第64話
「「「うおおぉ!!」」」
「きゃぁぁぁ!!」
客席のファンたちは無邪気に騒いでいるが、ステージ上の俺たちの周囲にはピリピリとした空気が漂っている。
何しろ、シュステーマ・ソーラーレの問題児が遂に愛称無しとなったのだ。
これで、運営も彼女の引退を積極的に進める方向に行くだろう。
それは他のメンバーにとって、喜ばしいことである。
とはいえ、引退するにしても時期は一年後の例大祭のはず。
それまではシュス・ソーラに在籍し続けるのだ。
それなのにここで喜んだ雰囲気を出すと、面倒な東山 加絵に目を付けられる。
そんな意識が今の妙な雰囲気を発生させたと思う。
そんなことを考えながら、並んでいる列の中央方向に視線を送る。
一応、セブンス・サテライト所属なので中心に近い所に居た彼女は、硬直した笑顔でステージ中央に進み出ていた。
必死に表情へ出さないようにしているが、この結果にショックを受けているのがバレバレである。
+++
「──この結果をバネに、更に頑張っていくことをここに誓います」
「はい、ありがとうございましたっ! 一期生、東山 加絵さんでしたっ!!」
「くっ……」
MCとの会話が始まったころは少し怪しかったが、続けていくうちに彼女の様子は普通に戻っていった。
だが、最後に愛称を付けずに名前を呼ばれたことに、苦痛のような声がマイクに拾われていた。
それを誤魔化すように一礼すると、ミニライブ組落ちが決まった問題児は元の位置に戻る。
さて、ここからの進行は人気投票の結果によって少し変わることが決まっていた。
今年は中だるみしないように新人発表と引退者挨拶だけでなく、内部グループによる歌の披露もスケジュールに載っている。
もし、二十一位以上の結果が去年と同じなら、三グループが順番に一曲づつ披露する予定だった。
ところが、既にセブンス・サテライトの二人が名前を呼ばれている。
ということでドワーフ・プラネットが一曲と、内Gのシュステーマ・ソーラーレが二曲歌唱することになるだろう。
まぁ、俺やのぞみちゃんがいるから、二十一位より上が去年と同じ顔触れになるわけがない。
だが、シュス・ソーラ運営は二十一位以上の顔触れが変わらない設定でのスケジュールも組んでいた。
予想通り無駄になったが、結果発表前に順位が想像できることを少しでも避けたかったのもわかる。
「はい。これで人気投票二十二位までの発表が終わりました」
「二十一位からは、セブンス・サテライトに所属となる七人ですね」
「ええ。でも、その前に、忘れてはいけないことがありますよね?」
「もちろんです。毎年のことだから、この年でも忘れませんよ」
「では、紹介いたしましょう」
「今年の新メンバーたち、七期生の皆さんです!」
当然、MCにも状況によって進行に変更があることを知らせてあるはずだ。
セブンス・サテライトによる曲披露を抜かし、ここで新人の発表を高らかに宣伝した。
「「お、おおぉぉ!!」」
「わぁぁぁ!!!」
去年までとは違う進み方に、客席のファンも戸惑ったようだが直ぐに声援を再開する。
俺たちのデビューの時は引退挨拶が先だったが、今年から変更が入ったのだ。
八人の中学生から高校生ぐらいの少女たちがステージに並ぶのを、俺たち既メンバーは拍手で迎え入れる。
結局、七期生も脱落した候補生は一人もおらず、ミニライブを見学しに来た時に見た顔が全員揃っていた。
「……では一人ずつ、挨拶と話を聞いていくとしましょうか」
「はい。それでは、先頭のあなたから聞いていくとしましょう」
「はっ、はいっ! 七期生としてデビューします──」
新人紹介が終わると、ドワーフ・プラネットが曲を披露する。
その時に、ドワプラを構成する五人以外は一度ステージから舞台袖に下がる。
続いて引退者三名による挨拶、そしてシュステーマ・ソーラーレが連続で二曲歌ってから、人気投票の結果発表が再び始まるのだ。
+++
「「「──愛して~~~♪」」」
「「きゃぁぁぁ!!!」」
「愛してる~~~!!!」
「「「うおぉぉぉ!!!」」」
ダンッ!
大きなエールの中、曲が終わってダンスも締められる。
つまり、結果発表の後半戦の時間が来たのだ。
「……シュステーマ・ソーラーレで『HOPE SUNRISE』でしたぁ!!」
「ありがとうございましたぁ!!」
「梨奈ちゃ~ん!!!」
「知実ぃぃぃ!!!」
「枝里香~~~!!!」
「涼夏さまぁぁぁ!!!」
舞台袖で客席の興奮具合を見ながら、例大祭前に流れた噂を思い出す。
最初は二十一位発表前にセブンス・サテライト、十四位前にドワーフ・プラネット、そして九位前にシュステーマ・ソーラーレが歌う予定だったらしい。
そうなれば、人頭投票の結果その内部グループから所属が変わる人は、そこでの最後の曲披露となるだろう。
それをファンがどう思うか。
上のグループに上がるのなら問題無いが、下に下がったり愛称が無くなる人はどうなんだと。
もう、その内部グループから落ちることが決まっているのに、ステージに出て歌わなくてはいけない。
これを考えた人は、思い出作りとでも思っていたのであろうか。
俺は残酷だなと思う。
運営でもそう考えた人が居たから、今の進行になったのだろう。
こちらの方が、断然に良い。
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