第69話
「……おつかれ~」
「おつかれさま」
「お疲れ様でした」
幕が下りて例大祭が終了した俺たち六期生は、宛がわれた控室に戻る。
開催中の多くは立っている状態だったため、みんなも思った以上に疲労しているようだ。
もちろん俺も疲れて、特に下半身が
「……萱沼さん、七澤さん。まずはおめでとう」
「はい。ありがとうございます」
「ありがとうございます。大和田さん」
最初に六期生リーダーである、紫苑さんから祝福される。
それに続いて、他の仲間からも祝いの言葉が頂けた。
「おめでとう。美久里、のぞみ」
「二人とも、おめでとうございます」
「シュスソーラにドワプラですか。頑張ってね」
「友菜たちもがんばって、まずはセブサテを目指さないとね~」
「みなさん、ありがとうございます」
「六期生としても、頑張っていきますね」
のぞみちゃんと顔を合わせて頷き合い、二人でお礼の言葉を返す。
彼女たちも悔しい思いをしているはずなのに、俺たちを祝福してくれる素敵な仲間だ。
「美久里さ~ん。おめでとうございま~す。七澤さんも~」
「おっと。智映ちゃん、ありがとう」
「……ありがとうございます」
黙っていた智映ちゃんが、泣き声が混じったような声で抱き着いてくる。
取ってつけたような祝福に、のぞみちゃんはちょっとムッとした雰囲気を出すが、ここは空気を読んで返事をしていた。
「……でも、六期生から愛称持ちが二人ですか」
「まぁ、人数も増えてきたことだし、こんなものでしょう」
「七期生も入れて総勢五十三人。社長が言っていたらしい、適正人数になったわね」
「例の噂ですか? 紫苑さん、本当なんですか?」
抱き着いてくる智映ちゃんの甘い匂いを感じながら、情報通のリーダーに確認する。
シュステーマ・ソーラーレメンバーの適正な人数は五十から六十人。
できれば五十人前半で五十に近ければなお良し、という話が社長の口から出たという噂だ。
「さぁ? 私も本当のことは知らないわ」
「事実として、来年の八期生の人数にもよるけど、引退者は増える可能性はあるわね」
「最近は一期が八人だから、その人数近くはいてもおかしくはありませんか」
「六期生には関係ないっしょ」
友菜さんの言う通り、流石に六期生で引退の話が出る人はいないだろう。
危ないのは、四期生までのミニライブ組だと思われる。
一度も愛称持ちになれる順位を取れなかった人、順位を落とし続けて愛称無しになった人が候補であろう。
「これ以上増えると、ミニライブがどうなるか」
「二十四人ですから三組に分けるでしょうね。それに七期生を入れて四グループですか」
「これまでより、一グループ増えるのか~」
「暫くは七期生の出番は少ないでしょうけど、後の方は私たちの出番も減るかな」
他の仕事も増えはするだろうけど、メインであるミニライブの出番が減るのは今後に厳しい。
愛称が貰える二十一位までの争いが、一段と激しくなりそうだ。
「……まぁ、七期生に美久里やのぞみみたいな人が居なくて良かったわ」
「ちょっと、松延さん」
「リーダーもそう思っているよね? 同期や先輩ならともかく、後輩に負けるのはイヤよ」
紗綾香さんの言葉に紫苑さんが
仲間でありライバルでもあるのだから、微妙な感情を持つのは当然だ。
そう思いつつ、くっつき続けている智映ちゃんの頭を撫で、それを見ているのぞみちゃんの目が細くなり始めた時にノックの音が響いた。
「……お疲れ様。みんな」
「種山さん。おつかれさまでした」
ガチャとドアを開けて入ってきたのは、六期生統括マネージャである種山さんである。
彼女は俺たちを眺めると、口を開いてこう言った。
「まだ、着替えてなかったの? まぁ、いいわ。着替えながら聞いて」
「わかりました」
「はい」
「は~い」
まだシュス・ソーラ基本衣装のままだった俺たちは、慌てて着替え始める。
その間に、マネージャーから連絡事項が伝えられた。
「まず、萱沼さんと七澤さんは、明日の朝一で事務所に来てください。そこで、シュスソーラとドワプラ関係者との話があります」
「わかりました」
「了解です」
最初にミニライブ組から卒業する、俺とのぞみちゃんへの連絡である。
そう考えると、種山さんと一緒に仕事をする機会も減っていくはずだ。
「他の六人は午後一でお願いします。新たなミニライブでのグループ振り分けがありますので」
「はい。わかりました」
「午後一ですね。了解しました」
六期生全員、グループ構成が大きく変わるので今後が大変である。
フォーメーションの位置が変更になったり歌う箇所が変わったりするのを、短期間で仕上げないといけない。
俺も内部グループの方のシュステーマ・ソーラーレに所属が変わると、変更部分が多くなるのだ。
まず、人数が八人から九人なるので細かい所に違いが出てくる。
更に六期生の時は最初からセンター扱いだったが、今度は二番目の位置になるので、そこも微妙に変わってくる。
その辺りを、活動し始めるまでに練習を頑張らないといけない。
「……さて、あなたたちはこれからどうするの? 去年みたいに打ち上げにでも行く?」
「打ち上げですか……」
「どうしようか?」
昨年の例大祭後は打ち上げ兼慰労会で、六期生とマネージャーで夕食を共にした。
今年は人気投票があったから、そんなものは無いと思っていたんだけど。
種山さんも、五期生以上はしないと昨年言っていたし。
「……萱沼さんと七澤さんは?」
「そうですね。やるのでしたら、行きたいです」
「のぞみも同じです。こんな機会は、少なくなるはずですし」
「……そうね。六期生という単位でのミニライブも終わったし、それの慰労を兼ねて行きましょうか」
「了解~」
「みんなで行くのも、久しぶりですからね」
「もちろん、食事代は事務所持ちですよね?」
「あはははっ」
「くすっ」
佐起子さんのおねだりに、みんな笑いだす。
一瞬、マネージャーが眉間を狭くしたが、すぐに笑い出した。
「……もう、わかったわ。なんとか、経費で落とすわね」
「ありがとうございます」
「ごちそうさまです」
「それじゃ、松園さんと相談して店を決めてくるから、もう少し待機していてね」
「わかりました」
そう言った種山さんが控室を出ようと、ドアを開けようとした時である。
『馬鹿にするなっ!!!』
ドアを通して、怒鳴るような大きな声が響き渡った。
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