推しと買い物①
今日は美優さんと買い物に行く。
女性と外に出るのは何年振りか?と思ったが最早記憶がないからわからない。
たぶん高校の彼女以来だろう。
という事は8年ぐらい前か?
何にせよ。推しに恥ずかしい思いはさせられないから気合を入れるとしよう。
ワックスを手に取ると手早く髪を整える。
コスプレから培ったなんとなく格好よく見える髪型。派手すぎず、抑えすぎず。
鏡を見る。うん。いい感じだ。
俺は自分の部屋に戻り服を考える。美優さんは美人だ。彼女とある程度釣り合うためにはそこそこそこの服は必要か?
そんな事を考えながら適当に並べてみる。
今から行くのは大きめの商業施設だ。
ブランドで固めるのは簡単だが、いやらしくない程度にしたほうがいいだろう。
色々考えてはみたものの、結局、ラフにジーパン、シャツ、ジャケットに落ち着いた。ジャケットだけは落ち着いた黒のブランド物にする。このジャケットはお気に入りだから外せない。
姿見で確認してまぁこんなもんかと納得する。
最後に暗室へとむかう。
そこには多種多様な腕時計が並んでいる。
ここは空調もバッチリ管理している部屋だ。湿度も常に一定にしている。
並んでいるのは俺の趣味の一つである腕時計コレクションだ。
1千万〜10万まで選び放題。ほとんど金を使わないがここだけは盗まれたら泣く。
もう一部屋トレーディングカード用の部屋もあるがそこに泥棒が入っても泣く。
この二部屋は金庫の役割も兼ねているので、俺の指紋と網膜チェックを潜り抜けないと入れない。この二部屋だけは頑張って俺が掃除をしている。
1人で出かける時は周りの目も気にしないから高級な腕時計をつけるが、隣にいる人のことを考えると今日はダメそうだ。なんかいやらしくなっても嫌だし。若者がよくつけるような時計がいいか。
そう考えてクロノグラフの時計を手に取る。
確かこれはペアウォッチだったはずだ。
つける人がいないから新品同様の女性物の時計を手に取る。
どうせだから美憂さんに上げるか。つけるかどうかは本人に決めて貰えばいいや。
そう考えてウォッチケースにしまうと部屋から出た。
リビングで撮り溜めたアニメを見ているとパタパタと音がした。
「宗司さん。お待たせしまし…た?」
声の方に振り返ると、そこには美しい推しがいた。眩しすぎて意識を失いかけて無言になる。
美優さんの顔を見ると何か惚けたように俺を見て固まっている。アレ?俺何か変か?
「俺の服装変か?センスは悪くないと思ってたんだが…。」
美優さんはブンブンと首を振る。
「格好いいです!凄く素敵です!」
「おっ、おう。ありがとう。美憂さんもとっても綺麗だよ。」
今日も推しの圧がすごい。あっちはお世辞かもしれないが、俺は本心からそう口にする。美優さんが頬を赤らめる。
うん。推しが尊い。
「そうだ。これ貰ってくれるか?」
ウォッチケースを差し出すと美優さんがそっとそれを受け取り開けて目を見開く。
「綺麗な時計…。盤面は夜空と雪をイメージしてるんでしょうか…。頂いていいんですか?これ相当高いと思うんですが。」
美憂さんはお目が高い。値段は役10万程する。これは恋人達のクリスマスの夜をイメージした盤面になっていていやらしくない程度にキラキラと輝いている。
「いいんだ。俺もデザインに惹かれて買ったんだけどそれペアウォッチでさ。今俺が付けてるやつの片割れなんだ。渡す相手がいないから一度も使わず保管してたから、誰かに使ってもらった方がきっとその時計も喜ぶよ。あっ俺とお揃いなんて困るか。違うのもあるけど…。」
渡してから思ったが恋人でもないのに恋人をイメージしたペアウォッチっておかしくね?いや渡す前に気づけよ俺!これじゃあ告白みたいじゃね!?ていうかこれはもしや俺とペアウォッチをつけろというパワハラ案件!?
どうする。今から返してもらって違うのを渡すか!?やばいぞ…今から入れる保険ってありますか!?
脳内で頭を抱えていると俺の言葉に美優さんがぶんぶんと首を振る。
「これがいいです!それで…一緒に出かける時はお揃いをつけてくれますか?」
推しの懇願するような目に心を撃ち抜かれる。危なかった。ギリギリ致命傷で済んだ。
「あぁ。君が望むならそうするよ。まぁお揃いの時計をつけてたらナンパ避けにもなるかも知れないしな。」
なんとか平静を取り戻した俺の発言はカップルに見られることは問題ないと言っているようなものだった。言ってから気づき頭を振る。
どうやら平静は取り戻せていないらしい。
どうも女性と2人っきりというのが久々すぎて調子が狂っているらしい。
だが、推しが笑顔なのでまぁいいかと俺は自分を納得させるのだった。
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