内川 知実 3
「はぁ……」
自宅であるマンションの一室に帰ると、手にした荷物を適当に投げ出してソファーに座り込む。
とりあえず、今は何もしたくない。
「はぁ……」
口を開くと、溜め息しか出ない私が居る。
それは仕方ないだろう。
今日、五回目のシュステーマ・ソーラーレ例大祭が開催された。
つまり、私がこの一年間頑張った結果が順位として出る日である。
そして、その結果が私が求めていたものとは違っただけだ。
「……マジか~」
去年の例大祭で、トップから二番手に下がった私は自分でも限界と思うほど頑張った。
トップを争いそうな二人が、まだ完全に実力を発揮できない内に一位を奪い返したかったのだ。
その二人が仕事にしないドラマに映画やバラエティ番組など、睡眠時間を削ってでもスケジュールに入れまくった。
最後にはマネージャーに制止され、ある程度はセーブしなければならない羽目になったけど。
その、自分でもこれ以上は無理だろうと頑張った結果が三位である。
一位の梨奈との差は昨年より、かなり詰まった。
だが、投票数が縮まっても順位の差の方が影響は大きい。
一昨年はエースで昨年は二番手だった私は、これから一年間三番手になるのだ。
「これで三位なら、来年も二位以上は……」
二位に入ったのが新人というのが痛い。
デビュー一年目からこんなに人気を集められるのだから、世間への露出度が増えるこれからで更に人気が上がるのは明白だ。
まぁ、人気投票中にドラマに出演して話題になるという予想外のこともあったが。
梨奈にも演者としての仕事を始めさせようとする動きもある。
彼女がどうするかは不明だが、私の少ない強みの演技仕事まで踏み込まれてはどうしようもない。
二人は高校一年生に中学三年生。
学業の方を優先してくれれば、現在高校三年生である私が卒業した後の芸能界に専念できる時間で逆転できる可能性も上がるけど、私の経験上からそんなことはないと判断できる。
これ以上、仕事を増やそうにもマネージャーや運営からストップが掛かる。
そもそもマネージャーによる仕事制限が無かったら、限界を超えていたかもしれない。
今も精神的なダメージだけでなく、肉体的な重い疲労で動きたくないのだ。
こんな芸能生活を送り続けていたら、いずれは身体が悲鳴を上げるのが目に見えている。
(……流石にもう無理かな)
今日の結果に諦めの気持ちが湧き上がってくる。
だって、これだけ頑張った結果がコレで来年は更に条件が悪化するのだ。
この状態で、来年は一位を奪い返すなんて能天気なことは言えない。
ステージ上での建前と、自宅での本音が全然違ってもおかしくないだろう。
「幸い、四位との差は大きいし」
個人の趣味によるとは思うが一般的に見て、顔の良さでは四位以下には勝っていると自負している。
ドワーフ・プラネットに入った、もう一人の新人が怖いが、彼女とは充分争えるだろう。
(アイドルだもの。やっぱり顔も重要だし)
私よりも上に居る、二人の顔が強過ぎるのは目を逸らそう。
美女美少女揃いの芸能界でも、数少ないレベルの美貌なんてチート過ぎる。
(そろそろ、着替えないと)
このままだと服にシワが付いてしまう。
夕食はフードデリバリーで済ませて、今夜はゆっくりとしよう。
何か例大祭終了後にトラブルがあったらしいが、今後の予定は変わらない。
フォーメーションの新位置、歌唱部分の変更。
練習しないといけないことが、たくさんあるのだ。
これまでの積み重ねがあるので難しいものではないが、それでも多数の曲となると時間も掛かる。
流石に全部は無理だが、後で苦労しないためにも今のうちに少しでも終らせておきたい。
順位を落として騒ぎを起こしたメンバーのことなんて、考えている余裕は無いのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます