推しと買い物⑤
手荷物を車に入れてまた2人で歩き出す。
次の目的地は靴屋だ。
「なにか欲しいものはあるか?」
「そうですね…。キャンプ用のシューズでオススメなのはありますか?」
「あるぞ。さっそく見に行こう。」
どうやら彼女は本気で俺とキャンプに行ってくれるらしい。それだけで嬉しくなる。
「えっ…結構高いですね。」
値段を確認しての彼女の第一声はちょっと引き気味だった。ここは俺も愛用しているちゃんとしたブランド店だから仕方ない。
「雨や湿気にも強いし、普通の靴よりも防御性もある分、少し値ははるが中途半端なものを買うよりも一点ものだ。靴はすぐに買い替えるものでもないしな。」
「ですが…。」
「俺と一緒にキャンプに行ってくれるんじゃなかったか?」
ちょっと卑怯な言い方をしている自覚はある。だがこうでも言わないと首を縦には振ってくれそうにない。
「給料から天引きで…。」
「ダメだ。これは俺のためでもあるから。」
俺の言葉に彼女は少し嬉しそうに微笑んだ。
続いて行ったのは普通の靴が売っているチェーン店だ。彼女はスニーカーを真剣に眺めている。正直女性物の靴はよくわからない。
だからサンダル、スニーカー、パンプスと一通り選んでくれとは言った。
本当はブランド物を購入してもいいとは思うんだが、何でもかんでも高いものを選ばせる必要はないと調理器具の一件で教えてもらったので自由に選んでもらっている。
横に立って履いたり脱いだりしながら難しい顔で悩んでいた彼女はシューズ、パンプス、サンダル共に歩きやすさ重視に決めたようだった。
スニーカーは黒。黒は何にでも合わせやすい色だから一つ選ぶなら無難だろう。
パンプスはベージュ。スニーカーを黒にしたからこちらはベージュにしたのだろうか。こちらも服に合わせやすい色だ。ワンポイントがついているものもとてもオシャレだ。
サンダルは白。こちらも無難な色選択だが派手すぎないオシャレな感じがとてもいいと思った。
「やっぱりセンスがいいなぁ。」
「ありがとうございます。」
推しがはにかむ。どんな表情も推せる。
「次は鞄だな。どんなのが欲しい?」
「そうですね…。そこそこおしゃれに見えればそこまでこだわりはありません。」
そう言われて少し考える。
たしか数少ない俺の女友達が女性物のブランドショップで働いてたなと思いついた。
「ブランド物でいいか?同級生が働いているんだ。」
「高いのは要らないですよ?」
「君ならそう言うと思ったけどね。数少ない女性の友人だからついでに君を紹介しておきたいんだ。今後も会うことがあるだろう。」
「女性の友達…。」
「ダメか?」
「いえ。お願いします。」
手を握る力が強まる。緊張しているのだろうか?でも、アイツとは達也繋がり会うことも多いし仲良くしてもらえないと困るなぁと思った。
「いらっしゃい…って宗司か。冷やかしなら帰って…って宗司が美人を侍らせてる!?」
この騒がしい美人は新道茜(しんどうあかね)という俺と達也の高校からの同級生だ。
何を隠そう空振り三振を数年続けても諦めないくらい達也に恋をしている。
「侍らせてる言うな。」
「は?なに手なんて繋いでんのよ。私より先に意中の異性を落とすとか裏切り以外の何物でもないんだけど?」
裏切りの意味はわからんが俺はコイツが達也とうまくいくように協力している。
俺に対してはちょっと口が悪いが、男友達のように接することができる女性が皆無な俺にはこの口汚さが心地よかった。
「落としてねぇよ。これは迷子にならないように…って話が進まねぇよ。この子は昨日から雇う事になった神宮美憂さんだ。」
「神宮美憂です。よろしくお願いします。」
「私は新道茜。茜でいいわ。よろしくね。ところで美憂ちゃん。ちょっとこっちに。アンタは正座してなさい。」
茜が美憂の手を取り奥にいってしまう。
店中で正座とか無理だろと思いながら10分くらい経つと2人は手を握って戻ってきた。
なんか笑顔で話してる。
「打ち解けたわ!じゃあ美優ちゃん。あの扉の中に入って。VIPルームだから外から見えないしナンパの心配もない。すぐ戻るから。私はコイツと話してから行くからちょっと待っててもらっていいかな?」
「わかりました。待ってますね。」
そう言うと美憂さんは扉に入って行った。
「アンタ、彼女のことどう思ってるの?」
「えっ…推し?」
「はぁ…。」
なんかため息を吐かれた。失礼すぎんか?
「まぁいいわ。とりあえずアンタはこれからあの子にお金を使いなさい。」
「うーん。推しに課金するのは吝かではないけどあんまりブランドとか興味なさそうなんよなぁ。」
「だから黙って買ってプレゼントよ。いい?あの子は今でも可愛いけど磨けば更に光るわ。服はまぁ一緒に買いに行きなさい。でも鞄ならここに買いに来てもらえればおすすめは出来るわ。分かった?」
成程…隠れてプレゼントか。あの子は買って渡せば拒否らないだろう。
「輝く推しをもっと見たくない?」
俺が黙っているととどめの一言を言われる。
「めっちゃ見たい!!」
「よし。じゃあ今日は取り敢えずいくつか取るわ。予算は?」
「10万以下で。あんまり高いと向こうが気にする。」
「OK。荷物はどんな物を持つ想定?」
「携帯、財布、手持ち分の化粧くらいは持つんじゃないか?」
「成程ね。じゃあ小さめのショルダーでもいいか。ちょっといくつか持ってくるわ。アンタはVIPルームに行ってなさい。」
茜はそういうと動き出す。あとはプロに任せるかと俺はVIPルームに向かうのだった。
「お待たせ。」
扉を開けると美優さんの顔がぱっと明るくなり、自分の横をポンポンと叩く。
隣に座れってことかと思い隣に座る。
「茜さんはどうしたんですか?」
「いくつか見繕ってくるってさ。」
「なんだか申し訳ないですね。」
「一応太客になる可能性があるからじゃないか?ほら俺この辺だと有名なんだよ。あの馬鹿でかい家に住んでるからっていうのもあるけれど。今日はそこまでじゃないけど、いつでかい額使ってもおかしくないってんで茜は判断したんだと思う。」
「成程。」
そんなことを話しているとガチャリとドアが開く。
「待たせたわね。」
茜がトレーの上に置いているのは白、黒、赤、ベージュのショルダー鞄だった。
「素敵なショルダーですね。」
「そうでしょ?お勧めは新作の白ね。素材は牛革とレザー。携帯、財布、化粧品くらいは余裕で入るわ。ゴテゴテしてないしプレートだけでブランドを強調しているからいやらしい感じもなし。白ならとりあえずある程度のコーディネートに対応できるのもおすすめポイントね。値段もブランドの中では手頃の7万円。どうかしら?」
「7万円…。」
鞄を手に取り美優さんは中を確認する。商品自体は問題なさそうだが、美憂さんはやはり値段を加味して少し悩んでいるようだ。
茜がちらりとこちらをみる。わかってるって。
「すごく似合うと思う。俺はこれを持って歩く美優さんが見たい。」
「宗司さん…。わかりました。これでお願いします。」
「分かったわ。白でいいのね?」
「はい。これがいいです。」
俺は茜にカード払いでと伝える。
なんでも買える魔法の黒いカードだ。
「また頼む。」
帰り際に茜にそう言うと美優さんはちょっとびっくりしたように目を見開く。
茜はちょっと笑ってまた来なさいと言ってくれた。
「あとは財布か。」
「いや…もうお腹いっぱいなんですが…。」
「ダメか?」
「いえ。ありがたいので…。一つわがままを言ってもいいですか?」
「なんでも言ってくれ。」
「お揃いが欲しいな…なんて。ダメですか?」
可愛い!推しの頼みは断れない!
「勿論だ。上に店があるから行こう。」
俺は美優さんの手を引いてブランドショップに足を運んだ。
「ここが俺が財布を買ってるところだ。」
ここは本革を使用している高級財布のお店だ。値段は高くても10万くらいで使いやすい。
俺は財布は本革にこだわっている。
何しろ使い続けていると少しずつ変わってくるのもいい。
俺たちが店内に入ると顔見知りの店員が話しかけてきた。
「いらっしゃいませ。宗司様。お久しぶりですね。おや?貴方が女性を連れているのは珍しいですね。」
「あぁ。俺の財布と同じもので彼女に合いそうなお揃いのものが欲しい。」
店員さんは美優さんを見て微笑む。
「畏まりました。ご用意しますのでVIPルームはどうぞ。」
さぁ行こうかと美優さんに声をかけるとちょっと頬を赤らめながら頷いた。
「宗司様は黒一択ですが同型財布のレディースでの色違いは白、赤、ベージュになります。汚れが気になる場合は赤、ベージュがオススメですね。勿論黒もあります。当店の財布はワンポイントがあしらわれているだけなのでそこまで気にならないかと思いますがどうですか?」
美優さんは暫く手に取り悩んでいる。
わかる。俺も財布を選ぶ時はめっちゃ悩む。何せ本革の財布は一回買ったら最低5年は使うからだ。
小一時間悩んだ美憂さんは結局黒の財布に決めた。黒にした理由はやはりお揃いがいいと思ったからだとはにかみながら話してくれた。
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