第63話

 八月第二日曜日の午後、遂に待ち侘びた例大祭が訪れた。


「──お聞きいただいたのは『銀河の光は永遠に』でした」

「いや~、シュステーマ・ソーラーレ全員による、この曲は名曲ですね~」

「りなりん~!! 大好き~!!」

「知実ちゃ~ん!! こっち向いて~!!」

「美久里~~~!! 愛してるぅ!!」


 年末の総合コンサートと同じように、始まりはフルメンバー四十八人によるシュス・ソーラ代表曲「銀河の光は永遠に」である。

 歌い終わると盛大な拍手と声援が、俺たちに降り掛かってきた。

 メンバー個人個人にも声援が掛けられるが、二大エースの梨奈さんや知実さんに負けないぐらいに俺への声援も有る。

 ドラマやCMの効果も有って、シュス・ソーラにおける俺の人気もトップレベルまで上がってきているようだ。


「……さて、いよいよですね」

「ええ、今年もこの季節がやってまいりましたっ!」

「それでは」

「「第五回シュステーマ・ソーラーレ例大祭、スタートですっ!!」」


 去年と同じ初老男性のアナウンサーと二十代後半の女優のMC二人が開催を宣言する。


 去年は先輩方が歌い踊るのを舞台裏で見ていたが、今年は俺も当事者である。

 同じステージで歌ってからMCの開催宣言を受け、圧倒的な声援と拍手を受けているのだ。


 まぁ、歌唱中のフォーメーションの位置は目立たず、MCの進行中に並び替えた位置も端の方なのは仕方ない。

 今回の人気投票の結果が出るまでは、下っ端の新人なのだから。



 +++



 今回の引退者は三名のため、残りの四十五人で順位を争うことになる。

 まずは内部グループに入れず、愛称も貰えない二十二位までの発表だ。


 予想サイトでは俺やのぞみちゃんはもっと上位で、智映ちゃんが愛称が付くかどうか微妙なぐらいである。

 他の五人は順当に名前を呼ばれるであろう。


「……それでは、第五回シュステーマ・ソーラーレ例大祭、人気投票第三十九位は!?」

「第三十九位は!?」

「……六期生、市原いちはら 茉美まみさんです!」

「おおぉ!」


 ステージの後方で笑顔を浮かべながら他の事を考えていると、六期生の中で最初に茉美さんの名前が呼ばれる。

 俺とは反対の端の方に居た彼女は一礼をし、スポットライトを浴びつつステージ中央に進み出た。


「こちらへ。まずは、一言どうぞ」

「はい。……こんにちは。六期生の市原 茉美です。まずは投票ありがとうございました──」



 +++



 順調に人気投票の結果発表は進んでいく。

 この順位辺りだと人気もそれほどのものではないので、MCとの会話時間も少なくサクサクといった感じで進行していくのだ。


 もちろん、その間に六期生の名前が何度も呼ばれる。


 三十九位だった茉美さんの次には、三十七位で佐起子さん。

 次は三十一位が友菜さんで、続いて三十位に六期生リーダーの紫苑さんが入った。

 副リーダーの紗綾香さんが二十六位で、予想サイトでの予想と大体は合っている。


 後は智映ちゃんが、いつ名前を呼ばれるか。

 彼女が愛称を貰える二十一位以内に入れる可能性は低いと、予想サイトに記載されていたがゼロではないはずだ。


「……それでは、第五回シュステーマ・ソーラーレ例大祭、人気投票第二十三位は!?」

「第二十三位は!?」

「……六期生、関口せきぐち 智映ちえさんです!」

「「「……せーのっ、智映ちゃ~ん!!!」」」


 残念ながら、ここで智映ちゃんの名前が呼ばれる。

 俺の隣に居た彼女は微笑みつつ、軽く言葉を発した。


「それでは、行ってきます」

「うん。頑張って」


 ステージ中央に歩んでいくシュス・ソーラ基本衣装の背中に、去年の例大祭でパニックに陥っていた智映ちゃんの面影は無い。

 成長したもんだ、と娘を見るような目線で小さな彼女の後ろ姿を眺めた。

 いや、だって、前世の年齢も足せば智映ちゃんぐらいの年齢の子供が居てもおかしくないからね。

 結婚はしていなかったけど、それなりに付き合っていた女性も数人だが居たのだ。



 +++



「──来年はもっと上の順位に行けるよう頑張りますので、応援よろしくお願いします」

「はい、ありがとうございましたっ! 六期生の関口 智映さんでしたっ!!」


 最後にペコリと頭を下げた彼女は数秒後に頭を上げると、そのままの体勢で後ろに動く。

 リハーサルで指定された位置まで来ると、クルッと身を翻して俺の横に戻ってきた。


「おつかれさま」

「ありがとうございます。美久里さん」


 これで六期生で名前が出ていないのは、俺とのぞみちゃんの二人となった。

 初の人気投票で八人中二人が愛称持ちに選ばれるのは、悪くはないが良くもない。

 五期生は八人中三人が二十一位以内に入ったのだから。

 もっとも、梨奈さんを除く二人はセブンス・サテライトだったし、その内の一人は既に名前を呼ばれている。

 愛称持ちからミニライブ組となるのはつらいだろうと考えていると、ステージ上では愛称無しの最後のメンバーが呼ばれようとしていた。


「……それでは、前半最後となる人気投票の結果発表です」

「悔しい二十二位ですが、これをバネにして一段と頑張って欲しいですね。……では、発表をお願いしますっ!」

「……第五回シュステーマ・ソーラーレ例大祭、人気投票第二十二位は!?」

「第二十二位は!?」

「……一期生、カリストこと、東山ひがしやま 加絵かえさんです!」

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