第67話
「……さて、いよいよトップスリーの発表ですっ!」
「これから番組の最後までCMは入りませんから、テレビの前のみなさんも安心してください」
「はいっ! 最後まで突っ走りましょう! ……それでは、第五回シュステーマ・ソーラーレ例大祭、人気投票第三位は!?」
「第三位は!?」
「…………」
今までの発表に比べ、格段に溜めが長い。
会場が静まり息が詰まってしまうような緊張感の中、注目を浴びる女性MCがようやく口を開けた。
「……ここで彼女の名前が呼ばれるとは!! 三期生、テッラこと、
「うわぁぁぁ!!!」
「うそ~~~!!!」
「おぉぉぉ!!!」
焦らすようにして、出てきた名前は知実さん。
それを聞いた客席からは、悲鳴が混じる歓声が響きまくる。
漁夫の利を得る予想も有ったが、結局は俺に抜かれることになったようだ。
去年より更に順位が下がり、ショックを受けているはずの彼女はそれを表情に出さずに笑顔でステージ中央に向かう。
スポットライトを浴びてMCたちと会話を始める知実さんは、正にアイドルのプロと言って良いだろう。
その間に後ろへ振り返って、彼女への投票数を確認する。
実は俺たちが並んでいるステージ後ろ側より、更に後方にある上部のスクリーンに名前と順位に得票数も表示されているのだ。
そこに書かれた数字は去年の梨奈さん以上の数で、四位の枝里香さんとの差が結構ある。
やはり、総投票数もかなり増えていそうな感じだ。
この増えた数を考えると、去年までの得票数は参考にならない。
俺と梨奈さんが票を食い合って知実さんが差を縮めてきたのかは、二位と一位の発表後にしかわからないようだ。
+++
「──それでは、最後に一言をお願いします」
「はい。昨年より順位は下がってしまいましたが、ご投票ありがとうございました」
去年と同じように一度言葉を切り、深々と一礼している。
知実さんが纏う、内部グループの方のイメージカラーであるレッドが彩られた衣装が照明に輝いた。
「来年こそは、一位を取り戻せるように更に努力していきます。応援をよろしくお願いいたします♪」
「がんばれぇぇぇ!!!」
「知実~~~!!!」
「ずっと推すよぉぉぉ!!!」
「ありがとう♪」
知実さんの推し勢と思われる男性たちが声援を浴びせている。
彼女はそれに応えるように軽く手を振って、お礼の言葉を口にした。
「おっと、凄い声援ですな」
「はい、そうですね。……それでは、三期生、内川 知実さんでした。ありがとうございました」
「ありがとうございましたっ!♪」
「
「「……んっ、ともみ~ん!!!」」
テッラという愛称を無くした彼女は、再び一礼すると元の列に戻る。
その時に自分の投票数を確認していたようだが、どのような心境かは不明だ。
なぜなら、俺とは目を合わせないようにしていたから。
+++
「……さあ! いよいよ、残りは二人です!」
「もう、残っているのは二位と一位だけですか。時間が経つのが早いっ!」
「本当に早いです。残った二人は最強のエースと期待の新人っ! どちらがトップの栄冠に輝くのかっ!?」
「早く知りたくて仕方ありません。会場のみなさんも、そうでしょう?」
「「「うおぉぉぉ!!!」」」
「「きゃぁぁぁ!!!」」
「知りたいぞぉぉぉ!!!」
MC二人が客席を煽り、会場のボルテージが一段と上がっていく。
来場したファンをヒートアップさせたまま、発表に繋げる作戦のようだ。
「それでは、みなさまお待ちかねの発表ですっ!……第五回シュステーマ・ソーラーレ例大祭、人気投票第二位は!?」
「第二位は!?」
「……この結果は大健闘と言ってよいでしょう! 六期生、
「「「うわぁぁぁ!!!」」」
「マジかぁぁぁ!!!」
「残念~~~!!!」
「美久里ちゃ~ん!!!」
第二位、愛称テッラが貰える順位で俺の名前が女性MCの口から発せられる。
流石にこの一年間の活動だけでは、梨奈さんの高い壁は乗り越えられなかったようだ。
「美久里ちゃん……」
「行ってくるね。のぞみちゃん」
トップを取れなかったことのショックに隣で立つ彼女は心配しているようだが、俺自身はそこまで順位に固執していない。
内Gのシュス・ソーラに入れる順位だったら、別に何位でもよかったのだ。
逆に、一位となってシュス・ソーラを引っ張らなければならない立場にならなくてよかったとも言える。
二位だからそこまで変わりはないけど、上が一人でも居ると余裕ができそうだ。
そんなことを考えつつ、MC二人が待つステージ中央に進み出る。
客席やテレビの前のファンを魅了するように、鏡の前で何度も練習した笑顔を浮かべながら。
+++
「……おめでとうございますっ! 萱沼 美久里さん」
「はいっ! ありがとうございますっ!♪」
「「「うおぉぉぉ!!!」
「かわいいっ!!!」
「美久里~~~!!!」
今後は着る機会が減るであろう、六期生における俺のイメージカラーなピュアレッドのシュス・ソーラ基本衣装を揺らして、ファンに向けての挨拶だ。
反応を見る限り、俺の可愛さは充分に伝わっているようである。
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