七澤 のぞみ 3

「ふぅ……」


 一日を締める大好きなお風呂だけど、今日はどうしても考え込んでしまう。

 例大祭当日の今日は、本当にいろいろなことがあった。


 人気投票の結果が十一位で、美久里ちゃんとは別のグループになったこと。

 終了後に東山さんが起こした騒ぎ。

 そして、そこで私を庇った美久里ちゃんが軽いとはいえ怪我をしたこと。


 彼女の病院での診察の結果は、軽い打撲ということだった。

 少しだけど内出血もみられて、完治に二、三週間かかるという診察である。

 二人の先輩も同程度で、私は特に問題無いという診察結果が下された。


 当たり前である。

 美久里ちゃんが右手で私に投げられた物をはたいてくれたから、当たった時には勢いが無くなっていた。

 これで彼女が怪我をしていなければ、何も問題は無かったのだけど。


「……これから、どうなるんだろう?」


 東山さんがやったことは、れっきとした犯罪である。

 詳しくは知らないけれど、傷害罪とかに当たるはずだ。


 となれば普通は警察の出番だけど、私たちは芸能人であり同じアイドルグループ内での揉め事である。

 表沙汰になれば、普段関係があるようなマスコミは違うと思うけど、低俗なマスコミなら面白おかしく書き立てそうだ。


 そのターゲットは加害者の東山さんは当然として、被害者側では私と美久里ちゃんということになる。

 二人の先輩方では、知名度に差が有り過ぎるから。


(お父様は、どうするつもりなのかな?)


 当然、保護者にも事件の連絡が行っているだろう。

 東山さんだけでなく、事務所の責任を追及したりするのだろうか。

 そうして、アイドルを辞めさせる方向に向かったりしないか。


「それは……、無い、よね?」


 こんな馬鹿らしいことで、美久里ちゃんと離れるなんて絶対に嫌だ。

 これから一年間、もっと頑張って彼女と同じグループに入ろうと例大祭直後に考えていたのに。


(この出来事を表面化させないのも、事務所的にはありそうだけど)


 事件化せずに内々で処理する可能性もある。

 私を除いても三人いる被害者を納得させれば、東山さんを辞めさせて他の何かをプラスして終わらせることもできる。


 少し話をした美久里ちゃんは、実際解雇でも名目は卒業引退で構わないから逆恨みだけは避けて欲しい感じである。

 彼女はシュステーマ・ソーラーレのことを、考えて大事にするのは反対なのかもしれない。

 美久里ちゃんのご両親や三人のお兄様が、どう考えるかはわからないけど。


 私たち以上の当事者である、先輩方もよくわからない。

 人気のない四期生だから、シュス・ソーラを第一として動いてくれるか疑問である。

 ショックを受けて辞めるともなれば、事務所としても面倒なことになりそうだ。


「もう! 本当に問題児……」


 愛称を頂ける順位から陥落してショックなのはわかるけど、こんな騒ぎを起こすなんて。

 運営も、こんなことなら早く卒業させるべきだったと後悔しているだろう。


 今も後始末で忙しく働いていることだと思う。

 どんな落としどころを見つけるのだろうと、不安が増してくる。

 私や美久里ちゃん、シュス・ソーラに害が無い終わり方があれば良いのだけど。


(明日、何かわかるかな……)


 朝一番に事務所に行く予定は、未定になった。

 今の所、種山さんからの連絡待ちである。


「ふぅぅぅ。って、ダメね」


 さっきから、同じことをループして考えている。

 そのせいで、結構な時間をお風呂で過ごしている。


(そろそろ出て、就寝前に美久里ちゃんに電話しよう)


 怪我の状態を聞いて、再び助けてくれたお礼を言おう。

 彼女は気にしないでと笑って言ってくれると思うけど、私の気が済まない。

 機会が有れば、私も美久里ちゃんの助けになろうと思う。

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