旅行と旅館
キャンピングカーの点検をしっかりと行い冷蔵庫にジュースを入れる。
キャンプ道具の確認もバッチリだ。
と言ってもバーベキューの動画だけだ。
夜はキャンピングカーで寝るからテントは要らない。
一応川が近くにあるので釣りの道具も乗せておいた。せっかくのキャンプだし外でできることはやりたい。
「肉とかは明日買うんですか?」
横に旅行鞄を置きながら美憂が聞いてくる。
「あぁ。冷蔵庫もあるしソーラーパネルだから常時ONにはできる。だから悪くはならないとは思うけどどうせならやっぱり新鮮なものを食べたいだろ?」
「まぁそうですね。了解です。では猫ちゃんたちを連れてきますね。」
「あぁ。俺も行くよ。」
立ち上がり美憂の横を歩く。
まぁ足りないものは買えばいいし準備はこれくらいでいいだろう。
ウチの猫たちはキャンピングカーに慣れているから問題もない。唯一問題があるとすればましろが初めてという事だが美憂がいるから問題もないだろう。
ましろは最初は車にびびっていたが今は美憂の膝の上で丸くなっている。
美憂はそんなましろを優しく撫でている。
他の猫たちは慣れてるのでキングベッドで伸び伸びしているようだ。
「運転していただいてすいません。結構距離もありますし大変ですよね。」
「大丈夫だよ。高速ならそんなに周りの車も気にならないしさ。それより途中途中でパーキングよっていいかな?旅の醍醐味だし。あっ猫は大丈夫。クーラーも常時オンに出来るしベッドルームに網で壁も作れるからさ。」
「このキャンピングカーが優秀すぎてびっくりです。私は個人的な旅行自体初めてなので醍醐味をたくさん教えて欲しいです。」
「そうか。俺も君と色んなことがしたい。こっちからも提案するけどやりたいことがあったらどんどん言ってくれると嬉しい。俺も誰かと2人で旅行は初めてだからさ。」
お一人様の時は誰かの事など考えなかった。
でも今はこんな俺を好きと言ってくれる子が何を求めているのかを知りたいと思った。
「貴方のそういう寄り添ってくれるところも好きです。」
「そ、そうか。」
照れ臭くて美憂の方を見れない。
きっと微笑んでいることは見なくてもわかる。
最近は俺のどういうところが好きかをはっきり口に出してくれるから正直照れる。
俺は安全運転、安全運転と唱えながら平常心を保つのだった。
「ようこそいらっしゃいました。お部屋にご案内致します。」
そう言いながら荷物のほかに猫一匹につき、スタッフ1人対応という丁寧さに驚きながら俺たちは部屋に案内される。
部屋は1部屋1部屋独立しており、猫の鳴き声が気にならないような作りになっている。
部屋は畳とフローリングの部屋で分かれていてとても広くのんびり出来そうだ。
猫用のキャットタワーがいくつもあるし、最新のおもちゃもあった。
猫がOKとのことで流石に毛が落ちてるもんだと思ったが隅々まで丁寧にされている。
「畳に爪研ぎされた場合でも特に問題はありません。お気になさらずにご寛ぎください。大浴場には渡り廊下から本館まで来ていただきスタッフにお声がけください。ご飯は1時間前までにご連絡いただければ21時までは対応可能です。それでは失礼致します。」
「ご丁寧にありがとうございます。」
美憂が微笑むと中居さんも微笑んで下がっていった。
俺たちは猫用ペットキャリーから猫達を解放するとそれぞれキョロキョロしながら歩き出した。ましろは美憂の足元から離れないので美憂は自分の頭にましろをのせた。
トラは畳に座布団を重ねてそっと下ろすとにゃあと小さく鳴いた。
「それにしても驚いた。こんなに素敵な旅館があったんだな。」
「猫、旅館で調べるとトップに出てきましたよ?」
美憂がくすっと笑う。
「いやそも猫連れて旅館にこようという発想が出ない俺には発見できない場所だった。」
「ここのオーナーがお勧めしている猫と花火が見れるホテルもあるようですよ?」
「じゃあ来年は俺がそこを予約するよ。」
きっと来年も一緒にいるだろうし、一緒に行くなら来年は俺が出すべきだろう。
そんなことを思いながら美憂の方を向くと一筋の涙が頬を伝っていた。俺はぎょっとする。
「どうした!?あっ、そうか。すまん。調子乗った!突然一年後の話なんてするのはおかしいよな。」
美憂が首を振るとましろがジャンプする。
あっと美憂が両手でキャッチした。ほっと息を吐いた後、涙を拭いて俺に微笑む。
「違うんです。嬉しかったんです。これは嬉し涙です。来年の約束をしてくれたことが嬉しくて気づいたら少し泣いちゃいました。でもお金は私に出させてください。元々貴方から頂いたお金だし、それが一番いい使い方だと思います。」
そう言って微笑む美憂はとても美しかった。
「そ、そうか。猫達も落ち着いたし、これは湯治だから風呂にでも行くか?」
俺はしどろもどろになりながら話を変える。
「はい♪」
と頷く美憂に俺は参ったなと頭をかいた。
大浴場は人が沢山いたがとても広いのであまり気にならなかった。
疲労回復の効能があるというのも頷けるほどリラックスできた。
サウナと水風呂で整った体に満足しながらロビーに出るとちょうど美憂も女湯の方から歩いてきた。
風呂上がりの彼女がパタパタと近づいてくる。
「あ、あの。腕を組んでもいいですか?女湯で凄いイケメンがいたって盛り上がってる女子のグループがいて…宗司さんは私のだから…。」
うん。美憂さんや。そのすごいイケメンというのは間違いなく俺ではない。確実に他の人だ。だけどまぁ美憂のような美人にそんなこと言われたら許すしかない。
俺が腕のところに隙間を作ると美憂は抱きついてくる。いい匂いに少し性欲を刺激されたが無心になって美憂と歩いた。
部屋に戻り、俺は猫たちと畳でゴロゴロしていた。目線をフローリングの部屋に向けるとましろが美憂に遊んでもらっていた。
やっぱり子猫は元気いっぱいである。
周りの猫たちはそんな2人を見ても今日もやってんなぁ〜くらいの反応でスルーしている。
俺が遊びに誘うとやれやれと反応するが俺もゴロゴロしてたいしやっぱり飼い主に似るのかもしれない。
コンコンとノックの音がしてガバッと起き上がる。どうやら頼んでいた飯が来たらしい。
美憂がましろを頭の上に乗せるとはぁいとパタパタと向かった。
ましろを頭に乗せているのは見慣れた光景だが本当に器用に乗っている。
大きくなったら見れなくなるしと俺はこの前写真を撮らせてもらった。その写真が本当に可愛いので今は待ち受けにしている。
「宗司さ〜ん。」
おっと、呼ばれてしまったかと腰を上げて俺も移動した。
ご飯はすき焼き、お刺身などとても豪華だった。当然美味しかったんだけど美憂のご飯が食べたいと思ってしまったのは相当末期だろう。
「あ、あの!」
ご飯を食べ終わりのんびりしていたところに美憂が声をかけてきた。
「どうした?」
振り返る。
「一緒にお風呂に入りましぇんきゃ?」
耳まで真っ赤にしながら噛み噛みになった美憂がそこにいた。
可愛いと思うと同時に頭が真っ白になる。
「いや、だが…。」
「ダメでしゅか…。」
噛みながらしょぼんとされてしまうと流石に断れない。彼女は俺のことが好きで相当の覚悟で声をかけてくれたのだ。ここで断ることは何かを失うのと同義だった。
「わかった。俺も覚悟は決めた。だがどうする?俺は水着なんて持ってないんだが…。」
「やった♪水着はあります!」
美憂はパタパタと走っていき荷物をゴソゴソとすると俺の分の水着を持ってきた。
「なるほど。なら行くか。先に俺から体を洗って水着を着たら呼ぶよ。」
「はい♪」
嬉しそうに笑う美憂に策士だなぁと苦笑いを浮かべながら俺は風呂へ向かった。
「私は見ていただいてもいいんですが強要は出来ませんので目を瞑るか後ろを向いていてください。」
美憂は扉の前からそんな事を言ってきたので俺は後ろを向く。俺にだって性欲はある。童貞だしもっぱらおかずは同人誌だけど!だけど裸の美憂を見てしまったら歯止めは聞かない自信しかない。だって童貞だから!
「こっち向いてもらっていいですよ?」
振り向くと白いセパレートの水着を着た美憂がいた。可愛い…。解釈一致だ。
「綺麗だ。」
真っ直ぐに伝える。
ここで伝えないなんて男の風上にも置けない。
「有難うござゃいましゅ。」
また噛んだ。
どうやら策士は緊張してるらしい。
美憂はゆっくりこちらに近づいてくる。
俺が腕を広がるとストンと座った。
あっしまった背中合わせの方が緊張しなくて済んだのに…と思っても後の祭りである。
腕に乗る胸の柔らかさにゾクゾクする。
着痩せするタイプで御座ったか…。
服の上からでは伝わらない柔らかさと匂いで既に息子が元気になっていた。
「スッキリさせますか?」
気づいたのか美憂が小悪魔な事を言うが俺は首を振る。
「付き合うまではしない。そこまで最低な男にはなりたくない。」
「ごめんなさい。私の我が儘で苦しい思いをさせて。でもこういう事をしたいと思う程、私は貴方のことが好きなんです。あっ勘違いしないでくださいね?私は処女ですし、こんなことをしたのは貴方だけです。」
「しょ…!そ、そうか。ありがとう。でももう少し待ってほしい。」
「はい。でも8年以内にお願いします。」
「どうして8年?」
「履歴書にも書きましたけど私は21歳です。30歳までには結婚したいので。」
振り向きながら苦笑いする美憂の頭を俺はそっと撫でる。美憂は気持ち良さそうに目を細めた。
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