メイド日記⑦

初めてのキャンプは新しい体験が沢山ありました。

初めての釣りはテンションが上がりました。

小さい魚は逃したりなど色々なルールがあるようでした。私達は猫ちゃんにあげる分だけ持ち帰り、必要最低限以外はリリースしました。

宗司さんは私に丁寧に教えてくれました。

大抵のことで失敗する私がこんなに楽しめたのは宗司さんの指導の賜物でした。

宗司さんは家事が壊滅的と言っていましたが、私はそれ以外は壊滅的です。そう考えれば私達は相性がいいと言えるはずです。

その後、耳元で頼りにしてると言われました。

アレはキュンキュンしました。

宗司さんはずるいです。

ちょっと思わせぶりがすぎます。

バーベキューでは初めてのお酒を飲みました。

ふわふわして、ドキドキして、不思議な感じがしました。

肉を宗司さんのお皿に置くと何故か呼ばれて初めてのアーンをしてくれました。

宗司さんは本当に思いやりのある方です。

私は家政婦として雇われているので主人のご飯を優先するのが当たり前なのに宗司さんはいつも対等に気遣ってくれます。

今までの人生で一番美味しいと思えるお肉でした。

食事が終わった後、私は宗司さんを誘ってハイキングに行きました。

お酒のせいかちょっとふわふわしていて危ない場面もありましたが、宗司さんがいるという安心感のおかげで登り切れました。

目的は夕陽です。

小学生の頃に家族とハイキングをして見た夕陽をまた見たいという気持ちでした。

時刻は16時頃。ちょうど夕陽が出始めていました。綺麗でした。それと同時に蘇る思い出に私は少し寂しさを感じました。

その時の両親はまだ余裕がありました。

家族仲が一番良かった頃と言えます。

あの日の思い出は家族の思い出として私の中でキラキラと輝いています。

だけど私達にやり直すチャンスは2度と訪れません。だから次は大切な人と夕陽を見たかった。

「どうした?」

大好きな人の顔を見て安心すると共に、お酒のせいか少し回らない頭で過去の話を少ししてしまいました。

話してからしまったと思いました。

これでは優しい彼が同情してしまうと後悔しました。そんな理由で選ばれても全然嬉しくありません。

こうなってしまっては自分の思いを全て伝えるしかないと一気に話しました。

「帰る場所はある。俺はもう君の料理無しでは満足できない体になってしまった。」

宗司さんにそう言われた時の私の嬉しさはきっと誰にもわからないと思います。

私はなんの才能もなく、政略結婚しか利用価値のない令嬢です。

そんな私を必要としてくれる人の言葉は私の心をわしづかみにしました。

彼の言葉は聞きようによってはキープしたいと聞こえるかもしれません。

でも女性に何の期待も抱かない彼が誠心誠意考えて伝えてきた言葉は、私にとっては愛の告白にしか聞こえませんでした。

私の初めてのキスはレモンの味ではありませんでした。

お酒とほのかに香るタバコのにおい。

それが恋愛慣れしていない感じがして、彼らしくて、何故だか嬉しくて…私は何度もおねだりをしました。

私は今とても幸せです。

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