第68話
「初めての人気投票で、見事に二位! 昨年の武智 梨奈さんに次ぐ快挙ですよっ!!」
「はい。流石に、武智先輩の壁は高かったですね♪」
「いやいや、充分に誇ってよい順位だと思いますぞ」
二位でもとても嬉しいという風に、にこやかな笑顔で二人のMCとの会話を続ける。
実際そうなのだから、特に演技をする必要も無い。
「私もそう思います♪ これも、投票してくださったみなさんのおかげですね」
「投票したぞぅぅぅ!!!」
「俺も~~~!!!」
「ホントですかっ!? ありがとうございます♪」
客席からの声援もちゃんと拾い、感謝の言葉を伝える。
こういった地道な努力が、今後に繋がるはずだ。
「会場のファンの中にも、萱沼さんに投票した人は多そうですな」
「みたいですね。……ところで、美久里さんといえば初出演したドラマが好評ですが」
ここで女性MCが、俺が出ているドラマに関しての話題を振る。
彼女の本業は女優だが、俺とは年齢が一回り以上は違うため、当分は演じられる役が重なることはない。
「そうなんですか? その人気に、少しは貢献できているのであれば嬉しいです♪」
「少しどころか、大変貢献していると思いますぞ」
「ええ。私とも共演する機会があれば、よろしくお願いしますね」
「いえ、こちらこそ、いろいろと勉強させてください」
二位ともなると、ここでの会話時間も多く取られる。
それからもドラマの裏話や苦労したことなどを話し、会場のファンたちを楽しませることに努力した。
「──さて、もっとお話しを聞きたいのですが、スタッフによる巻きの合図が出てしまいました」
「もう、そんなに時間が経ちましたか」
「「「えぇぇぇ!!!」」」
「もっと、話聞きたいぃぃぃ!!!」
「みくり~ん!!!」
MCたちの締めようとする雰囲気に、ファンたちから残念そうな声援が降りかかる。
その声に俺も可愛く手を振って応えると、客席からの声量が大きくなる。
「凄い声援ですね。……では、ファンの皆様に何か一言をお願いします」
「はい。……え~、まだまだ新人の私に、これだけの投票をありがとうございました。その応援に応えられるよう、これからも頑張っていきたいと思います」
「はいっ! 今後の萱沼さんの活躍に期待していくとしましょう」
「そうですね。それでは、六期生、萱沼 美久里さんでした。ありがとうございましたっ!」
「ありがとうございましたっ!♪」
大きな声援と拍手の中、一礼すると後方の元の位置に戻る。
その帰りに上部のスクリーンを見ると、俺への投票数は三位の知実さんより少し多い程度だった。
彼女と四位の枝里香さんとの差と比べれば、充分に僅差だと言えよう。
+++
「……さて、残りは第一位の発表だけとなりましたっ!」
「今年も、総投票数がかなり増えましたね」
「ええ! ますます人気となったシュステーマ・ソーラーレッ! 今年の一位は一体誰なのかっ!!」
もう残っているのは一人だけなのに、盛り上げようとMCたちも頑張っている。
一位と二位を同時に発表することも考えたほうがいいんじゃないかなと、思わないでもない。
「……もう、みなさんはわかっていると思いますが、……それでは、発表と行きましょう」
「はいっ! 第五回シュステーマ・ソーラーレ例大祭、人気投票第一位は!?」
「第一位は!?」
「もちろん、この人! 五期生、ソールこと、武智 梨奈さんです!!!」
「梨奈ちゅわ~ん!!!」
「梨奈ぁぁぁ!!!」
「「「うおおぉぉぉ!!!」」」
会場に詰めかけたファンたちの絶叫や野太い声が、ステージ上の俺たちへ浴びせられる。
俺の時より心持ち、声量が大きいような気がした。
「……初の連覇達成ですなっ!」
「ええ! 梨奈さん、おめでとうございますっ!」
「ありがとうございます。これもファンのみなさまのおかげです」
スポットライトの光の中に進み出た梨奈さんが、MCたちと会話を始める。
流石に二回目ともなると、堂々とした所作だ。
「見てくださいっ! 得票数も凄いですよっ!?」
「ええ、応援、大変嬉しく思います♪」
俺もチラッとスクリーンを確認するが、女性MCが言うほどではない。
俺と彼女の差も、知実さんとの差を同じ程度である。
梨奈さん、俺、知実さんの各間を1とすれば、知実さんと枝里香さんとの差が3ぐらいだ。
トップスリーとそれ以下で、かなり差が着いたといってよい結果だろう。
「──では、客席やテレビの前のファンたちに、何か一言をお願いできますかな?」
意識を脳内での考えに持っていかれていると、梨奈さんの出番は早くも終わりのようだ。
いや、俺の認識がそうなのであって、実際は俺より長い時間が取られているだろうけど。
「はい。いつも応援ありがとうございます。これからも、シュステーマ・ソーラーレをよろしくお願いいたします♪」
「人気投票第一位!! 五期生、ソールこと、武智 梨奈さんでしたっ!!」
「ありがとうございましたっ!!」
「「「うわぁぁぁ!!!」」」
「「きゃぁぁぁ!!!」」
「りなりん~~~!!!」
最後に梨奈さんが深々とお辞儀をすると、他のメンバーたちが彼女を囲むように集まり祝福の言葉を掛けている。
微妙に出遅れた俺は、目立たないように集団の後方で大人しくしていた。
いや、二位に入ったとはいえ、新人を卒業したばかりの俺が最前列に出るのも違うだろう。
「この結果、第二位の萱沼 美久里さんは愛称テッラに。第三位の内川 知実さんは愛称ウーラヌスとなりました。他は変更ありません」
女性MCによる変更が有った愛称の発表の後、いよいよ男性MCが締めに入り出した。
総合コンサートとは違い、例大祭ではエンディングの歌唱は無い。
人気投票の結果でショックを受けている人もいるから、それはそれで正解なはずだ。
ファンたちにとっては残念だろうけど。
「……さぁ、第五回シュステーマ・ソーラーレ例大祭も、いよいよ終了の時間が近づいてきてまいりました」
「会場のみなさま。テレビの前のみなさま。お楽しみいただけましたでしょうか?」
「私もですが、ファンのみなさんも短く感じたのではないでしょうかっ!」
「ええ! 私ももう終わりですかいう感じですね」
「本当に名残惜しいですが、いよいよ閉幕ですっ!」
「それでは、みなさまっ!」
「来年の第六回シュステーマ・ソーラーレ例大祭でお会いしましょう!」
「「さようなら~~~!!」」
MCの言葉が始まると同時に、ステージ上の俺たちも囲みを解いて前方に横一列で並び直す。
並びは適当だが、俺はのぞみちゃんと智映ちゃんを横にして、手を振り声に出してお別れを表現した。
本来なら二位である以上、もっと中心にいても問題は無いと思うが流れでこんな位置になってしまった。
まぁ、両隣に立つ二人との絡みが確実に減るので、こういうのもいいだろう。
こうして、俺の名前が発せられる場所に向けて笑顔と愛嬌を振り撒きながら、二度目の例大祭は終わっていった。
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