいいね。このスチルには価値があるよ。

「4人となると無難にマグカップかしら。」

「なるほど。この4人で宗司さんの家に集まることも多いし有りかもしれません!」

女子2人がキャッキャする中、俺は一つのシュシュに目が止まった。うん。これは美憂の長くて綺麗な髪にきっと似合う。

「達也。2人を頼む。俺はこれを買ってくる。」

「あいよ。」

達也に任せて一度レジに向かうと俺はシュシュを買った。ラッピングをしてもらい足早に戻ると美憂がパタパタと近づいてきた。

「何を買ったんですか?」

「ん?あぁ。ちゃんと後で渡すよ。それより決まったか?」

「私のなんですか?嬉しいです!あっ、宗司さんの意見も聞きたくて!」

美憂に手を引かれて連れて行かれた先では親友2人が真剣にマグカップを見ていた。

「どうだ?」

「甲乙付け難いわ…。」

「あぁ。正直選べん…。」

チラリと見るとペアマグカップコーナーには結構種類があるようだった。

その中の一つに目が止まる。

どうやら名前を刻印できるらしい。

柄もシンプルだがメインとなるキャラクターが持ち手にあしらわれている。これなら間違える心配もないし良さそうだ。

「これでいいんじゃないか?」

「やはり宗司…1番の実用性を取ったわね。」

「でも美憂さんもこれを選んだしアリかも。」

「そうなのか?」

俺が美憂の方を見ると少し頬を赤らめて頷いた。うん可愛い。

「じゃあこれで。」

「うん。異論はないわ。」

「俺も。」

俺は美憂の手を優しく引いてレジに向かう。

「類は友を呼ぶ…ね。」

「あぁ。そうだな。」

親友2人の言葉は隣にいる美憂に気を取られて聞こえなかった。

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