第74話
そして、ミュージック・ウィンドウの放送日である土曜日となった。
何事も初体験の俺はまずプロダクションに向かい、そこから内部グループ『シュステーマ・ソーラーレ』統括マネージャーの藤山さんが運転するミニバンでテレビ局に向かう。
他の同乗者は、個人の仕事でプロダクションに用があった知実さんと涼夏さんに、サブマネージャーの新倉さんの三人。
他のメンバーはテレビ局に直で行くらしい。
プロダクションに来て同乗してもよいらしいが、目的地のテレビ局だと直接向かったほうが距離や時間が短くて済むメンバーが多いようだ。
もっとも、梨奈さんはほぼ専属マネージャーと化している権藤さんが車で迎えに行っているとのこと。
そんな感じで運転席と助手席にマネージャー二人、二列目に知実さん、三列目に俺と涼夏さんという配置である。
まぁ、車内ではマネージャー同士で会話しているぐらいで、俺たちアイドル組は大人しくしている。
前の知実さんはスマホを見ているし、涼夏さんは目を瞑って休んでいるようだ。
俺は車窓から流れる景色を眺めている。
知実さんは俺に対して会社の同僚という態度だし、涼夏さんとは枝里香さんが居ればそれなりに話すぐらいの関係だ。
所謂、友達の友達みたいな相手である。
まだ、内Gのシュス・ソーラに入って一週間も経っていない。
枝里香さんを除けば、
+++
テレビ局。
実は、俺がテレビ局に入るのは初めてである。
ここは出演中の連続ドラマを放映しているAテレビとは違う局だが、あちらも番宣とかには出なかったので局自体には行っていないのだ。
テレビBの本社でもある、このビルには多くの人が行き合っていた。
中にはテレビでよく見るような有名人も、各所に居る。
そんな中を本日生放送で出演するミュージック・ウィンドウ用の控え室に入ると、準備もそこそこに挨拶周りへとマネージャーに急かされた。
まずは番組プロデューサーに挨拶をし、続いてMCの中年男性俳優にも挨拶をする。
自慢の美貌を輝かせて初対面の挨拶を繰り返し、番組スタッフたちに好感を植え付けていった。
それが終わると、今度は俺たちと同じ出演者への挨拶である。
俺たち以外に、スタジオに来て生で歌を披露するのはソロ一人にグループ二つだ。
今週はシュス・ソーラが出演するので、競合する女性アイドルグループは呼ばれていない。
ソロは三十代の歌唱力に定評がある女性シンガーで、他に男性アイドルグループと男性ロックバンド。
俺たちとは立ち位置が違う相手ばかりのため、基本的には順調に挨拶が終わった。
男性アイドルグループと男性ロックバンドの一部が、超絶美少女である俺の連絡先を聞きたがった以外は。
もちろん、教えるわけがない。
世間の女子から人気を集める、特に男性アイドルグループは俺の敵だ。
+++
『本日もあなたに素敵な音楽への窓口を。ミュージック・ウィンドウ、司会の
『アシスタントを務めます、
午後九時となり、モニターの中ではMCの俳優とアシスタントのテレビB所属の女性アナが番組最初の挨拶をしている。
シュス・ソーラの出番は出演者四組の中で最後なので、当分は控室で待機状態だ。
「萱沼さん。問題ありませんか?」
サブマネの新倉さんが、心配そうに尋ねてくる。
テレビの生放送が初めてということで、彼女は俺を気にし続けているようだ。
「はい。大丈夫です」
もちろん、神様チートで精神的にも強化されている俺に問題は無い。
生放送ということもあってか、台本もリハーサルもある。
これでミスを犯したのなら、今後のアイドル稼業に疑問符が付くだろう。
「美久里を見てる限り、全然大丈夫でしょ」
「余裕っぽい感じがするね」
「凄いわ、美久里ちゃん……」
「初めてとは思えません」
リーダーの睦美さんに、涼夏さんと枝里香さんや由夏さんが俺を見て評している。
前世の俺だったら、こんな評価には全くならなかったはずだ。
「まぁ、失敗しなければ、私はいいけど~」
失敗云々は知実さんの発言である。
他のメンバーはモニターを見たりマネージャーや仲間と話している中で、彼女の言動は一々俺に厳しい。
やはり、人気投票で順位を抜かしたのが気に障っているのだろうか。
「失敗しないようにがんばりますね」
「ふんっ」
「内川さん……」
彼女の態度に、藤山さんが困ったような声を出す。
グループ内の不協和音は問題だが、順位を落としたメンバーへの対処もこれまた難しい。
仕事とはいえ、マネージャーの人たちも大変だ。
コンコン
「……失礼します。そろそろ、スタンバイをお願いします」
ここで、ミュージック・ウィンドウの若手ADが呼びに来る。
モニターを見ると、二番目の女性シンガーがMCと会話している場面だ。
「わかりました。それでは、みなさん行きましょう」
「よろしくお願いします。では」
若手ADが去ると、メンバーたちは立ち上がる。
既に『Supercluster』用の衣装に着替え終わっているため、直ぐにスタジオ裏まで移動可能だ。
「それじゃ、行きますか」
「ちゃっちゃと済ませましょう」
「みんな。リラックスするのはいいけど緊張感も持つように。美久里は初めてで大変だろうけどがんばって」
「わかりました」
睦美さんに声を掛けられ、気合を入れ直す。
初めての出演とあって、俺とMCの会話の時間が長く取られているのだ。
もっとも台本が有り、その通りにするだけなので余裕はある。
「それでは行くわよ」
「了解」
「がんばりましょう」
「仕事の時間だ~」
リーダーを先頭に、ぞろぞろとシュス・ソーラメンバーが出ていく。
俺は一番後ろに付き、藤山さんと新倉さんの前で足を動かす。
梨奈さんと一緒に来た権藤さんは、控室に残るようだ。
まぁ、マネージャーが三人も必要ないからだろう。
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