推しと買い物④

二週間ぶりの運転の為に車庫に来る。

車は2台。キャンピングカーと高級車だ。

キャンピングカーは意外と使い込んでいる。

1人キャンプが趣味だから仕事が忙しくなければ週一くらいで乗っている。

だが高級車の方は一目惚れで買ったのに自分では全く乗っていない。

放置すると良くないと聞いたので達也に定期的に乗っては貰ってるがちょっと緊張する。

流石に商業施設でキャンピングカーで行くのはキャンプの前くらいだろう。

美憂さんはキャンピングカーを見てテンションを上げていた。今度一緒にキャンプに行きませんか?と聞かれた時には少しときめいた。

このキャンピングカーは至高の一台を目指してカスタムしまくった。

キングベッド、トイレ、風呂まで完備。いつもは猫と一緒に行くから猫用の物も結構載せてる。

盛れるものは全部盛りでこの中でも暮らせるくらいだ。

システムキッチンは材料を切るくらいにしか使っていないから普通に綺麗だし、家電もある程度載せている。コンセントも大量。wifi完備で仕事も出来る。

問題があるとすれば彼女でもない女性と行くことを全く想定してない事くらい。

いや違うな。1人で行くことしか想定してないからベッドがキングベットしかない。

だって自分しか乗らないのにゲスト用ベッドとか要らなくね?というのがあの時の俺の結論だった。

まぁまだ美優さんの冗談の可能性もあるし、それは本当に行く事になったら考えようと思う。

とりあえずはこの高級車だ。

俺は車の運転は1人でしかしないから助手席に美憂さんがいるだけで滅茶苦茶緊張する。

深く息を吐き、めちゃくちゃゆっくりと発進した。


車を無事に駐車場に停めた後、色々どう言おうか悩んだがもうストレートに言おうと決めて車から降りる前に口を開く。

「美憂さん。達也から少しだけ聞いたんだけど普段使いの服と下着の手持ちがあまりないと聞いたんだ。だからプレゼントさせて欲しい。ほら、昨日は君のおかげで仕事も上手くいったからさ。出来高払いと思ってもらえると。勿論店内まではついていかない。会計の時だけ呼んでくれればいいから。」

出来高払い。これなら優しい彼女に負い目を感じさせずに済むのでは?と思った。

「えぇ!?達也さんってば…。でも出来高払い…。あの…宗司さんが一緒に選んでくれるなら受け取ります。」

「そっ、そうか。でも流石に俺が選ぶのはまずいかと…。」

「いえ。一緒に行動する方の意見を聞きたいので。下着の方は宗司さんも気まずいかと思いますので自分で選びます。ダメ…ですか?」

上目遣いに射抜かれる。

俺は首を縦に振るのだった。


美憂さんの下着の購入を終えた後、俺たちは服を買いに来ていた。先ずは部屋着をいくつか見繕うために全国チェーンされている安めの量販店に来ている。

美優さんは真面目な顔で値段と睨めっこしている。正直値段は気にしなくていいのだが、部屋着は着回すものなので彼女はいい服より着やすい服がいいと言っていた。

勤務中はメイド服なので寝る時に使う服にお金をかけたくはないとの事だった。

こういうところも俺の周りに現れた女性とは違う。数合わせの合コンに参加させられた時も無駄にブランドをひけらかす奴ばかり周りにやってきたなぁと遠い目をしてしまう。

美優さんはいくつか見繕い俺の方を向く。

「試着したいのですが付いてきていただけますか?」

「あぁ。勿論。」

俺は頷いて彼女の後からついて行った。

美優さんはパジャマとしては秋冬用にスウェットを2着、夏用としてはショートスリーブボタントップ&ボウショーツを2着購入するようだった。値段をちらりと見たが安かった。こんなに安くていいのか?とは思った。聞いてみると遠慮してこれを選んだというわけではなく寝やすそうだしとの事だった。

因みに昨日はパジャマがなかったから下着のみで寝たらしい。それならば昨日のうちに服がないことを知っていればよかったと思ったが達也も昨日はバタバタしていたらしく仕方ないなと思った。

パジャマは試着は大丈夫ですとの事で一着目は白のワンピースだった。カーテンが開いた瞬間にすごく良い!と思わず俺の声が大きくなってしまい周りの目が痛かった。

その後も色々と試着したが彼女の選ぶ服はどれも素晴らしかった。組み合わせにセンスが滲み出ている。

ジーパンも2着着用したがパンツ姿もとても似合っていた。何よりスタイルがいい。

「宗司さんは短めのスカートよりロングの方が好きなんですね。」

「えっ?なんでそう思ったんだ?」

「短いのを着ると視線が泳ぐのであんまり得意じゃないのかと。」

いや目線が泳ぐのは美憂さんの綺麗な足が強調されて直視できなかったからなんだが恥ずかしくて言えるわけもない。

でもまぁどちらかと言えば長いスカートの方が好きなのは確かかもしれない。

「まぁどちらかといえば長い方が好きかもしれない。だけど俺の好みなんて気にせず好きな服を買ってもらったほうがいいぞ?」

「いえ。一緒に歩く人の好みに合わせたいのでロング中心にします。後は鞄と靴は手持ちのものでいいのでこんなところですね。有難うございます。」

「いや靴は今履いてるのしかないだろ?鞄だって君はリュックしか持ってないことを知っている。財布も大事に使われているのがわかるくらい傷んでいる。物を大事に使っているのは見ただけでわかるけれど良かったら俺に買わせて欲しい。」

「ですが…。」

「有難迷惑かもしれないが頼む。これは君ではなくて俺のわがままだ。」

彼女が目を見開いて俺をみる。

「…きだなぁ…。」

彼女が何かをボソリと呟く。

声が小さくて聞こえない。

「やっぱりダメか?」

「いえ。ありがたく頂きます。」

そう言うと彼女はふにゃっと笑った。

この表情も推せると思った。

推しは推せる時に推す。

俺は課金できる時に課金したい人間だからここで引くわけにはいかない。

そう思い、彼女の手を取って歩き出した。

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