第62話

「今日も、ミニライブに来てくれてありがとう♪」

「来週の土日は例大祭開催で、お休みです~」

「二週先の、新メンバーによるミニライブでお会いしましょう」

「バイバイ~♪」

「「うおおおおぉ!!!」」

「「きゃあぁぁ!!!」」

「その時も来るぞぉぉ!!!」


 八月第一週の週末で、愛称無しメンバーと六期生によるミニライブは終了となる。

 例大祭を挟んで第三週に行われるミニライブには七期生が参加するため、俺たち六期生グループとしては卒業だ。

 仮定として六期生全員が人気投票で二十二位以下なら、六期生だけのグループで継続できなくもないが、それはあり得ないだろう。


 というわけで、今後の六期生グループとしての活動は、十二月のシュステーマ・ソーラーレ総合コンサートだけとなるはずである。



 +++



「……いやぁ、終わったね~」


 ミニライブが終わって控室に戻ると、友菜さんが口火を切る。

 口調はいつもと同じだが、複雑な感情を込めた言葉だった。


「今から考えてみると、一年って短かったね」

「そうね。もう、一年経ったのかって感じ」

「……私と佐起子ちゃんは、寮からも卒業かぁ」


 万感な想いを込めた会話の中に、茉美さんの言葉が響く。

 シュス・ソーラのオーディションを期にこちらへ出てきた二人は、いよいよ自立しないといけない。


「二人の次の住まいは事務所が紹介してくれたんでしょ?」

「はい。事務所ビル近くのマンションです。他のシュスソーラメンバーも居て、フォルテシモ専用みたいな建物ですけど」

「でも、これからは料理とか洗濯とかの家事がありますから大変です」

「家賃も上がりますしね」


 見習いみたいなこの一年よりも仕事は増えるから、金銭的には大丈夫なはずだ。

 ただ、自分でしなければいけないことも増えるから、時間の余裕は無くなってしまう。


「寮よりは遊びに行けやすそうだけど」

「そうですね。機会があれば来てください。歓迎しますよ」

「事務所に近いのは魅力的ね」

「……入り浸ったらダメよ。友菜」

「なんで、友菜だけ~」

「くすっ」


 六期生としての活動が完全に無くなるわけではないので、そこまでしんみりとした雰囲気にはならない。

 例外が二人いるけど。


「七澤さんと智映ちゃんは、大丈夫?」

いとしの美久里との最後のミニライブだからといって、くっつき過ぎ」

「あはっ」


 六期生リーダーと副リーダーの言葉に、周りから笑い声が起こる。

 控室に引っ込んだ後、両横に座って俺の腕を抱え込んでいるのだ。


「今日で最後だなんて。智映、寂しいです……」

「こんなに一年が早いなんて、思いもしませんでした……」

「いや、私、引退するような雰囲気なんですけどっ!?」


 両隣の二人を見ていると、もう会えないような感じをかもし出している。


「たとえ、私が上に行っても六期生なのは変わりないからね」

「……たとえって、上位に決まっているでしょ」

「うっ、美久里さ~ん」

「美久里ちゃん……」

「ああ、もう。……わかった、帰るまでは好きにして」


 美少女に引っ付かれるのは本望なので、彼女たちが満足するまで任せる。

 それを見て笑いながら、他の仲間は着替えをし始めた。

 もちろん俺は両腕に二人の体温を感じつつ、アイドルたちが見せる魅惑な景色を眺め続ける。

 例大祭後には、更に美少女度が上がった着替え姿を拝見できるだろう。



 +++



 夏休みに入り、ドラマの撮影も急ピッチに進む。

 それまでは脚本が出来上がるスピードもあって、放送が撮影に迫ってきていた。


 高校生の恋愛の話だから、出演者も高校や中学に通っている子がそれなりに多い。

 そんな彼ら彼女らが夏休みの間に、クランクアップを目指すのが目標だ。

 俺は例大祭の準備等で結構忙しいが、そこまで出るシーンが多いわけではないので大丈夫だろう。



 +++



 最初に脚本や監督が考えていたより、出演シーンは増えているそうである。


 とはいえ、展開に関しては特に変わりはない。

 俺は辻井君が演じる男主人公の憧れの女性だけど、最後には女主人公が選ばれるという話である。

 そんな幼馴染である両主人公による恋愛の駆け引きが主題だ。


 俺演じる都田とだ 早希子さきこという美少女は、主人公に異性として好意を持っているわけではないという設定。

 あくまで友人知人としての見方なので、それを意識しながら男主人公や視聴者を魅了してくれというのが脚本や監督からの注文である。


 ようするに、普段からやっていることをそのままに撮影へいどめば良いだけだ。

 稀有な美貌に穏やかな笑顔を浮かべ、耳に心地良い美声で台詞を口に出す。


 そう、神様チートの演技力を発揮する必要も無い。

 まぁ、この顔や声も神様チートなのだから、全く使用していないとは言えないが。


 視聴率に関しては、人気脚本家によるこれまでの作品の平均はあるので特に問題にはなっていない。

 ストーリーが絶賛されているわけでもないが、重要な役とはいえ主役ではない俺にとっては無難な女優デビューと言えよう。


 神様チートの演技力が、火を噴くのはこれからだ。

 もっとも超絶美少女アイドルなので、マネージャーの種山さんは演技の仕事を取るのに悩んでいるようである。

 俺のイメージを崩す役とかは、俺もプロダクションも避けたいだろう。

 それに例大祭後には内部グループのいずれかに入り、六期生統括の種山さんの手から離れて、その内部グループのマネージャーが引き継ぐことになるし。


 と、このような感じで人気投票の結果が発表される例大祭を迎えるのだった。

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