ダブルデート①

『同棲!?』

親友と言える2人の声がリビングに響く。

今日はダブルデートをしようと一度俺の家に集合していた。

一泊のプチ旅行も兼ねてるので集合は朝の5時だ。始発の飛行機に乗って移動予定である。

「あぁ。実は俺たちは来年一年間、都内に出向になった。猫も当然連れて行く。そうなるとこの家は誰もいなくなる。正直少し心配だからこの家をお前達2人に任せたい。無理にとは言わない。だがお前たち2人は実家暮らしだろ?最悪交互でもいい。一人暮らしの経験値稼ぎとでも思ってくれていいからさ。」

達也は少し迷っている顔をしている。

茜が俺の目を真っ直ぐに見る。

「私はここに住まわせてもらうわ。実は一人暮らしの計画は前からしてたの。でも2人は知ってると思うけど私はこの見た目だし今までストーカーされたこともある。だから二の足を踏んでいた。宗司の家ならセキュリティも万全だから安心できる。有り難く使わせてもらうわ。でも同棲をするかは達也に任せる。私は達也に惚れてる側だから強制できないもの。」

俺がチラリと達也を見るとどうやら決意が決まった顔をしていた。

「俺も住むよ。男除けにもなるしな。その間、仕事は午前で固定する。茜は1人で帰るなよ?俺が迎えにいくから。」

茜は一瞬目を見開いた後、笑顔になる。

「達也!」

茜が達也に抱きつく。

達也は困ったように頭をかいた。

その時パタパタと足音が聞こえてガチャリと扉が開いた。

「すいません!遅くなりました!」

振り返ると白いワンピースが目を引いた。

頭の上にはましろがちょこんと乗っている。

「うん。今日も可愛いよ。」

俺の言葉に美憂がはにかむ。

付き合ってから思ったことは素直に口に出すようにしている。

女性経験が皆無な俺には駆け引きとか無理だ。

元々言葉が少ないと言われているしそれで美憂とすれ違う事は嫌だったけらど。

ましろがにゃあと鳴いた。

やればできるじゃんと言われた気分だ。

俺はましろに苦笑いを浮かべる。

「洗濯ありがとう。帰ったら畳むのは手伝うから言ってくれ。」

「はい!」

うん。今日も推しが可愛い。

俺が親友2人の方に目を向けるとジト目でこちらを見ていた。

「あんた達…結婚したら?」

「まさかあの宗司がな…。男子三日会わざれば刮目して見よ…か。恋は人を変えるんだな。」

「おいこら。喧嘩売ってんのか?買うぞ?」

『やめとく。勝てないし。』

息ぴったりじゃねぇか…。

お前らが結婚しろよ。

「まぁまぁ。今日はダブルデートの日なんですから仲良くしましょう?私すごい楽しみだったんです!楽しみすぎて早起きしちゃったんですから!」

そう言うと美憂は満面の笑顔で俺を見る。

眩しすぎて直視できん。

これが推しの存在感とオーラ!

自然と頬が緩んでしまう。

俺たちは初のダブルデートに出発した。


「仲のいい友達と恋人と旅行なんてなんだかドキドキします!」

美憂はずっとテンションが高い。

荷物は既に宿泊先に送っているので俺たちは身軽だ。なんだかんだ俺もこの旅行を楽しみにしていた。気合を入れすぎて金を注ぎ込みすぎたくらいだ。

「今まで三人で出かけることはあったけど旅行は初めてね。」

「つかこれファーストクラスだよな?初めて乗るから落ち着かないぞ…。」

「そう?早起きしたし乗り心地最高だから私は寝そうだわ。」

そう言って茜が達也の肩に頭を置いた。

「いや普通に恥ずいわ…。」

とやっている2人を今日も茜は攻めてるなぁと見ていると袖がくいくいと引かれる。

俺が美憂の方に体を寄せると美憂の頭が俺の肩に乗る。あぁこれは確かに恥ずいなぁと思いながら俺は約1時間のフライトをゆっくりと楽しんだ。


飛行機を降りてタクシーに乗り、あっという間に遊園地につく。

「チケットはあちらでしょうか。私こういうところに初めて来たので…。」

「じゃあ逸れないように手を繋がないとな。」

キョロキョロしている美憂の手を握る。

美憂の頬が少し赤く染まって、嬉しそうに微笑むとえいっと俺の腕に抱きついてくる。

う、課金したい。

「あっ、良いわねそれ。」

茜がそう言い達也に手を差し出す。

「おま…仕方ねぇなぁ…。」

何だかんだ茜の望みを叶える達也は優しいやつだと思う。

「今日はちゃんと事前にネットでチケットを買っといた。」

「あら。宗司にしては気がきくじゃない。」

「そうだな。」

「おい。喧嘩売ってんのか。」

「まぁまぁ。あっよく見るとこれVIPパスって書いてますね。」

美憂の言葉に2人がギョッとする。

「お前…ホテルもここを取ってたよな?」

「そしてVIPパス!?アンタこの旅行にいくら突っ込んでんのよ!?」

100万は軽く超えたとは流石に言えない。

「いいだろ。俺の金なんてコスプレとトレーディングカードくらいにしか使われないんだ。それに並んでる時間も楽しいかな?とは一瞬考えたけどやっぱりスムーズに楽しみたいし。それにさ…彼女とお前ら2人と遊びに行くと思ったらなんか買っちまってたんだ。」

俺は指折り数える美憂を一月前から見ていた。

初めて何かをしてあげたいと思える女性が楽しみにしていたらそれは課金するしかないだろ。

それに2人にも日頃の感謝がある。

そんな事を考えていた俺を見て二人は突然笑い出した。

「なんだよ。」

思わずムッとする。

「何ってアンタ…!あははは。」

「いや参った!10年以上一緒にいてそんな表情のお前を見た事ねぇから!あははは!」

何のことかわからず困惑すると美憂がとても幸せそうな表情をしながら俺を見ている事に気づいてドキッとした。

あっ、そうか。いつもは茜のサポートの事ばかり考えていたけど今は美憂がいる。

きっと俺の表情も緩んでいるのだろう。

「参ったな…。」

「どうしたんですか?」

「いや。ありがとう美憂。どうやら俺は今幸せを感じてるらしい。それはそれとしてあそこで笑ってる二人は殴りたいけど。」

俺がそう言うと美憂は腕に顔を擦り付けてくる。

「お礼を言うのは私の方です。私も今とても幸せです!でも暴力はめっ!ですよ?」

俺は出来るだけ優しく美憂を撫でる。

『早く結婚しろ!』

親友2人の声が重なる。

「五月蝿い!いいから入るぞ!パレードの前に沢山アトラクションを回るんだからな!?」

「楽しみです!」

「そうね!遊び尽くすわよ!全部乗りましょう!」

「全部は無理だろ!」

俺達は仲良く4人で入場する。

今日1日を最高の思い出にしたいと思った。

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